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悪夢再び ※ちょっとエロいです

エレノアは夢を見ていた。

その夢の中で、エレノアはまるきり理性が働いていなかった。

ブラザー・ギャラハッドの腕に抱かれ、彼の顔を見つめていた。

エレノアは自身の欲のままに彼の唇に口付けをして、貪るようにその唇を味わっていた。


「――はぁっ!」


エレノアは思わずその幻視を振り払おうとするかのように拳を振るっていた。

そして、それは現実世界において、彼女の右手が壁を殴っており、砕けたギプスが粉々になっていた。


「あなたは何故、そう破壊衝動に突き動かされるのですか。拳が本当に治らなくなりますよ」

「……大変申し訳ございません」


自分の手を包帯で固定し、動きを確認しながらシスター・モルガナはため息をつきながら、エレノアを厳しい目で見据えていた。

申し訳ない、という言葉の通りに項垂れて反省しているらしいエレノアを観察しながらも、モルガナはそうしたエレノアの表情に何か、口にしがたい後ろめたさが隠れていることを感じ取っていた。


「……何かありましたか」


エレノアの手を軽く掴み、その骨が既に治っていることを確認しながらモルガナは問いかけた。

傷の治りが早い。

全治三か月、と言われていたはずの怪我だが、僅か二か月で彼女の骨は既に治っていた。

だが、万全を期すのであれば日常的な範囲の聖務を行い、手の感覚を取り戻させるべきだろうとモルガナは判断していた。

エレノアはモルガナの問いに対して、口ごもるように黙っていた。

普段は異端者を前にしても、押収物を前にしても怯むことのないエレノアのその姿にモルガナは静かに目を細めた。


「後ろめたいことがあるならば、今すぐ懺悔しなさい。自分の中に罪の兆しがあったのですか」

「……夢を、見たのです」


エレノアは観念したように、静かな口調で呟いた。


「夢の中で私は、男性に抱かれ、彼の唇に口付けをしました。貞潔の誓いを汚す行いをしていたのです」


ただの夢、そう断じても構わない内容ではあった。

だが、それはエレノアにとって許せないことでもあった。

自分を助け、信仰の道に導いてくれた恩人であるギャラハッドを夢の中とはいえ、汚してしまったのだ。

その罪悪感がエレノアの心臓をきつく締め付けていた。

モルガナはエレノアの懺悔を聞きながら、彼女の顔を見つめていた。

名前こそ出してはいないが、エレノアが夢の中で誰に抱かれたのかはモルガナにも分かっていた。

モルガナは一度目を伏せてから、静かに彼女の瞳を見つめた。

エレノアの瞳は揺れ、迷いを抱いていることは明白だった。


「いいですか、シスター・エレノア。夢は夢、ただの幻です。大切なのは現実の肉体を堕落させないこと。あなたの行為そのものがあなたの信仰による行いであることが重要なのです」


モルガナとて欲望を抱くことは否定しない。

ましてやエレノアはまだ十代の少女だ。

その若い肉体が相応の欲求を抱いたとしてもそれは咎めることではなく、正常な肉体の反応だということがモルガナには理解できた。

それでもまだエレノアは迷いを晴らせずにいた。

モルガナは手当を終えた彼女の手を膝の上に置かせると、改めて彼女に問いかけた。


「あなたは肉欲に敗北し、堕落することを選びますか。それとも、欲望と向き合い、自らの信仰のために戦いますか」

「私は、信仰のために戦います」


エレノアの言葉は揺れていなかった。

信仰が揺らいだわけではない。

そして、だからこそエレノアは罪悪感を覚えていたのだ。


「ならば戦いなさい。あなたの拳はそのためにあるのです」

「はい、シスター・モルガナ」


モルガナからの言葉を受け止めて、エレノアは静かに頭を下げていた。

日常的な聖務への復帰。

エレノアは聖堂の清掃を行った後、静かに中庭で佇んでいた。

自分が怒りのままに殴りつけた木の幹はまだ傷が残っている。

エレノアは静かに目を伏せながら、静かに自分が今朝見た夢を考え、そして地面へと視線を落としていた。


「何をしている、シスター・エレノア」


不意に聞こえた声に肩を跳ねさせながらエレノアは背後を振り向いた。

そこにはブラザー・ギャラハッドがいた。

彼はエレノアの右手がギプスではなく、包帯で包まれていることに眉根を寄せていた。


「まだ検診の日ではなかったはずだが?」

「……夢にうなされ、壁に叩きつけてしまいました」

「何をしておるのだ、そなたは」


思わずギャラハッドは呆れたような口調で呟いたが、申し訳なさそうに項垂れるエレノアの様子にそれ以上鞭打つようなことはできず、頭をかきながらエレノアの隣に並んで立った。

エレノアの適正に関しては疑っていない。

だが、今のエレノアは迷いを抱いている。

ギャラハッドにはその原因が分からなかったが、ただ横目にエレノアを睨むように見つめていた。


「そなたの拳はなんのためにある」


そうギャラハッドへと問われ、エレノアは未だ包帯に包まれている自分の拳を見つめ、ぐ、と手首を強い力で掴んでいた。

自分の拳、その力を神に与えられた使命と受け止めたエレノア。

そしてその拳は何と戦うためにあるのか、ギャラハッドは今一度、エレノアの戦う理由を見つめなおすように促していた。

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