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旅人旅行録  作者: ヒロ
7/11

攫われっ娘護送録その2

「チッ」


 私たちが広間に入ったとき、真っ先に聞こえたのは歓迎の祝詞ではなく小さく、陰湿で、恐ろしくはっきりと聞こえる舌打ちであった。音の発生源を見れば女が宙吊りになった状態で苦虫をかみつぶしたかのような顔をしている。なんでだろ~な~。


「ね~ね~この酒飲んでい~い?」


 私は奴さんの神経をこの上なく刺激するであろうウザったい声を出しながら声をかけた。奴さんの青筋がビキビキ浮かび上がっている。効果てきめんだ。


「・・・・・・勝手にしろ」


「あいあい。ありがた~くいただくわ。あっダリアちゃんなんかおつまみいる?出来合いのでなんかつくるよ~」


 ダリアちゃんの方に目を向けながら尋ねるとその顔にはしたり顔が滲み掴んでいた。はちゃめちゃんこにカワイイ。酒の肴にするにはすご~くもったいないなこの顔。


「えっあぁそれじゃぁジャーマンポテトお願いします。私アレをつまみながらお酒飲むの大好きなんですよ」


「りょ~かい。ジャーマンポテトね。ナイスセンス。ワイングラスとかあるかな~」


「料理以外は私がやりますよ。流石に全部任せっきりは悪いですし」


 私たちはそろって料理場へ向かった。いい子だな~ダリアちゃん。こりゃ婿の貰い手には困らんじゃろ~。


 私はぱぱっとジャーマンポテトを作る。何よりも誰よりも早くあつあつうまうまジャーマンポテトを作らねばならん。その一心で爆速でジャーマンポテトを作る。魔法を贅沢に使いまくり、火加減を整えながら時間加速を組み合わせ、目にもとまらぬ速度で料理を完成させた。


 広間の方に目をやればダリアちゃんが丁度テーブルを整え終わっていた。丁度さぞ憎々しく想っているであろう人攫い共の頭の目の前の席に恐ろしくいい顔をして陣取っていた。お酒もたっぷたぷに注いでくれてる。超絶嬉しい。酒飲みの気持ちをよ~く分かっておられる。好き。らーびんゆ~。


「お待たせ~ダリアちゃん。飲も飲も~」


 私は大皿いっぱいのジャーマンポテトを携えてダリアちゃんの元へ行く。ぶっちゃけこんなに要らない。でもまぁ興が乗りすぎたのです。許してちょ。味は良いから。そこだけは保証する。


「えっもうできたんですか!?早!?しかも多!?こんなに食べきれないですよ~」


「安心しぃ。こんなんすぐなくなるよ多分。イケるイケる」


 私はあつあつうまうまジャーマンポテトをテーブルに載せながら軽口をたたく。なんかダリアちゃんめちゃめちゃ食べたそうな顔してるしもーまんたいもーまんたい。


 席に着きグラスを手に取る。こんな状況で酒飲みがやる事と言えば唯一つ。おもむろにグラスを掲げ


「そんじゃ、私たちの前途に~」


「「乾杯」」


 グラスを割れないように全力で気遣いながらぶつけ合う。直後に口いっぱいにワインを流し込む。これぞ至福。これぞ至高。酒飲みが一番幸せになれる瞬間。異論は認めよう。だってこれからしばらくはずっと幸せなのだから。


「はぁ~やっぱいいワインはいいですねぇ~筆舌に尽くしがたき喉越しです。甘くておいしー」


「ダリアちゃんやダリアちゃんや。酒飲み中は酒の味の評価だなんてつまんない事せずに愚痴と惚気をたれ流すもんじゃぜぇ~」


 ダリアちゃんはほんの一瞬驚いたかのような顔をうかべた後、ふにゃっと顔をにがませた。超絶カワイイ。至上の芸術にすら勝る笑みだ。この子が今、世界で一番カワイイ。


「それもそですねぇ~。このお酒が美味しい事なんて自明の理ですからねぇ。野暮ってもんですよ~。へへへへへ。あっジャーマンポテトいただきま~す」 


 酔ってんな~これ確実に。お酒回るの早いな~あぁいやこの場合は体質云々よりも度数の影響の方が大きいか。これはちゃめちゃ飲みやすいけど度数20%は優に超えてそ~だし。レディーキラーだねぇ。まぁバーで出すには高いなコレ。


