デンブルク王国に向けて
悪魔を倒した後、僕達が戻ると馬に乗っていたアストロも慌てて地面に降りて片膝をついた。見渡せばマクエルもジェストも兵士達も全員が僕達に片膝をついていた。
「やめてくださいよ。皆さん。どうしたんですか?」
アストロが声を震わせながら言った。
「申し訳ありませんでした!このアストロ、どうなっても構いません!ですが、オリビアだけはお許しください!」
何を言いだすかと思ったらアストロが急に変なことを言い出した。
「ショウの力を見て恐れているのよ!」
目立たないように生活するつもりだったのに、もうその願いは叶いそうもない。ならばと思い、アストロに言った。
「アストロさん!あなたを許しましょう。ですが条件が二つあります。」
「何なりとお申し付けください!」
「一つはこの国のために、国民のために身命を賭して働いてください。」
「はい!畏まりました!」
「もう一つはオリビアさんとそこにいるマクエルさんの婚姻を認めてあげてください。」
「はい!マクエル殿に許していただけるのでしたら、喜んでオリビアを嫁に出しましょう。」
マクエルを見ると嬉しそうだ。
「さあ、これでお終いです!ここからは僕は普通の人間ですから!皆さん立ち上がっていつも通りでお願いします。」
全員が立ち上がった。そしてマクエルが僕のところにやってきた。
「ありがとう。ショウ殿。」
「お礼はまだですよ。まだカイザーがいますから。」
するとリルがマクエルに言った。
「あのシャルナっていう悪魔がカイザー様と言っていたのが気になるのよね~。」
「それってもしかして、カイザーが悪魔の四天王ってこと?」
するとマクエルが思い出したように言った。
「私も不思議に思うことがあるんです。カイザーは幼いころ、病弱な長男を気にかける優しい兄でした。それにこの私にも剣の稽古をつけてくれて・・・。でも、突然変わったんです。目つきも性格も。」
「その話はまたゆっくり聞かせてください。とりあえず報告に行きましょう。」
僕達は全員で王城に向かった。その途中でフロイト公爵に合流し、悪魔討伐の報告をした。
「ショウ殿。リル殿。この度は感謝します。これからデンブルク王国へ向かわれるのですか?」
フィリップ国王がかなり丁寧に聞いてきた。先日のリルの言葉が響いたのだろう。
「そうですね。マクエルさん達の祖国に平和を取り戻さないといけませんから。」
「そうですか。我々も協力したいところですが、国民のためにやらなければいけないことが山ほどありますので。申し訳ありません。」
するとリンがニコリとして優しい口調で言った。
「やっと気づいたようね。あなたはまだ若いわ。フィリップさん。ユリウスさんに負けないように名君になってね。」
「ありがとうございます。」
フィリップ国王とフロイト公爵、それにアストロ侯爵が深々と頭を下げた。
「さあ、行こうか。」
「そうね。」
マクエルとジェストを連れて僕達は深淵の森までテレポートした。ボルフ達が尻尾を大きく振って近寄ってくる。マクエルとジェストは大慌てだ。
「ショウ殿!魔物です!このままでは危険です!」
「大丈夫よ。ボルフ!お留守番ご苦労様ね。」
ク~ン
ボルフがリルに体をこすりつけている。他のシルバーウルフ達も僕達に体をこすりつけてきた。すでに子ども達は成長していて、どれが子ども達なのか区別できないほどだ。すると、後ろからシルバーウルフ達の子どもが現れた。新たに子どもが生まれたのだろう。
「ショウ殿。ここはどこなんですか?」
「ここは僕達の家ですよ。深淵の森とか言われてますけど。」
「深淵の森?!あの世界で最も危険と言われている森ですか?!」
「別に危険でもないけどね。それより、今日はここに泊まってこれからの相談をしましょうか?」
「は、はい。」
僕達はマクエルとジェストを連れて久しぶりに狩りに行くことにした。晩御飯を調達するためだ。ボルフ達もぞろぞろとついてくる。森の中からは獣達の鳴き声やら鳥の羽ばたく音が聞こえてくる。その度にマクエルとジェストは怖がっていた。
「大丈夫ですから。ボルフ達もいますので。」
「は、はい。そうですが~。」
ボルフ達が森の中に向かって走り始めた。どうやら獲物を見つけたようだ。僕達が走って行くと、レッドボアが転がっていた。ボルフが一撃で倒したようだ。それを魔法袋に仕舞って、さらに森の中を進んだ。
「そろそろ帰ろうか?もう十分だよ。」
結局レッドボア3頭と桃やミカンなどの果実が魔法袋に入っている。
