強敵サターニ
カイザーの刺客を討伐した僕達は王都ジリアンに向かった。ようやく王都までたどり着いたのだが、城門の周りには武器を持たされた一般市民までいた。もしかしたら、コンフォームソースで人々を操っているのかもしれない。
「ショウ殿。どうしますか?」
マクエルが心配そうに聞いてきた。彼らを制圧するのは容易であろう。だが、そうなると多くの犠牲者が出てしまう。
「リル~。兵士や一般市民の中にカイザーの部下の悪魔がいるってことはないかな~。」
「あり得るわね。コンフォームソースが破壊された場合に備えてると思うわ。」
「そうだよな~。そうすると、王都の中から悪魔だけを排除しないといけないんだよね?何か方法ないかな~。」
コンフォームソースを先に破壊すれば、恐らく市民や兵士達に混乱が起きる。そうなれば悪魔達が彼らを襲うだろう。だとすれば、先に悪魔達を排除しておかなければならない。するとリンが言ってきた。
「ショウ。この際だから神力を使うしかないわよ。」
「どんな風に?」
「神力でなら悪魔だけをここにテレポートさせることができるでしょ。その間に、私がコンフォームソースを破壊しに行けばいいのよ。」
するとマクエルとジェストが聞いてきた。
「では、私達は何をすればいいんでしょうか?」
「マクエルさん達は兵士や一般市民の人達を非難させてください。恐らくカイザーが出てくるでしょうから。」
「わかりました。」
行動の確認をした僕達はそれぞれ散っていった。残った僕は全身から力を解放する。全身が光りの球に覆われていく。
『悪魔よ!ここに来い!』
ガキッ
次々と人の姿をした男女が僕の前に現れる。だが、カイザーにだけはレジストされたようだ。突然テレポートさせられた悪魔達は何が起こったのか理解できていないようだ。ただ、目の前の神々しい光が敵であることはすぐに分かっただろう。
「本来の姿を現せよ。悪魔ども!僕が相手をしてあげるよ!」
男女から黒い靄が現れる。人間の身体がボロボロと崩れ落ち、そして頭に角を生やし、背中に黒い翼を持った悪魔の姿に戻っていく。恐らく、人間を殺してその肉体に乗り移っていたのだろう。
どの悪魔もクレナイと同じレベルだ。アズベルやディアブほどの強い存在はいない。悪魔達が一斉に僕に襲い掛かってきた。中には闇魔法で攻撃してくるものもいる。僕は剣を抜いて力を注ぎ込んだ。すると剣から神々しい光が放たれた。
『万物を切り裂け!』
スパッ
僕が剣を振ると空間ごと斬ったようだ。目の前で避けきれなかった悪魔達が上下2つに分かれて消えていく。その様子を見て、他の悪魔達が一斉に逃げ出そうとした。
「逃がさないよ!」
『止まれ!』
悪魔達はその場で身動きが取れなくなった。そして叫んだ。
「貴様は何者だ!」
「お前達には関係ないさ。」
『消えろ!』
パチン
僕が指を鳴らすと悪魔達の身体が光りの粒子となって消えていく。
「さて、リルは大丈夫かな。」
その頃リルはフェンリルの姿に戻って王都の上空を城に向かっていた。王城の近くに巨大な赤い球が浮かんでいたからだ。
“厄介ね~。これ結界で守られてるじゃない!”
リルが精神集中してエネルギーを増幅させていく。リルの身体が眩しく光りだした。すると不思議なことが起こった。フェンリルの姿だったリルがどんどん人型に変化していき、そして背中から白い翼を生やし、白い衣を身に纏った少女の姿になった。
リルの手には巨大な光の弓があった。
『砕け散れ!』
シュー
パリン
リルの放った光の矢が結界を突き破り、赤い球を砕いたのだ。すると、王都のどんよりした空気がどんどん浄化されていく。そして王都の人々がその場でバタバタと倒れ込んでいった。
「ジェスト。俺達の出番だ!」
「はい!マクエル様!」
マクエルとジェストが兵士や住民達を起こして、僕達のいた西側と反対の東側にある森の中に誘導した。そして、住民達が避難をしていると、王城から真っ黒な柱が天に向かって伸びた。その柱から出る黒い靄が再び街を覆い始めた。さらに空全体がどす黒い雲で覆われ、あちらこちらで稲妻が発生している。
バキッ ゴロゴロ
ドッカーン バリバリバリ
王城から体の大きな悪魔が出てきた。全身の黒い靄は今までの悪魔達とは様子が違う。まるでブラックホールに吸い込まれるような感覚すらある。
「ショウ!来たのね。多分、あれがアズベルの言っていた四天王筆頭のサターニよ。」
「間違いなさそうだね。リルはマクエル達を助けてあげてくれる?」
「わかったわ。ショウ!油断しないでね。」
「大丈夫。二度とへまはしないから。」
僕は空中に舞い上がり、自分の持てる力を完全開放した。すると、全身から神々しい光が放たれ、眩しい光球に包まれた。
「お前がサターニか?」
「ああ、そうだ。待っていたぞ!神々の犬め!」
「お前達の目的はルシフの復活だろ!ルシフは絶対に復活させないさ!」
「ハッハッハッハッ お前はバカか!ルシフ様はもう復活したのさ!あの柱を見ただろうが!あれは俺がルシフ様の力の欠片を使っただけだ。ルシフ様の力を分け与えられた俺に負けはない!死ぬがいい!」
