辺境伯様にご挨拶
僕は異世界に転生してから初めて人間の街に行くことになった。不安だらけだが、でもずっとリルと森の中で暮らしていくわけにもいかない。それに、異世界がどんなところか色々見て回りたいのだ。ようやく街に着いたが、そこには検問があった。ロベルト隊長が一緒だったお陰で、僕とリルもすんなりと街に入ることができた。街の様子を見るとアニメに出てくるような中世ヨーロッパの雰囲気だ。大勢の人達が大通りを行き来している。時折、道行く人が僕とリルの方を見ている。僕が恥ずかしそうにしていると、ロベルトが声をかけてきた。
「ショウ。その服が原因だ。気にするな。」
するとミックも言ってきた。
「隊長。ショウが見られてるのは服だけじゃないと思いますけど。」
ローランドも加わった。
「そうですよ。隊長。ショウはかなりの美形ですから、街の女どもは見とれちまいますよ。」
日本にいた時もそんなことを言われたことはない。確かにテレビなんかを見ていて、美男子・美少女と思える人達はいた。だが、自分が他人からそんな風に言われてなんか嬉しかった。
「そうだな。なら、ミック。お前、ショウと一緒に服屋で服を買ってこい。俺達は先に領主様に報告に行ってるからな。」
「わかりました。隊長。」
僕はミックと一緒に服屋に向かって歩き始めた。やはり、人々が僕を見てくる。当たり前かもしれない。大きな犬にまたがっているだけでも珍しいのに、ジャングルから出てきたようなカッコをしているのだから。それにしても異世界の街は凄い。何もかもが異世界アニメに描かれていた通りだ。
「まるで異世界アニメだな~。」
「えっ?今、何か言ったか?」
「いいえ。何でもないですよ。ミックさん。」
「そうか。」
服屋に着いた。ミックに連れられて店の中に入ると、いろいろな服が吊るされていた。店の中の客も僕をじろじろと見ている。どうやら、みんなが言った通り、僕は美形なのかもしれない。
「ショウ。どの服にするんだ?」
「は、はい。これとこれにします。」
僕はフード付きの服とズボンのセットを選んだ。
「そうだな。顔を隠すにはそのフード付きの服がいいな。」
ミックは僕の考えに気づいたようだ。お金はミックが払ってくれた。どうやら隊長からお金を預かってきてたらしい。
「さて、じゃあ、隊長のところに行くか。」
「はい。」
僕はフードを被って顔が見えないようにした。そして、リルから降りて自分の足で歩いた。
「ミックさん。これからどこに行くんですか?」
「隊長のところさ。多分、領主様の屋敷だ。」
いきなり領主様の屋敷に行くことになった。体中に緊張が走る。僕の表情がいきなり硬くなったので、ミックが声をかけてきた。
「大丈夫だ。ショウ。領主様は優しいお方だからな。」
「はい。」
“リル!どうしよう?僕のこと調べるのかな~。魔王とか言われて討伐されたくないよ!”