「ボルフ殿はシルバーウルフではないですよね?」
するとリンが答えた。
「そうね。この子はグレートシルバーウルフよ。」
「ま、まさか、Sランクの魔獣ですか?!」
「そうよ。どうかしたの?」
「さすがです。Sランクの魔獣を従えているなんて、普通では考えられませんから。」
古代遺跡に戻った僕達はレッドボアを捌いて食事にすることにした。僕は魔法袋から塩と胡椒を出して味付けをした。塩と胡椒だけなのに物凄く美味しい。ボルフ達もものすごい勢いで食べている。
「美味しいわね。ショウ。」
「まあね。」
「昔の食事を思い出すわね。あの頃は味付けなんて何もなかったわ。ただ焼いただけだったものね。」
マクエルもジェストも僕とリルの会話を不思議そうに聞いていた。そして翌朝、僕達は再び王都まで転移して、そこからデンブルク王国に向かうことにした。デンブルク王国との国境まで来ると、ウオーレン辺境伯がロベルト達とともに警備していた。
「ショウ殿にリル殿ではないか。」
「ウオーレンさん。ご苦労様です。」
「別に苦労でもないさ。それよりも王都での活躍は聞きましたよ。改めてご助力に感謝します。ありがとうございます。」
「やめてくださいよ。ウオーレンさん。なんか話し方も変ですよ。僕がお世話になっていた時のようにお願いします。」
「ですが・・・」
するとロベルト達がやってきた。
「ショウにリルじゃないか!元気そうだな!やっぱりお前達は凄いぜ!悪魔を倒しちまうなんてな!」
ウオーレンがロベルト達を睨んだ。
「いいんですよ。ウオーレンさん。ロベルトさん達のようにしてくれた方が僕達も気楽ですから。」
「そうかい。ならそうしよう。」
何のことかわからないロベルト達は、狐につままれたようにボケッとしていた。するとマクエルが前に出て話し始めた。
「皆さん。この度は我がデンブルク王国がご迷惑をおかけして申し訳ありません。これからすぐに戻って第2王子のカイザーを討伐しますので、今しばらく御辛抱ください。」
「マクエル殿。貴殿のような人が統治してくれたら、デンブルク王国とも国交を復活できますね。期待してますよ。」
「はい!」
ここで、ロベルト達もマクエルがデンブルク王国の王子であることに気づいたようだ。
「マクエルさん。第2王子を討伐するって、あなたの兄じゃないのかい?」
「そうですが、恐らく兄はすでに殺されているでしょう。」
「どういうことだい?」
「ロベルトさん。恐らく第2王子はすでに悪魔に殺されてるんですよ。」
「ショウ。それは本当か?」
するとリルが説明し始めた。
「スチュワート帝国でもシルベニア王国でも同じことがあったのよ。悪魔達は世界中で戦争を起こしたいようなのよ。」
「どうしてそんなことを?」
「最悪の悪魔シルフを復活させようとしてるのよ。」
「シルフっていえば、昔大戦の原因になった悪魔王のことだろ?確か封印されたとか聞いていたけどな~。」
「その封印がもうじき解けそうなのよ。」
「大変なことじゃねぇか!」
ロベルト達もウオーレンさんの顔も暗くなってしまった。
「大丈夫ですよ。何とかなりますよ。」
「なんかショウにそう言われると、本当に何とかなりそうな気がしてくるな。ハッハッハッハッ」
不安になっているみんなの手前何とかなるなんて言ったが、本当は僕も物凄く不安だ。四天王達のレベルであればなんとかなるかもしれない。でも、神々と同じ強さを持った存在であれば僕に勝ち目はない。僕は武神のフドウ様の身体に触れるのがやっとだったんだから。
その日はウオーレンさん達と一緒に過ごして、その翌日国境を越えてデンブルク王国に入った。
「向こうに見えるのが国境の街ジフミタウンです。」
「ショウ~。急ぎましょ!お腹空いちゃった!」
街に入ると人々は意外にも陽気に話をしながら歩いていた。だが、あちこちで兵士の姿があった。
「リル!気になることがあるんだけど。」
「何?」
「若い男性がいないよね?」
「そう言われてみればそうね。マクエルさん!何か知ってる?」
マクエルがジェストの顔を見た。するとジェストが言った。
「恐らく私とマクエル様がいなくなった後、若い男達を徴兵したんだと思います。」
ジェストの言葉を聞いてマクエルが焦ったようだ。
「ショウ殿。カイザーは他国に戦争を仕掛けるつもりなんじゃないでしょうか?」
「多分ね。シャルナとかいう悪魔がすべて報告していたんだろうね。」
「なら、急がないと。」




