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ベラミンの正体

 アストロ侯爵は、自分がデンブルク王国の第2王子カイザーの罠にはまっていることに気がついた。そこでヨハネス王国に少しでも被害が出ないようにと苦悩していたのだ。



「私は何と愚かなことをしてしまったのか!」



 アストロ侯爵が頭を抱えて下を向いている。隣ではオリビアが心配そうに見ている。



「まだ間に合いますよ。アストロさん。すべてを話してくれますか?」


「フェンリル様と一緒にいるということは、もしやあなた様は使徒様ですか?」


「僕にその自覚はないんですけどね。周りの人達はそう思っているみたいですね。」


「やはりそうでしたか。すべてをお話ししましょう。」



 アストロ侯爵がすべてを話し始めた。



「ちょうど1年ほど前に、フィリップ国王の婚約者を決めるという話があった時に、デンブルク王国の商人であるベラミンが訪ねてきたのだ。彼からフロイト公爵が娘のシャルルを王妃にして、貴族派を一斉に粛正すると聞かされたのだ。だから私はそれを阻止するために、どうしてもオリビアを王妃にするしかなかったのだ。」


「なるほどね。でも、肝心のオリビアには好きな相手がいたことを知ったのね。しかもそれがただの冒険者であると聞かされていたのよね。」



 するとオリビアが不思議そうな顔でリンを見た。



「マクエル様は冒険者ではないのですか?どういうことですか?」



 ここからは僕が話をすることにした。



「マクエルさんは郊外の森に身を潜めていますよ。」


「本当?」


「ええ、本当です。デンブルク王国の第2王子であるカイザーが、この国を属国にしようとたくらんでいるらしくて、彼はそれを阻止しようとしているんだよ。そんな折、偶然オリビアさんと出会ったんだってさ。彼はデンブルク王国の第3王子なんだよ。」


「えっ?!」



 これにはオリビアもアストロ侯爵も驚いた。まさか冒険者だと思っていた人が王子だとは思ってもみなかったのだろう。


 アストロ侯爵は拳をきつく握りしめ身体を震わせている。とんでもないことをしでかしたと、悔やんでも悔やみきれないのだろう。



「アストロさん。あなたが罪を償いたいなら、やるべきことは一つですよね?」


「はい。私も覚悟を決めました。マクエル様に許しを請うて、カイザーの手のものをこの国から一掃します。」


「そうね。でも、その前にフロイト公爵やウオーレン辺境伯にすべてを話す方が先じゃないかしら。」


「そうですね。お二人には謝らねばなりませんね。すべてが終わったら、その時は潔く罰を受けましょう。」



 その日の夜のうちに僕達はウオーレン辺境伯の屋敷を訪ねた。すべてを説明した後、その翌日、全員でフロイト公爵の屋敷に集まることになった。僕とリルはベラミンの動きを調べるために自分達が宿泊している宿屋に戻った。最初からこの宿屋全体が怪しいと感じていたからだ。客は少ないし、あの気品のある女将だ。どう見ても普通の宿屋の女将ではない。



「リル!この宿屋ってもしかしたらベラミン達のアジトなのかな~。」


「多分ね。食堂の下に地下がありそうよ。そこから複数の魔力を感じるわ。この大きな魔力は多分ベラミンね。」



 翌日、アストロ侯爵を連れてフロイト公爵の屋敷を訪ねると、会議室に案内された。そこにはフロイト公爵とウオーレン辺境伯、そしてなんとフィリップ国王がいた。アストロ侯爵は慌てて国王の前に進み出て片膝をついた。僕もリルも部屋の入口で立ったままだ。するとフィリップ国王が声をかけてきた。



「そなた達がシャルルを助けてくれた者達か?」


「そうよ。」



 リルがぶっきらぼうに答えた。隣の僕は内心では結構焦っている。すると、フィリップ国王が僕達に向かって深々と頭を下げてきた。



「この度はシャルルだけでなく、このヨハネス王国の危機まで救っていただき感謝する。」


「まだ解決してないわよ!デンブルク王国のカイザーも生きているし、その部下達だって街はずれの宿屋にいるのよ。お礼はそれが解決してからでしょ!」



 するとフロイト公爵がリルの口調に文句を言った。


 

