幼い兄妹を保護する!
僕はある日、盗賊達に襲われている領主様の娘エリーナを助けた。その結果、僕の能力の一部がばれてしまい、領主様の屋敷で暮らすことになった。領主様からしてみればエリーナの護衛のつもりなのだろう。エリーナからしてみれば、年の近い友達が欲しかったのだろう。
「エリーナ様。ここの計算が間違えていますよ。ショウ殿を見習ってください。落ち着いてやればできますから!」
「はい!」
今、僕とエリーナは家庭教師のマイヤーから算学の指導を受けている。内容的には、小学校のレベルだ。僕にとってはかなり余裕の計算だ。時計を見るとそろそろ終了の時間だった。
「できました。マイヤー先生。」
「はい。今度は全部正解ですね。では、今日はここまでにします。」
マイヤー先生の指導が終わった後、エリーナがニコニコしながら話しかけてきた。
「ショウ様。街に行きましょ。ショウ様は来たばかりでしょうから、私が案内します。いいでしょ?」
“ショウ。冒険者ギルドに行かなくていいの?”
“どうしようか考えてるんだよ。”
僕が返事に困っているとエリーナが悲しそうな顔で聞いてきた。
「私と街に行くのは嫌ですか?」
「別に嫌ではありませんよ。ただ、・・・」
「ただ、何ですか?」
「平民の僕と一緒に歩いて平気なんですか?」
「そんなことですか!大丈夫ですよ。ただ、フードは取ってください。一応、私は貴族ですので。」
「わかりました。」
僕がフードをとると部屋にいたメイド達から驚きの声があがった。
「綺麗!」
「本当に綺麗だわ!」
なんか気恥ずかしい。
「早く行きましょう。」
僕は下を向きながら急いで部屋を出た。すると、廊下でメイド達や使用人達とすれ違う。その度に同じ反応が聞こえてくる。
“ああ、なんか恥ずかしいよ。どうしてこんな顔に転生したんだろう。”
“ショウ!贅沢言わないの!綺麗な顔に生まれたんだからいいじゃない!”
“でも、人からじろじろ見られるのは嫌なんだよ!”
“それが贅沢っていうのよ!”
僕とエリーナが出かけるにあたって、護衛としてサモンが一緒についていくことになった。サモンはロベルトと剣の腕は互角で、水魔法の使い手のようだ。
サモンがエリーナに聞いた。
「エリーナ様。どちらに行きますか?」
「そうね~。最初に服屋がいいわ。」
僕はエリーナが自分の服を買うつもりなのだろうと思っていた。店に行く途中でやはり通行人達がじろじろ見てくる。何やらひそひそ話までしている。きっと、僕のことを話しているのだろう。服屋に着いたのだが、それからが大変だった。
「ショウ様。こちらの服を着てみてください。」
「ショウ様。こっちの服も着てみてください。」
「迷ってしまいます。どの服を着ても似合ってしまうんですもの。」
「あの~。エリーナ様。もういいですか?さすがに着たり脱いだりは疲れます。」
僕の言葉にハッとしたようだ。
「ごめんなさい。全然気が付かなくて。」
結局、一番最初に来たものを購入することになった。今まで着ていた服は袋に入れてもらって、買ったばかりの服を着ている。サモンがニコニコしながらその様子を見ていた。
“ショウ。あなた、鼻の下が伸びてるわよ!”
“そんなことないよ!大変なんだから!”
