カイザーからの刺客
僕達はジフミタウンを見物することもなく、そのまま素通りして王都ジリアンに向かった。
「リル~。」
「どうしたの?」
「ルシフってさ~。もしかしたらオリント聖教国で封印されてるんじゃないかな~。」
「どうしたのよ。急に。」
「聖教国ってアテナ様達を祭っているんでしょ?だったら悪魔を封印するには都合がいいんじゃないかな~?」
「確かにね。まあ、可能性は高いと思うわよ。」
そんなことを話しながら歩いていると次の街リオネに到着した。外がすでに暗くなり始めていたので、宿屋に泊まることにした。
「ショウ殿、リル殿。この宿屋の料理がおすすめですよ。」
「本当?ショウ!ここにしましょうよ。」
最初の街ジフミシティーから僕達をつけてきている者達がいる。リルは気づいているだろうけど、マクエル達は何も気づいてなさそうだ。
「食事が終わったら、僕達の部屋に来て欲しいんだけど。」
「いいんですか?」
マクエルもジェストも何か変な誤解をしているようだ。
「別にいいですよ。」
僕達が食堂に行くと結構な数のお客がいた。少し離れた席にいる2人組の男達が僕達のことを気にしている。
「確かにこの店美味しいわね~。このお肉なんて最高じゃない!」
ワザとなのかどうかわからないが、リルが大きな声を出して食べている。ここでやっとジェストが気付いたようだ。
「ショウ様。向こうの二人ですが・・・」
「ジフミシティーからずっとだよ。」
「えっ?!」
「ジェスト!早く食べなさいよ!いらないなら私が食べちゃうわよ!」
逆に僕は耳に気を集中させて彼らの会話を聞いた。
“俺達のことを気付いていそうか?”
“いいや。あの様子なら大丈夫だろう。それで手配はどうなっているんだ?”
“この街を出たところに50人待たせてるさ。”
“50人で足りるのか?相手はフェンリルなんだろ?”
“大丈夫だ。魔法が使えなきゃ魔獣と同じだ。”
やはり僕達のことを襲うつもりのようだ。ここは知らないフリをしておこう。
「あ~!お腹いっぱいだわ!ショウ!あなたまだ半分も残ってるじゃない!どうするのよ!」
「リルが早いんだよ!少し待っててよ!」
食事を食べ終わった後、僕達の部屋に集まった。
「マクエルさん。この街を出た後注意した方がよさそうですよ。」
「何かあるんですか?」
「食堂にいた2人が話していたんだけど、50人ほどが待ち構えているみたいなんです。」
するとジェストが驚いたようだ。
「それは本当ですか?でも、どうしてあの2人の会話が分かったんですか?結構離れていましたよね?」
「ジェスト~。あなた私達のことをまだわかってないの~。あの部屋の中の会話ぐらい気術を使えば余裕で聞こえるわよ。」
「そ、そうなんですか~。」
「それよりもどうしますか?」
マクエルが不思議そうな顔をした。
「どうとは?」
「彼らを討伐していくのは簡単だけど、マクエルさん達の同胞でしょ?」
「ショウ殿は優しいんですね。でも、我らの行く手を阻む者は敵です。遠慮はいりません。」
「わかりました。」
そして、マクエルとジェストは部屋に帰っていった。
「リル~。いいのかな~?」
「状況次第よ。私達をつけてきた2人は、もしかしたらカイザーの眷属かもしれないわね。」
「眷属っていうことは悪魔ってこと?」
「そうね。下級の悪魔の可能性があるわ。」
「もしかして彼らの指示で動いている兵士達も?」
「それはないでしょうね。彼らは人間よ。ただ、洗脳されてる可能性はあるわ。」
今更だが、洗脳されて戦わされてるだけなら殺したくない。お金や地位に目がくらんで人を殺すことを何とも思わない連中なら容赦はしないけど。
そして翌朝、僕達は王都に向かって出発した。リオネを出て1時間ほどしたところで林に差し掛かった。
「マクエルさん。ジェストさん。昨日言った奴らが林に隠れてます。気を付けて下さい。」
「わかりました。」
林の中から矢が飛んできた。僕とリルが前に出て矢をすべて叩き落した。すると、林の中からぞろぞろと兵士達が現れた。一番前には2人組の男達がいる。
「やっと来たな。ここで死んでもらうぞ!マクエル!」
「お前達は何者だ?なぜこんなことをする!」
「そんなことはどうでもいい!やれ!」
兵士達が一斉に剣を抜いた。
「マクエルさん。ジェストさん。兵士達は殺さないで!彼らは操られてるだけだから!」
「わかりました!」
兵士達はリルとマクエルさん達に任せて、僕は悪魔らしき二人のところに向かった。すると、右側にいた大柄の男が腕を上げ、何やらもごもご言っている。以前にも見たことのある光景だ。男の手が光ったと思ったら辺り一帯が薄い赤いカーテンに覆われていく。
「ハッハッハッハッ これで脅威はなくなった。後は全員皆殺しにするだけだ。」
「やはり、お前達は悪魔だな!」
