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孤児院『翼の家』

 僕はギザの街の領主様の屋敷で暮らすことになった。領主様の娘のエリーナと護衛のサモンと街を歩いていると、スリをした少年を保護することになった。少年と一緒にスラム街の家に行ってみると、そこには兄の帰りを待っている幼い妹がいた。僕達は2人を保護して領主様の屋敷に戻った。



「ショウ。その子達はどうしたんだ?」


「この子達は両親がいないんです。だから、領主様に相談しようと思って連れてきたんです。」


「そうなのか?だが、両親のいない子どもは他にもいるぞ。」


「多分、そうだろうと思いました。だからこそ領主様に相談したいんです。」



 そうこうしているうちにエリーナが戻ってきて、中庭に来るように言われた。僕はジョンとケリーを連れて中庭に行った。ロベルト達もサモンも一緒だ。



「ショウ。私への相談とはどんなことだ。」


「はい。領主様。この子達には両親がいません。他にも同じような子ども達もいると聞きました。この街に是非孤児院を作っていただきたいんです。」


「孤児院?それはどんなものだ。」


「はい。親のいない子ども達を保護して、しっかりと教育を施す場所です。」


「王立学院のような学校を作れというのか?」


「王立学院がどのようなものなのかは知りません。ですが、両親のいない子ども達に食事を与え、将来働くことのできるような教育ができる場所が必要です。」



 領主様は目をつぶってじっと考えている。ロベルト達は僕の意見に驚いたようだ。



「予算の確保が厳しい中、どんなメリットがあるというのだ。可哀そうだからとかそんな理由だけでは領民達が納得しないぞ。」



 確かにそうだ。領地の運営に関しては領民達からの税収で賄われている。その使い方が無駄だと思われれば、領民達に不平不満が溜まり反乱がおきるかもしれない。



「領主様。子どもはこの国の宝です。今は何の能力も発揮できないかもしれません。ですが、彼らが十分な教育を受けることができたらどうでしょう。その能力を開花させ、将来この領地の役に立てるかもしれません。」


「確かにショウの意見ももっともだ。だが、予算はどうするのだ?」


「孤児院の運営には、半分を領地の予算から出していただき、残りの半分は領民からの寄付と子ども達に簡単な仕事をさせてはどうでしょう?」


「この子達に仕事をさせるのか?」


「はい。例えば街の清掃活動や、引っ越しのお手伝いなどの簡単な仕事を冒険者ギルドからまわしてもらうのです。」

 

「なるほどな。」



 再び領主様が考え込んでいるようだった。すると、エリーナが領主様に言った。



「お父様。私はすばらしい考えだと思います。このことを国王陛下が知れば、もしかしたら国全体で孤児院ができるようになるかもしれません。その先陣を切ってはいかがでしょうか。」



 ロベルト達も援護してくれた。



「領主様。俺達からもお願いします。建物なら教会の隣の空き地に俺達が作りますから。」



 サモンも賛同してくれた。



「領主様。子ども達が悪の道に入っていくのを防ぐこともできます。人身売買で子ども達が犠牲になることもなくなります。私も素晴らしい考えだと思います。」



 領主様が目を開いた。そして、みんなに言った。



「わかった。孤児院とやらを作ろう。ロベルト!サモン!頼んだぞ!」


「ハッ!お任せください!」



 ロベルト達とサモンはその場から出て行った。残っているのはジョン兄妹と僕達だけだ。



「孤児院ができるまで1か月はかかるだろう。その間、わが屋敷で働くがよい。」



 2人は驚いている。



「お兄ちゃん。よかったね。」


「う~ う~ あ、あり、が、とうご、ざいます。」



 ジョンはお礼を言おうとしているが言葉にならない。今までの苦労が思い出されているのだろう。


 その後、2人はメイドに連れられていった。僕は応接室に来るように言われ、行ってみるとそこには領主様とエリーナがいた。



「ショウ。そなたは本当に何者なんだ?なぜ記憶をなくしたそなたが孤児院なるものを知っているんだ?」


「ただ何となく思い出しただけです。」



 エリーナも不安そうな顔で僕を見ている。何かを怪しんでいるのかもしれない。



“どうしよう?リル。”


“このまま押し通すしかないでしょ!”


