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お姉さんと僕  作者: 埴輪庭
第3章

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第31話「日常㊺(御堂 聖 他)」

 ◆


 僕は結構卑屈だと思うんだけど、全く取り柄がないわけでもない──と思う。


 ほかの人には難しい事が僕には出来る。それをまず認めたいと思っている。僕に何ができるのかといえばそれは──


 僕の前髪がふわりと揺れた。


 僕は咄嗟に「あのっ」と声を掛ける。すると目の前に半透明の女の子が現れた。小学生くらいかな。何の変哲もない浮遊霊だ。


「どうしたの?」そう声を掛けると、女の子は『わからないよぉ……』と泣き出してしまう。


 参ったな、と思っていると──


『僕が一緒に探してやるから泣くなよ』と声。見れば、いつの間にか傘の男の子が立っていた。


 女の子は一瞬ぽーっとしたように男の子を見る。まあ良く見るとすごい美形だからね彼……。整った顔立ちに、少しだけ憂いを帯びた瞳は女の子っぽくも見える。大きくなったらどんな王子様になるやら……って、成長とかするのかな? 


 傘の男の子は女の子の手を取って、『おいで、ここだと悪い奴に食われちゃうから』と、そう言って僕の方へと手を伸ばしてきた。

 

 挿絵(By みてみん)


「えっと……」


 一体なんなのだろうか? 僕が戸惑っていると──


『もう、愚図だなぁ。僕の手を取ってよ。この子一人だけじゃお兄さんの中へ帰れないじゃないか。()が要るんだよ、こういう事には。別にいいでしょ? 一人くらい増えても』


 美形が怒ると怖い。僕はウンウンとうなずき、傘の男の手を取る。すると、男の子も女の子も揃って消えてしまった。


 これはどういうことなんだろう。


 傘の男の子が僕にとりついている? のはまあわかる。でもあの女の子も僕に取り憑いたみたいな感じなの? ……まあ別にいいか。考えてみれば、情報収集のために協力してもらっている浮遊霊の人たちも僕の中にいるし、今更女の子一人増えたところでなんてことはないか。それに、体調が悪くなったってこともないしね。


 それにしてもあの子は普通だったな。普通に話が通じたし、感情も豊かだった。


 全ての霊がそうとは限らない。中には、話が通じないどころか、問答無用で襲いかかってくるような奴もいる。前に話しかけた浮遊霊のおじさんは、まさにそういうタイプだった。


 僕が話しかけると口をあけて僕を食べようとしてきたし。胸のあたりまで大きく口が開いたのを見た時は漏らすかと思った。電信柱にずっと話しかけていたから心配になって声をかけたんだけどさ。


 そういえば茂さんが連れてきてくれたおじさん──八田野 光風さん(第25話「日常⑰(聖、他)」参照)から教えてもらったことだけれど、霊の類っていうのは「認識」することでちゃんと見える様になるらしい。「認識」っていうのはまあ色々複雑なんだけれど、その霊の人格を認めてあげるというか、認知してあげるというか。


 ただそうする事でデメリットもあるみたいだ。


 八田野さんはこういっていた。


『人とねぇ、一緒なんですよ。人間の中にもね、ほら、ちょっと優しくされただけでつけあがって、“こいつには何をしてもいいんだ”みたいにとんでもない勘違いをする奴がいるでしょう? 幽世の者たちもね、まあ同じなんですわ。気づかない、認知しない──それが正解になるような相手もいる。ま、その辺は見極めないと私らみたいなものはあっさり死んでしまいますわな』


 八田野さんと話して、僕はなんとなくこれまで抱いていた霊とか怪異とか……そういうものへの見方が変わった。彼らは異常な存在とかじゃなくて、単に僕らと住んでいる場所や文化が違うだけなんだと。


 僕はふと、北センチネル島の事を思い出す。裕から教えてもらった事なんだけれど、インドの方に浮かぶ未開の島らしい。そこには原住民がすんでいて、よそ者を見ると襲い掛かるのだとか。


 でもその原住民だって仲間同士ならそんな事はしないわけで……つまり、文化の違いってやつなんだとおもう。


 ──『いや、あいつらにとっては、俺たちの方が侵略者なんだよ。自分たちの文化や生活を守るために、必死で抵抗してるだけだ』


 裕はこんなことを言っていたっけ。それにしても裕やアリスはどうしているんだろう。あの二人の事だから大丈夫だと思うんだけど……。


 茂さんや悦子さんも心配だ。まあこちらはどこかに保護されているみたいだし、クロを通じて安否は分かる。それに皆も僕の事を心配してくれているとおもうし、早く元気な所を見せないと。それにしても高田馬場まですぐ着くと思ったのに、おもったより遠いなあ。


 ところであの世にも文化とかあるのかな? 少年チャンプの漫画に、死神が主人公の漫画があるんだけど、その漫画ではあの世にも社会があって文化があって──みたいな感じだった。


 あっちの世界の住人がこっちの世界にこうも沢山いるのは、“あの世”がとんでもない世界だからだったりして──なんてね。

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最近書いた中・短編です。

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そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
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※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
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「キックオーバー」
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