「今頃気付いてももう手遅れだ!」
「それはどうかな。」
男達の手から鋭い爪が伸びた。
「死ね~!」
シュッ
ポトッ
ウギャー
咄嗟に剣で男の腕を斬り落とした。それを見て頬に傷のある男が睨みつけてきた。
「き、貴様~!よくもやってくれたな!」
「お前ら悪魔なんだろ!再生できるのに痛みは感じるのか?」
「ふざけるな!」
もう一人の男が物凄い速さで突っ込んできた。
『止まれ!』
男は僕の目の前で動けなくなった。
「な、何をした!貴様何者だ!」
「そんなことはどうでもいいだろ。それよりも四天王のことを教えてもらおうか。どうせカイザーもディアブと同じ四天王なんだろ?」
「何故それを!」
「やっぱりな。それで、他の四天王はどこにいるのさ。ついでにルシフのことも教えてよ。」
「許さん!ルシフ様を呼び捨てとは!貴様~!許さぬ!絶対に許さん!」
大柄の男の身体から黒い靄が溢れ出した。失った腕もどんどん再生していく。頭には2本の角が生え、背中には漆黒の翼が現れた。動けないでいた男の身体からも黒い靄が出始め、同じように頭に角が生え、背中に翼が現れた。
「それがお前達の本来の姿か。醜いな!」
「黙れ!人間!この姿を見せた以上、貴様には死があるのみだ!」
動けなかった男も拘束が解けたようで、2人で僕に攻撃してきた。黒いオーラが鋭い剣に変化していく。
カキン
シュッ
「流石だな。これならどうだ!」
黒い剣が長い蛇に変化し鞭のようになった。
シュッ
シュッ
スパン
僕は目に気を纏わせて鞭をかわす。そして剣に気を流し込んで力いっぱい振った。
スパン
片方の悪魔の身体が上下2つに分かれた。残すは1体だ。そう思った瞬間、倒したはずの悪魔が黒い靄になってもう一方の悪魔に吸収された。
「ディアブ様を倒しただけのことはあるな。見事だ。だが、俺は四天王筆頭のサターニ様よりアズベルの名を賜っている。やすやすと倒されるわけにはいかん。」
アズベルが両手を前に出すと僕の周りの空間がゆがみ始め、真っ黒な蔦が僕に襲い掛かる。剣で斬っても斬っても蔦が攻撃してくる。そして一瞬のスキを突かれ、黒い蔦に拘束されてしまった。
「ハッハッハッハッ 身動きがとれまい。その蔦からは古のドラゴンですら逃れることができぬ。」
このアズベルという悪魔は四天王のディアブより強いかもしれない。僕も力を制御している場合ではない。全身を駆け巡る熱いエネルギーを解放した。神々しい光に蔦が消滅していく。そして僕自身が眩しい光の玉のようになった。
「き、き、貴様のその力は?!まさか神なのか?!」
「どうかな。自分じゃ人間のつもりだけどな。」
『消えろ!』
僕は念を込めて手を前に出した。すると僕の周りを覆っていた光がアズベルの身体を包み込んでいく。そしてアズベルは完全に消滅した。
「ふ~。結構強かったな。」
周りを見ると兵士達が倒れている。そしてリルとマクエル達がやってきた。
「時間がかかったわね。ショウ。」
「まあね。結構強かったよ。少し本気になっちゃった。」
「天界でならともかく、地上で本気出したらダメよ。被害が出ちゃうわ。」
「大丈夫だよ。本気を出すときはリンに結界を張ってもらうからさ。」
僕とリンの会話をマクエルとジェストが呆気に取られて聞いていた。
「ショウ殿は本当に使徒様なのですか?」
「どういうこと?」
「スチュワート帝国の初代皇帝タケル様の伝説はいろいろと聞いていますが、ショウ殿の力とは少し違うような気がするんです。ショウ殿は神なんじゃないですか?」
「ハッハッハッハッ それはないですよ。マクエルさん。武神様もライフ様も僕なんかよりはるかに強いですから、僕は武神様との模擬戦で武神様に触れるのがやっとでしたよ。」
マクエルとジェストの身体から魂が抜けて言ったようだった。その後、気を失っていた兵士達が順に目を覚まし始めた。そしてマクエルを見て全員が平伏した。兵士達に話を聞くと、第2王子カイザーの命令で兵士達全員が王都ジリアンの修練場に集められたらしい。
そこで巨大な赤い球を見た瞬間から記憶がなくなったようだ。
「ショウ。その赤い球はコンフォームソースよ。彼らは間近であなたの神力の光を浴びたから解放されたけど、他の兵士を解放するにはその赤い球を破壊するか、カイザーを倒すしかないわ。」
「ショウ殿。お願いします。わが国民をお救いください。」
「ショウ様。お願いします。中には私の同僚達もいます。彼らをお救いください。」
「マクエルさんもジェストさんも頭をあげてください。以前にも話しましたけど、僕とリルはこの世界を平和にしたいんです。困っている人達を見捨てるようなことはしませんよ。」
「ショウ!『一日も早く』でしょ!」
「そうだね。」
マクエルとジェストが不思議そうだった。それから僕達は兵士達を連れて王都ジリアンに向かった。




