攫われっ娘護送録その4
街に辿り着いた私たちは何故か簡単に門をくぐる事が出来た。常識的に考えてボロ布をまとった3人の少女と痴女とデカい鍋を持った気狂いもとい不審者を、門番が通す訳無いのだが何故か通れた。身分証的な何かの提示も無しに通れた。
しかもダリアちゃんの家まで馬車で送ってくれる超絶好待遇。私の常識がおかしいのか?これは。
シェリーちゃんは犯罪者だし指名手配犯なので門番の人たちに渡してきた。身元確認の後、報奨金が支払われるらしい。金はいくらあっても構わないからありがたい。私が門番だったらこんな気狂いもとい不審者などいなかったことにして、自分達の手柄にして酒盛りパーティでもしてただろう。実に律儀で良い門番達だ。
レンガが敷き詰められ、良く舗装された道を馬車に乗って進む。揺れもほとんどなく実に快適な車内で、対面側に座っているダリアちゃんが急に凛とした表情になり喋り始めた。
「さて、一息ついた所で改めて、感謝を。この子たちと私を悪しき違法奴隷商の魔の手から、救い出して頂き誠にありがとうございます」
急に今までのダリアちゃんっぽさの無い口調で喋りだした後、膝と額がくっつきそうなくらい深く深く頭を下げた。それにつられたのか何なのか、メアちゃんとメイちゃんも深く頭を下げた。
「どういたしまして。じゃ、はい頭上げて。私そういう畏まった感じあんまり好きじゃないの」
ダリアちゃんがゆっくりと顔を上げた、その顔は依然凛としたままである。
「願わくば今回の貴方の行いに対して、それ相応の対価を渡させてはくれないでしょうか。当家は男爵位でありながら、数え切れぬ程の伝手と大貴族にも劣らぬ影響力をもっております。その全てを持ってして、必ず貴方の求めるモノを手に入れて見せましょう」
ダリアちゃんは私の文句を聞いて尚、畏まった口調でそう続けた。
「じゃあ、その畏まった口調を今すぐやめて、今回の件は大事寄りの些事だと思うように。いいね?」
ダリアちゃんは少し、いやかなり困ったような表情を浮かべた。
「要求をのめないと言うのなら、今度は私が金持ち変態貴族の家にはした金で売り飛ばしてあげます」
「それは嫌なので畏まるのはもうやめます。正直私もこういうのあんまり好きじゃないんですよ。スピカさんはこういうのあまり好きじゃなさそうだな~って薄々思ってたんですけど、一応成り上がりとは言え貴族令嬢なので、体裁とか色々あってやらなきゃだったんですよ。すみませんね。茶番に付き合わせて」
今まで通りの優し気な表情のダリアちゃんに戻った。凛としてる方はそれはそれでカワイイんだけどとっつきにくい。
「さぁさぁ二人共顔を上げて。それ以上頭下げてるとスピカさんに売り飛ばされますよ~」
ただの冗談だったのだが本気にされていたらしく、二人が凄まじい勢いで顔を上げた。頭が千切れて吹っ飛んでいきそうな程早いもんだから、一瞬ヒヤッとした。
「それにしても本当に見返りとか要らないんですか?ウチの商会ならなんだって用意できますし、誰にだって会えますよ」
「そういうのはダリアちゃんの親御さんとお話するからダリアちゃんは気にしなくてい~の。子供が気を使ってる場が一番居心地悪いんだから。まぁ私を不快にさせたいのなら止めないけど」
なんか一瞬すごい事言ってた気がするけどきっと気のせいだろう。
「そういえばメアちゃんたちはどうするの?孤児って帰るとこ無いでしょ?多分」
「ウチらの事はダリアさんが引き取ってくれるそうです」
メアちゃんが淀みなく答えた。お話でもしてたのかな~?ってかメアちゃんとお話するの初めてなのでは?おかわりの催促しか記憶にないぞ。私こんなにコミュ力ひくかったっけ?