サターニの身体が漆黒の球に覆われていく。そして光の球と闇の球が空中で激しくぶつかり合った。ぶつかる度に地上を物凄い衝撃波が襲った。下にあった家は完全に崩れている。
ドッカーン ドッカーン ドッカーン
「ハーハーハー なかなかやるではないか!」
「ハーハーハー お前もな。」
「ハーハー だが、俺程度と互角のお前はどうあがいてもルシフ様には勝てん。」
確かにサターニの言う通りだ。僕は限界まで力を出している。今までと違って余裕などないのだ。そんなことを考えていると、一瞬隙を作ってしまった。それを見逃すわけはない。サターニが目の前に現れ、僕の腹めがけて鋭い爪で攻撃してきた。
グハッ
何が起こったのかわからない。僕の前には僕を庇うように白い翼の少女がいた。彼女の口からは真っ赤な血が流れている。
「だ、だめじゃない!油断したら!あれだけ言った・・・」
「リル!リル—————!!!」
「ハッハッハッハッ 命拾いしたな!」
僕は身体の底から怒りが込み上げてきた。日本にいた時も悲しいこと、悔しいことはたくさんあった。この世界に来てからもだ。だが、今までに感じたことのない感情が沸き上がってきた。その爆発的な感情の高鳴りをどうやら抑えきれそうにない。
バリバリバリバーン
ドッドッドッドーン
バキバキバキバーン
僕の身体を覆っていた光の球が激しい音を立てて弾き飛んだ。僕は人間の姿に戻ったリルを地上において、再びサターニの前まで舞い上がった。
「サターニ!貴様は絶対に許さん!」
「お、お前のその姿は?!貴様!何者なんだ?!」
『死ね!』
あれだけ強かったサターニが身動きが取れない。サターニを覆っていた黒い球がどんどん消えていく。そしてサターニの身体が足からどんどん黒い粒子になっていく。
「な、な、何なんだー?!ルシフさ————!」
サターニが消滅したのを確認して、僕はリルのもとまで駆け寄った。リルの胸に頭をつけた。だが心音は聞こえない。僕は必死に念じた。
『治れ!』『治れ!』『生き返れ!』『生き返れ!』
リルの身体はピクリともしない。そこにマクエルとジェストが戻ってきた。地面に横たわるリルを見て二人も驚いていた。
「リル殿~。」
上空を覆っていた黒い雲が晴れていき、空から眩しい光が差し込んできた。そして、リルと僕を照らし始めた。物凄く心地いい温かさだ。
「マクエルさん。迎えが来たようです。後のことはお任せします。立派な王になってください。」
「えっ?!」
リルと僕の身体が光りに溶けて見えなくなっていく。そして地上から二人の姿が消えた。
「マクエル様。大丈夫ですよ。リル殿は神獣なんですから。それにショウ殿は神の使徒様ですから。」
「そうだな。彼らの心配をしている余裕はないな。行くぞ!ジェスト!」
「はい!」
僕とリルがいなくなった後、マクエルは貴族を全員集めて自ら国王となることを宣言した。幽閉されていた国王はすでに殺されていて、第1王子もマクエルが国王になることを快く承諾したのだ。そして、カイザーの支配で荒れ果ててしまった国を立て直すべく、隣国のスチュワート帝国やヨハネス王国に協力を要請した。どちらの国も喜んで協力してくれたのだった。
その頃、天界では生命神ライフ様がリルを蘇らせてくれていた。
「リル————!」
「私、どうなったの?ショウ。」
僕は感動と喜びから涙が溢れて声が出ない。するとライフ様が答えてくれた。
「リル。あなたはショウを助けて死んだのよ。」
「そうなんですか?でも・・・・」
「私が生き返らせたのよ。肉体が残っていて良かったわね。」
「ありがとうございます!ライフ様!」
リルは事の重大さに気がついたようだ。しばらくして落ち着いてからリルがライフ様に聞いた。
「ライフ様。聞いていいですか?」
「何かしら?」
「私、フェンリルのはずなのに突然少女の姿になったんです。」
すると最高神アテナ様達がやってきた。
「私が答えましょうか。リル。あなたの魂が成長したのよ。フェンリルとして生を受けて天使になったのよ。おめでとう。」
「天使ですか?」
「よかったね。リル。」
リルはまだ状況がよくわかっていないようだ。武神フドウ様が説明を始めた。
「フェンリルは神獣だ。だが使える能力には限界がある。天使になった今、訓練次第で神々のような神力も使えるようになるのだ。」
ここでやっと事の重大さが理解できたようだ。
「本当ですか?!なら、訓練次第でショウの助けにもなれるってことですよね?」
自分のことよりも僕のことを心配してくれているリルを見て、神々の前なのに思わずリルを抱きしめてしまった。
「ン!オッホン!」
「いいじゃないの。フドウ。」
それから僕とリルは天界で修業することになった。ルシフの力の欠片しかない相手にあれだけ苦戦したのだ。今のままではルシフに勝てる望みはない。そう思って、僕とリルはフドウ様達にお願いして強くなるための訓練を始めた。