「先ほどから無礼であろう。フィリップ様はこの国の国王だぞ!」



 するとリルがフロイトを睨みつけた。



「その国王がだらしないからでしょ!スチュワート帝国のユリウス皇帝を見てみなさい!彼は国民を守るために自らの手で解決しようと努力していたわ!でも、この国はどうよ!国民をないがしろにして、貴族同士が争っている。それを見て見ぬふりしてるだけじゃない!私もショウも、別にこの国がデンブルク王国に滅ぼされても構わないのよ。」



 さすがにこの言葉にはフロイト公爵も返す言葉がない。ウオーレン辺境伯が真っ青な顔で言ってきた。



「リル殿。申し訳ない。我らが間違えていました。親のいない子ども達を保護したいと言ったショウ殿の優しさを踏みにじる結果となってしまいました。我ら貴族はもっと国民に寄り添う存在でなければなりませんでした。それなのに・・・・・」



 するとアストロ侯爵が泣きながら謝罪した。



「すべては私のせいです。私が権力に執着したばかりにこんなことになってしまって。私はどのような罰もお受けします。フェンリル様!使徒様!どうかこの国をお救いください!国民のために!」



 ここでやっとフロイト公爵も僕達の正体に気づいたようだ。取り返しのつかないことをしてしまった。そんな顔をしている。

  


「皆さん。今はカイザーの部下達を討伐することに専念しましょう。その前に合わせたい人がいるんで、ちょっと待っていてください。リル行くよ!」


「わかったわ。」



 僕とリルは郊外の森にテレポートした。マクエルに会うためだ。突然姿を現した僕とリルにジェストが驚いたようだ。その隣にマクエルがいた。



「リン殿、ショウ殿。やはり貴殿達がユリウスが言っていたフェンリル様と使徒様だったんですね。」


「別に僕は自分から使徒だって言ったわけじゃないんですけどね。それより一緒に来てくれませんか。今、フィリップ国王達とこれからのことを話し合っているんですよ。」


「私なんかが行ってもいいんですか?」



 するとリンがぶっきらぼうに言った。



「デンブルク王国を任せられるのはあなたしかいないでしょ!」



 僕達はマクエルとジェストを連れてフロイト公爵の屋敷にテレポートした。僕達が戻ると4人が目を丸くして驚いた。



「ロベルトの言った通りだ!急にいなくなって急に現れる!これがあの失われたという転移魔法ですか!」


「ウオーレンさん。転移魔法じゃありませんよ。僕は魔法が使えませんから。」


「そ、そうでしたな。」



 僕とウオーレンの話を聞いてその場の全員が不思議そうな顔をした。使徒が魔法を使えないのだ。誰がどう考えてもおかしな話だ。するとリンが説明した。



「魔法なんていうのは神々の力の模造品よ!ショウが使っているのは神力よ!」



 するとウオーレンが聞きなおした。



「神力?!まさか、ショウ殿は神なのか?!」


「違いますよ!ウオーレンさん。僕が神なはずがないでしょう。アテナ様もライフ様もフドウ様も他の神々の方達も、僕なんかよりはるかに強いですし高貴ですから。」


「ま、ま、まさか、ショウ殿は神々にあったことがあるのか?」


「・・・・・」



 ついうっかり口を滑らしてしまった。慌てて僕は話題を変えた。



「僕のことよりこれからのことを相談しましょう。」



 カイザーの部下達が逃げられないように、この王都の出入り口をフロイト公爵が兵士を引き連れて封鎖する。同時にデンブルク王国との国境も、ウオーレン辺境伯がロベルト達を引き連れて封鎖する。そして、ベラミン達がいるアジトには僕とリルとマクエル、ジェスト、それにアストロ侯爵に率いられた兵士達で向かうことにした。