“そうだよね。”



 すると、領主様が言った。



「そなたは不思議だな~。誰もが危険だと思っている深淵の森で3年間も暮らし、さらにはとんでもない強さと未知の知恵を持っている。ショウは神の使徒様なのか?」


「いいえ。違います。神様にあったこともないですし、本当に神様がいるのかどうかすらわかりません。ただ、・・・」


「ただなんだ?」


「ただ、生きるのに必死なだけです。」



 エリーナが僕のところにやってきた。そして僕の手を握った。



「私はショウ様が神の使徒様だったとしても、そうでなかったとしても、心優しいショウ様が大好きです。」



 これには領主様も困った顔をしている。エリーナは領主様が男手ひとつで育てた一人娘。つまりは跡取りなのだ。本来は貴族と結婚するのが普通なのだ。



「エリーナ。お前はマーガレットによく似ているな~。」


「そうですか?」


「ああ、お前の母親も曲がったことが嫌いで正義感に溢れていたよ。それに自分の気持ちを素直に口にする。誰にでもできることではないな。」


「嬉しいです。」



 それから数日の間は、午前中にマイヤー先生の授業を受け、午後からエリーナと一緒に孤児院の建設地を見に行った。



「ショウ。来たか。どうだ。大分出来上がっただろう。」


「そうですね。さすがロベルトさんです。街の人達がこんなに協力してくれるなんて。」



 すると、ミックが教えてくれた。



「当たり前だろ!隊長はこの街の英雄なんだぜ!隊長が声をかければ断わる奴なんて誰もいやしねぇよ。」


「ミックの言う通りだ!」


「おい!ミック!ローランド!口じゃなくて手を動かせ!」


ハッハッハッハッ



 教会の隣の空き地は結構広かったが、建物が建つと意外と狭く感じた。それだけ建物が大きいのだ。恐らく20人程度は暮らすことができるだろう。すると、エリーナが聞いてきた。



「もうじき完成ですね。孤児院の名前はどうするんですか?」


「えっ?!」


「ショウ様が発案者なんですから、ショウ様がお決めになってください。」



 孤児院の名前なんて何も考えていなかった。僕はいろいろと考えた。あ~でもない。こ~でもない。なかなかいい案が浮かばない。僕は学校に行けなかったときに何を願っただろうか?森で一人で生活を始めた時に何を願っただろうか?いろいろなことが思い出された。



“そうだ!僕は自由になりたかったんだ!不安と恐怖から自由になりたかったんだ!”



 そんなことを考えていると、ある言葉が頭に浮かんできた。それは『翼』だ。何も考えず、何物にもとらわれず、自由に大空を飛び回る。翼があったらどんなにいいだろう。



「『翼の家』なんてどうですか?」



 エリーナも満足のようだ。



「いいですね。さすがはショウ様です。子ども達が希望をもって社会に飛び立って行けるようにってことですよね?」



 前から思っていたが、エリーナは頭の回転がいい。人が考えていることをくみ取る能力があるようだ。サモンもエリーナの言葉に納得したようだ。



「エリーナ様は凄いですね。私はショウ殿がそんな意味を込めていたなんてわかりませんでしたよ。」



ニコッ



 エリーナが微笑みながら僕の手を掴んできた。リルがその間に割って入ろうとしている。



“リル!どうしたんだよ!”


“なんか。ショウはデレデレしすぎよ!”



 なんかリルの機嫌が悪い。


 それからさらに数日が過ぎ、いよいよ『翼の家』が完成した。そして、今日式典が行われる。式典に参加するのは、領主様、エリーナ、ロベルト、サモン、僕、そして親のいない子ども達。さらに子ども達の世話をしてくれる司教様と修道女の皆さん、それに街の人達だ。


 

「みんなよく集まってくれた。この街では親のいない子ども達も安心して暮らせるようにしていくつもりだ。その一環としてこの『翼の家』を作ることにした。我々大人が協力して、子ども達のことを我が子のつもりで育てていこうではないか!」


「おお!!!」


パチパチパチパチ



 式典が進んで建物の中を全員で見学する。部屋は2人部屋だ。広い食堂もある。さらには勉強するための図書室や教室まであった。



「領主様。すばらしいです。僕が思っていた以上でした。」


「そうか。ショウの考えの上をいったか。それはよかった。ハッハッハッ」


「お父様。喜びすぎです!」



 そんな幸せな時間は長く続かない。兵士が慌ててロベルトのところにやってきた。



「何があった?ロベルト!」


「はい。郊外にワイバーンが現れたようです。」


「ワイバーン?」


「はい。恐らく群れからはぐれたのでしょう。ワイバーンは1匹のようです。」



 ロベルトからの報告を聞いて領主様はすぐに命令した。



「ロベルト!すぐに兵士を集めて討伐せよ。サモン!そなたは街の人達の避難を誘導せよ!」


「ハッ」


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