それから、噴水広場に行くことになったのだが、エリーナが僕の手を握ってきた。
「ショウ様!早く早く!」
どうやら噴水広場には屋台が沢山あり、そこに行くのが目的だったようだ。広場には、装飾品の店、串焼きを売っている店、べっ甲飴のようなものを売っている店、お面を売っている店、いろんな店が並んでいた。
「あの店に行きましょ!」
エリーナに引っ張られて装飾品の店に行こうとすると、リルが僕の服を引っ張って串焼きの店に行きたがった。
「まあ、リルちゃんはお肉が食べたいのね。ならいいわ。先に串焼きのお店に行きましょ。」
僕は串焼きを4本買った。僕とエリーナ、それにサモンとリルの分だ。噴水のところにベンチがあったので、そこに3人で座った。リルは僕の前でお座りをしながら食べている。
「リルちゃんはお行儀がいいのね。」
「リル殿はとても賢く、強いんですよ。エリーナ様。私達を襲った盗賊をあっという間に倒していましたから。」
「そうなのね。ありがとうね。リルちゃん。」
エリーナが頭をなでる。リルもまんざらでもないようだ。気持ちよさそうにしていた。装飾品の屋台に向かおうとすると誰かの叫び声が聞こえてきた。
「スリだー!そいつを捕まえてくれー!」
僕達の横を子どもが走って逃げようとしていた。
「リル!」
「ワン!」
リルが子どもに怪我をさせないように服を嚙んだ。そこに声の主がやってきた。
「こいつ!人の財布を盗みやがって!」
声の主が転んでいる子どもを蹴飛ばそうとした。僕は慌ててそれを止めた。
「暴力はダメですよ。」
「だが、こいつは俺の財布を盗んだんだぞ!」
「でも、取り返しましたよね。」
「取り返せばそれで済むって話じゃないだろう。」
「わかりました。この子どもは僕達が責任を持って預かりますので。」
集まっていた人達もそれぞれ散っていった。子どもはふくれ面をして下を向いている。
「君、名前は?どこに住んでるんだい?」
「・・・・」
するとサモンが言った。
「エリーナ様。スリは犯罪です。いくら子どもでも許されません。衛兵のところに連れて行きましょう。」
流石にサモンの言葉に動揺したようだ。こっちを睨みつけてきた。僕は封印していた能力を解放して、子どもの心の声を聞いた。
“俺を捕まえるなら捕まえればいいさ!死刑だってなんだって構わない!でも、カンナはどうなるんだ?あいつは一人で生きていけるのか?”
僕は腰をかがめて男の子に話しかけた。
「君は妹さんのためにスリをしたんだよね。」
「えっ?!」
子どもは驚いた顔をして僕を見た。僕の後ろではエリーナもサモンも驚いている。
「大丈夫だよ。悪いようにはしないから。それよりカンナちゃんのところに連れて行ってくれるかな?心配だからね。」
すると子どもがマジマジト僕の顔を見つめた。
「どうしてカンナの名前を?もしかして天使様?」
「違うよ。僕はショウっていうんだ。君の名前は?」
「ジョン。」
「そうか~。ジョン君っていうのか。」
その後、僕達はジョンに連れられてスラム街にある荒れ果てた家までやってきた。家の中には5歳ぐらいの少女がいた。
「お兄ちゃん!」
恐らく何があったのか想像できたのだろう。いきなり泣きながら僕達に謝ってきた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!許してください!何でもしますから!お兄ちゃんを許してください!」
どうやら、この子達は2人だけで生きてきたようだ。自分も森の中で必死に生きてきたからその辛さはわかる。ましてや、彼らには僕のような特別な能力があるわけじゃない。相当苦労しただろう。僕はエリーナを見た。
「エリーナ様。この国には孤児院ってありますか?」
「孤児院って何ですか?」
「親がいない子ども達を保護して育てる施設です。」
「そんな話聞いたことありません。」
やはりこの世界の文明はかなり遅れているのかもしれない。僕はジョンと妹に言った。
「大丈夫だよ。安心して。君の大切なお兄さんをどうにかするようなことはしないから。」
「本当?」
「ああ、本当さ。君は妹のためにあんなことをしたんだろ?でも、もうそんなことする必要はないさ。僕が領主様にお願いしてあげるから。」
ジョンは泣きながら謝ってきた。
「ヴ~ ウ~ ごめんなさい。」
「君達のせいじゃないさ。君達のような子どもを放置している社会のせいなんだから。」
その後、僕達はジョンと妹のケリーを連れて領主様の屋敷まで戻った。そこにはロベルト達がいた。エリーナには領主様に報告に行ってもらった。