“大丈夫よ。私が付いているから。それにいざとなったらテレポートで逃げちゃいなさい。”
“そうだよね。逃げちゃえばいいんだよね。”
話しながら歩いているといつの間にか領主様の屋敷まで来てしまった。
「物凄く立派ですね。」
「当たり前だろ!領主様は辺境伯様なんだぞ!」
館の前には門兵がいたが、ミックを見ると敬礼してそのまま中に入れてくれた。もしかしたらミックも偉いのかもしれない。ミックに連れられて館の中庭まで来た。そこではロベルト隊長、ローランド、ジョニー、ヨハンが片膝をついて話をしていた。僕とミックもヨハン達の後ろで片膝をついた。リルは僕の横でお座りをしている。
「君がショウか。ロベルト達を救ってくれたそうだな。感謝する。」
声のする方向を見ると40代ぐらいの体格のいい男性が椅子に座っていた。
「いいえ。僕は大したことはしていませんから。」
「謙遜しなくていいさ。話はロベルト達か聞いたぞ。それよりも、そのフードをとって顔を見せてくれないか。」
僕がフードをとると、ロベルト達以外の全員が声をあげた。
「おお~!ローランドの言う通りまさに天使様だな。」
僕がキョトンとしていると領主様が続けた。
「そなたには自覚がないようだな。面白い奴だ!ハッハッハッハッ」
しばらくして、領主様の顔が真剣な表情に変わった。
「ところでそなたに聞きたいのだがな。」
「何でしょうか?」
「記憶をなくしているというのは本当か?」
「はい。本当です。」
「いつから深淵の森で暮らしているのだ?」
「3年前からです。」
「すると、10歳程度の子どもがあの危険な森で3年間も生き永らえたということだな。」
領主様が何を言いたいかわかってきた。ロベルト達も知りたがっている僕の力だろう。
“どうするの?ショウ。”
“本当のことは言えないよ。”
「森の中の果物を採ったり、罠を仕掛けてホーンラビットを捕まえて食べていました。」
「そうか?ならば火魔法が使えるのだな?ホーンラビットのような魔獣を生で食べるなどできないだろう。」
さすがにこの質問は困った。昔テレビで見た方法で答えることにした。
「木を使って火をおこしました。」
「誠か?」
「はい。」
すると、領主様は近くの兵士に声をかけた。
「ここに持って参れ!」
「ハッ」
目の前におかれたのは水晶の玉だ。恐らく遺跡にあったものと同じだろう。
「ショウ。疑って悪いが、その水晶に手を置いてくれないか。」
「はい。」
僕は水晶に手を置いた。だが、水晶には何の反応もなかった。それを見て、ロベルト達も領主様も不思議そうな顔をした。
「ロベルト!やはりお前の見当違いのようだな。すまない。ショウ。ロベルトから魔獣を倒した時に青白い炎が出たと聞いてな。お前のことを疑ってしまったのだ。許してくれ。」
「いいえ。とんでもありません。僕のような子どもがあんな危険な森に一人で暮らしていたなんて、普通なら信じられないと思いますから。」
「そうだな。魔法が使えずに大変だっただろう。今回の報酬を渡そう。受け取ってくれ。」
兵士が僕の前に袋を持ってきた。中にお金が入っているようだ。
「助かります。領主様。ありがとうございます。」
「いいさ。大事な兵士達の命を助けてもらったんだからな。お金には代えられんよ。」
この領主様はなかなかの人物のようだ。かなり好感が持てた。その後、僕達は領主様の屋敷を出てみんなで食事をすることになった。当然僕はフードを被っている。
「ショウ。そのフード、不便だろう。」
「仕方ないです。」
「でもな~。ずっとそのままってわけにもいかないだろうしな~。」
確かにローランドの言う通りだ。だが、目立ちたくはない。日本にいた時のことがフラッシュバックした。
“どうしたの?ショウ。”
“ちょっとね。昔の嫌なことを思い出したんだ。”
“色々大変なのね。ショウも。”
それにしても、すれ違う兵士達がロベルト達に挨拶をしている。もしかしたら、ロベルト隊長だけでなく、他のみんなも有名人なのかもしれない。
「ロベルトさんは火魔法を使えますよね?ミックさん達も魔法を使えるんですか?」
「ああ、使えるさ。俺は水魔法、ジョニーは光魔法、ローランドは風魔法、ヨハンは土魔法だ。ただ、隊長ほどの威力はないがな。ハッハッハッハッ」
“この世界の人達は魔法が使えるんだ~。なんか羨ましいな~。”
“何言ってるのよ。彼らの魔法はショウより全然レベルが低いんだから。”
“そうなの?”
“そうよ。人族は基本的に一人1属性の魔法しか使えないのよ。それに、魔力量によってその威力も全然変わってくるんだから。”
“ふ~ん。”