「貴腐ワイン最初に開けたのね。てっきり最後に開けると思ってた」


「へへへ~最初に飲まなきゃもったいなにゃぃですよ~こんないいお酒に他のお酒の味が混ざっちゃや~ですからにぇ~」


 あかん呂律回ってないダリアちゃん可愛すぎる。酒止まらぬぞこれ。なにかしらで中和するか。


「そ~いやあんたなんて名前なん?どこ出身?なんで人攫いなんてやっとるん?なぁなぁなんでな~ん?」


 目の前の吊るされたままの女に向けて語り掛ける。入室時の煽りよりもウザったい声になるよう意識しながら。相手の神経を全力で逆なでできるように。


「チッ話しかけんな」


 そっぽ向かれた。悲しい。吊るされたままであるが故か全然そっぽ向けて無い。なんかムカつくな。お仕置きしちゃおっかな~?


「当ててあげましょ~か~?」


「はぁ!?」


 ダリアちゃんがワインをラッパ飲みしながら呟いた。飲み方荒いな~この娘。カワイイ。よくよく見ればすでに貴腐ワインの瓶が空になっていた。かなりこの娘ペース早いな~。


「シェリー・コルデー。27歳。コルデー元男爵家の三女。やんちゃでよく町にお忍びで出向いては町の子供たちと喧嘩三昧の幼少期を送っていた。7年前、コルデー元男爵が行っていた税金の横領が国にバレて爵位を没収され一家は散り散りになった。食うに困って犯罪組織を立ち上げた。持ち前の才覚で今までは何とかやってこれたけど今回スピカさんにやられて絶体絶命。ってとこでしょ~か?」


 急に凄まじくすらすらと完璧な呂律の元喋りだした。さてはこの娘だ~いぶ余裕あるな。こわ~。この娘一人でもう1瓶よゆ~で枯らしてるのにまだまだいけるん?すご~


 一方吊るされ中の二十代没落貴族令嬢シェリーちゃんは図星過ぎたのか目をかっぴらいたまま硬直している。口もかな~りかっぴらいてる。流石の間抜け面。かな~りおもろい。


「ふへへ。私は商人の娘ですからね~情報収集に関してはぬかるなってお父様に耳にタコが出来るまで散々教え込まれたんで~すよ。どやさぁ。すごいでしょ~」


「いいねぇ。酒の肴がサイコ~に美味しくなったよ。そ~いやお酒の進みがめちゃめちゃんこにいいけどだいじょ~ぶ?」


 ダリアちゃんは急に真顔になり、こう告げた。


「ダメです」


 唐突にダリアちゃんが椅子から音を立てて崩れ落ちた。唐突すぎて何もできなかった。初めて見るタイプの酔い方だ。


「あ~りゃりゃ。潰れちゃったか~。まぁ体力も落ちてたろうし妥当なのかな?うん」


 ダリアちゃんをヒョイと肩に担ぎあげる。軽い。15~6歳くらいかなと思ってたけどやたら軽い。30キロくらいしかないかも。コレお酒飲ませちゃダメだったのでは?


 ・・・・・・まぁいいか。


「じゃ、区切りとして丁度いいし私達寝るわ。おやすみ~」


 返事も聞かずにちゃっちゃと部屋を出て2人を寝かしつけた部屋に向かう。後片づけなんてしなくてもいいでしょ。ど~せ明日には出ていくし。


 二人を起こさないように静かに部屋に入りダリアちゃんをベットに寝かす。3人くらいならまだ結構余裕あるし他の寝床はそんなに状態良くなかったししゃ~なしよ。


「んじゃ3人共。おやすみなさい。いい夢見なさいよ」


 明日はこの子たちを生家に送り届ける予定だし沢山歩くだろうからたっぷり寝てもらおう。3人の頭をなでて愛でてると眠くなってきた。私もいい夢を見るとしよう。おやすみ。









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