越冬録 その1
ダリアちゃん家に着いた直後、手厚い歓迎を受けた私たちは今、広間にて夕食を御馳走になっている。
娘を連れ帰ったお礼らしい。美味しいが8人分にしてはやたら量が多い気がする。
私が縦に5人分、横に1.5人分くらい横になれそうな長テーブルにこれでもかと料理が並べられている。多分この世界では金持ちは残るぐらい食事を用意する習慣があるのだろう。
「この度は私の娘ダリアを助け出して頂き心から感謝致します。まずは腹を満たし、ごゆるりと体を御休め下さい」
顔が見えないので誰が言ったのか確証は無いが、多分ダリアちゃんの母親からちょっと聞き飽きてきた言葉が飛んできた。顔が見えないくらい料理積むのはホントにどうかと思う。だがしかし、この世界の習慣である可能性を鑑みて、ぐっと口を噤む。
促された通り料理に手を付ける。どれもこれも美味しいがどうにも口に合わない気がする。多分高級食材ばっかりなのだろう。庶民舌には少々キツイ料理達だ。
少しすると、皆の顔が見えるようになってきた。テーブルの上の料理がそれなりに減ってきたのだろう。私以外の全員の手が止まる気配が無いため、まだまだ減る事だろう。
そして、私の手が止まり尽くした頃、テーブルの上の料理が一つ残らず尽きた。山のような量有った食事が尽きた。私100人分くらいありそうな量の食事がたった7人に食べ尽くされたのだ。怖い。この世界怖い。物理法が人類にひれ伏してる。
「スピカ殿、これから晩酌をするのですが、ご一緒にどうですか?」
まだ腹に入れる余裕があるのか。凄いな。怖くなってきた。
「ふむ。ではお言葉に甘えるとしましょうかね」
この機に見返りの話にケリをつけておきましょうかね。正直なんらかは貰わないと気が済まないって態度だし。
私はワインセラーが壁一面に備え付けられたまるで酒をたしなむためだけに用意されているのかと思うような部屋に案内された。凄まじい本数だ。ぱっと見50本はあ。しかも高そうな酒ばっかだ。落ち着かないなぁ。
「スピカ殿は赤と白どちらにしますかね?それとも蒸留酒の方が良いですかな?」
ふむ。遠慮するのは失礼だな。欲張るか。
「では、よろしければ蜂蜜酒を」
「蜂蜜酒ですか。それならばバルト産の上質な物がありますのでこれを開けるとしましょう」
ヴォルフレット男爵殿は自分用と思われる赤ワインと多分私用の蜂蜜酒をもってきてくれた。お名前?まだ名乗られてないから知らない。コップも氷もすでに机に置いてある。部屋に入ったときには用意されていたから晩酌趣味があるらしい。
「そういえば名乗り忘れていましたね。私はダミアン・ヴォルフレットと申します。この度は娘を連れ戻して頂き誠に感謝いたします」
「ど~いたしまして。それより、そう畏まった口調はやめてくださいませんか?酒が不味くなります。地位もそちらの方が高い訳ですし」
「一理ありますな。ではそちらもぜひ普段通りの口調で構いませんよ」
「了解です。では、早速」
「「乾杯」」
蜂蜜酒を口に運ぶ。凄まじい度数だ。75%はあるだろう。この前のワインと言いこの世界の酒は度数の高い酒しかないのだろうか?甘味はそれなりに感じるが正直酒精が強すぎてよく分からない。決して私の舌がバカ舌だからというわけではない。まぁ美味しいからいいか。
「つまみは御入用ですかな?」
「いえ結構。それよりもこうして私を誘ったのには何か理由があるのでは?例えばしたい話があるとか?」
「ご明察。単刀直入に言うのであれば娘を助けていただいた礼がしたく、要望が聞きたいと思いお誘いしたのですよ。何か欲しいものなどはありますかな?宝石でも国でもなんでもご用意いたしましょう」
うん?いま国つった?は?国くれんの?こわ~。いらね~ふむ。まずは無茶振りするか。
「じゃあ2カラットの純粋正六方晶ダイアモンドが使われた指輪でもいただきましょうかね」
私の世界じゃ世界中探したってないであろう無理難題物体の要求。流石に無理じゃろ。
「ふむ。ロンズデーライトならばたしか丁度在庫がありましたな。2カラット以上のものもあったはずです。流石に指輪等への加工はまだだったと思われますので少々お時間を頂きますがよろしいですかな?」
「あんの?まじで?・・・おっと失礼」
「ええ。嘘など一つもついておりませんよ」
ただの冗談だったんだけどいけるらしい。凄いなこの星。貴重資源の塊かよ。
「まっまぁ今のは冗談として、ふむ、何を頂こうかねぇ」
私は旅をしたい訳で、まず路銀に困らない旅はつまらないから金は論外としてどうしようかな。そういえば空気を読むに今って秋半ばとかそんな感じよね?多分
「ここら辺って冬キツイ?」
「ええまぁそれなりには。本格的に降り始めたら私くらいは雪に埋まるでしょうな」
結構降るな。旅始めは越冬してからの方が良いか。
「じゃぁ冬が過ぎ去るまでの間、食客としてここに置いといてくださる?」
「構いませんよ。むしろ当家が潰れるまでもてなし続けたいところですが」
なんか言い方変だな。へんな予感する。まぁ流石に気のせいでしょ。うん。資金繰りは悪い訳無いしな。ロンズデーライトを売れるような商家が潰れる意味分からんし。
「ところでスピカ殿はいわゆる界渡りという奴なのですかな?」
なにそれ?私がいた世界では聞いたこと・・・あ~そういえばあの覗き魔の図書館で見たな。たしか・・・
「あぁたしか界渡りをした方々にはこれでは通じないのでしたね。異世界から来たヒトと言えば分かりやすいですかな」
「まぁそうだけども。なんで気付いたの?てか割と他の世界から人来てるのねココ」
「商人としての勘ですよ。なんとなく、貴方は私の知らないタイプの人間であるように見えたので」
なるほど。商人こっわ。
「私の何百倍も長く生きている存在など見たことがありませんでしたので。この世界には居なかった存在なのではないかと。そう思っただけですよ」
海千山千の商人ってこうも化けるのか。怖いな~関わりたくないな~夜逃げでもしようかな。
「ご安心を。貴方に対しそう深く踏み入るつもりなぞありませんよ。不老の肉体にも毛ほども興味がありません」
「そうなの?珍しい。じゃあまぁしばらくは御厄介になるとしますかね」
私はグラスに残った蜂蜜酒をグイッと呷る。喉がキッツい。でも美味しい。
「それじゃ、私はこれぐらいでお暇させてもらうね。じゃ、おやすみ」
「客室はお好きにどうぞ。客人がいないときも手入れをしていたので部屋は整っておりますよ」
「ありがとさま。礼代わりに良い事教えてあげる。私の実年齢にはあんた様の年の数百倍じゃ桁が足りないよ。じゃ、いい夢見てね」
私は部屋を後にした。今日は気分が良い。いい夢が見れそうだ。客室がどこかは分からないがまぁ誰かに聞けばわかるでしょ。それじゃぁおやすみなさ~い。