「こ~ら。これから家族になるんだからさん付けはやめてって言ったでしょ」
「はい。えっと、ま、ママ」
あぁなるほど。ダリアちゃんが引き取るならダリアちゃんが養母か。一瞬すごいびっくりした。驚きすぎて声も出なかったわ。メイちゃんは心底気にして無いご様子だ。今までの所作からするに食べる以外に興味が薄いみたいだ。
「メアちゃん達の前で言うのもアレなんだけども養育費とかって大丈夫なの?」
「次期当主としていくつか事業を任されてその利益が私の懐に入ってるので問題無しです。じゃなきゃわざわざ引き取るだなんて言いだしませんよ」
「ならまぁ私が口を出すことじゃないか」
ダリアちゃん達と楽しく談笑していたらいつの間にやら目的地についていたらしい。馬車が止まった。私の左手側にある車窓越しに大きなお屋敷が見える。多分流れからしてダリアちゃんの生家なのだろう。随分と大きなお屋敷だ。そこらへんの家の五十倍くらいの敷地面積がありそうだ。
目的地に到着したことを察した瞬間、左手側のドアが勢い良く吹き飛んだ。吹き飛ばされた扉が車体の右手側突き抜け風穴が空くと同時に凄まじい衝撃が車体を襲った。
そして、一瞬きも出来ない程の短い刹那の後、二人の男女が乗り込んできた。
常軌を逸した速度で、正気を無くした顔をして、馬車の中に乗り込み、慣性だなんてなんのそのとでも言いたげな、急旋回を通して速度を殺したののち、ダリアちゃんに飛びついた。が、別に敵意がまるで感じられなかったため、静観することにした。
ところで、私の世界には家族及び大事な人に会いたいからって、馬車を破壊して抱き着きに行くという金のかかる常識は無かったのだがこちらではどうなのだろうか?色眼鏡外した方がいいのかな~
「ばぁりあぁぁぁ。いばまでどごいっでたんだよお」
「ダリアぁぁぁ。お姉ちゃんを置いてかないでぇぇぇ」
おい、ばりあって誰だよおい。乙女の名前を間違えるだなんてふてえ野郎だなぁおい。泣きついている男の方をベリッと剥がす。この世界の人間はやたら強いようだからめちゃんこ強く身体強化魔法をかけてベリッと剥がした。それでも凄まじい抵抗があった。正直グガランナ持ち上げた時と同じくらいきつかった。年かな。うん年だな。うん。そうに違いない。
「ばりあちゃんとやらは知らんがダリアちゃんはお疲れだ。泣き縋る前に休ませんかい」
男は私に吊るされた状態でめちゃくちゃ抵抗してくる。キツイ。でも頑張る。こんな乙女心を知らない男をダリアちゃんには近づけてなるものか。雰囲気からしてほぼ確実に兄とかそんな感じだけど近づけてなるものか。
カオスな状況に可愛い二人が目を丸くして固まっている。実に可愛いもとい可哀そうだ。しかし悲しいかな。現実は非情なようでさらなる変数が少女らの脳を襲った。
馬車にもう一人の男が近づいてきたのだ。燕尾服を身にまとう身なりの整った推定60代の男性が。
その所作にはこの上ない落ち着きが見て取れる。がしかし、挙動はまさに異質そのもの。
やんややんや騒いでいる馬車内部の人間に気取られる事無く近づいたかと思いきや、馬車に指を食い込ませ、軽々と持ち上げたのだ。乙女心知らずが力いっぱい暴れ常に揺れ動く馬車を、まるでわたっこを持ち上げたのかと思わせるほど軽々と。
馬車を軽々と持ち上げた状態で、彼は屋敷の敷地内へと移動する。その所作には、仮にこの状況を見ていた者がいたのなら、確実に停車用スペースへ誘導しただけだと思わせる程の説得力を秘めていた。
たとえ、馬車を持ち上げていたとしてもだ。車内は唐突な浮遊感により約3名を除き、冷静さを取り戻していた。
ダリアちゃんはまたかとでも思っているかのような顔を浮べており、ダリアちゃんの姉を名乗る者は、ダリアちゃんをより強く抱きしめ、聞き取れない声を上げた。兄らしき何者かはスピカの手の中でなおもがむしゃらに暴れ続けている。メアちゃんはあまりの情報過多により意識を手放し、反面メイちゃんは処理しきれたのか、はたまた処理することを諦めたのかは分からないが、まさに凪を感じさせる顔を浮べていた。
そんな混沌入り混じる車内に一つの声が飛び込んできた。
「ヴォルフレット男爵家へようこそ。仔細は聞き及んでおります。貴方様方を我々ヴォルフレット家は歓迎いたします」
推定60代初老男性は燕尾服に皴一つ無いまま、馬車を降ろし、歓迎の礼を行った。本来ならドアを開けながら、或いは開けた後に言うのであろうが、今はドアが無いためその工程は省略された。
「あぁまぁうん。アタリかな。うん。ハハハ」
スピカの乾いた笑いが、やけに遠くまで響いた。
グガランナは簡単に言えばデカい牛です。スピカが持ち上げたグガランナは体高100mくらいです。小さくてカワイイネ♡