「カイザー様からの返事はまだ来ないのか!」


「はい。」



 すると、一人の男がベラミンに報告に来た。



「ベラミン様。街の様子が変です。」


「何が変なのだ?」


「はい。王都の4か所ある検問所に、それぞれ500名ほどの兵士達が集まっています。」


「ハッハッハッハッ アストロの奴が挙兵でもしたんだろう!いよいよこの国もカイザー様のものだな。」



タッタッタッタッ



「ベラミン様!ご報告です!」


「どうしたのだ!騒々しい!」


「この宿に向かってアストロ侯爵が兵士を引き連れてやってきます!すぐにお逃げください!」


「なんだと~!アストロの奴、裏切ったのか!・・・・全員武装しろ!」


「ハッ」



 そのころ僕達はアストロ達とともに宿屋に向かっていた。



「宿屋が王都の中心から離れていて良かったわね。」


「まあね。でも、一応街に被害が出ないように結界を張っておいてね。」


「わかってるわ。優しいのね。ショウは。」



 その頃、マクエルとジェストは先に宿屋に向かっていた。



「マクエル様。フェンリル様と使徒様は、この後どうなされるおつもりなのでしょうか?まさかデンブルク王国を亡ぼすおつもりなのでしょうか?」


「それはないだろう。リル殿はこの私にデンブルク王国を任せると言ったのだ。」


「そうですが・・・」


「くどいぞ!それよりもベラミン達の動きをしっかりと監視しないとな!」


「はい。」



 僕達は宿屋の2百メートルのところまで来た。そこでマクエル達に合流した。



「マクエルさん。変わったことは?」


「特にないですよ。」



 するといきなり左右の建物から魔法で攻撃された。



バーン ドカーン



 兵士達の中には地面に倒れ込む者もいた。



「リル!頼む!」


「わかったわ!」



『エリアヒール』



 リルの身体が光り、キラキラとした光の粒子が空から降り注いだ。そして倒れていた兵士達が起き上がった。



「き、き、奇跡だ!」


「俺達には神様がついているぞー!」


「オオ———!!!」



 どうやら宿屋の地下から外につながる抜け道があったようだ。アストロ侯爵の命令で兵士達が建物に向かって一斉に攻撃した。矢を放つものがいれば、炎の魔法を放つ者もいる。建物の宿から数人が落ちてきた。それをマクエルとジェスト、それに兵士達が打ち取っていく。僕とリルは大きな魔力の反応のある場所に向かった。



「リル!この嫌な感じはもしかしたら・・・」


「そうね。悪魔ね。でも四天王ほどの魔力じゃないわよ!」


「ならあの女悪魔と同じレベルだね。」



 宿屋の中からゆらゆらと黒い靄が現れた。その靄の中からベラミンと宿屋の女将が姿を現した。

 


「もしかしてあの女将も悪魔だったってこと?」


「そうみたいね。」



 するとベラミンと宿屋の女将の姿が一つになっていく。どうやらベラミンは女将の分身体だったようだ。女将の身体から真っ黒なオーラが溢れ出した。討伐を終えたマクエルやアストロ達が引きつった顔で見ていた。



「リル!結界を張って!」


「わかったわ!」



 リルが悪魔を中心に結界を張った。



「貴様達は何者だ?」


「それはこっちのセリフだ!お前はクレナイやディアブの仲間か!」


「やはりお前がディアブ様を倒した使徒か!ハッハッハッハッ だがもう遅い!もうシルフ様の復活を止められるものはいないのさ!お前達がいくら強かろうとシルフ様にはかなわん。フツフツフッ その前に、このシャルナ様が貴様達を殺すがな!」



 シャルナの身体から溢れ出ている黒い靄が黒く巨大なドラゴンへと変化していく。そして真っ黒なブレスを吐いてきた。僕は背中の剣でそのブレスを斬った。



「なるほどな。ディアブ様を倒しただけのことはある。だが魔力のない使徒など赤子も同然だ!」



 シャルナは背中から黒い翼を出して上空に舞い上がった。そして、こちらに手を向けた。すると僕もリルも体の自由が奪われ動けなくなった。



「ハッハッハッハッ たわいもない!」



 僕は全身にかけめぐる力を解放した。するとディアブを倒した時のように僕の身体が光りに包まれていく。



「そんなこけおどしが、このシャルナ様に通用すると思っているのか!」



 シャルナの手に鋭く長い爪が現れた。



「この手で切り刻んでくれるわ!」



シャルナが凄い速さで向かってくる。



『止まれ』



 シャルナが空中で止まった。シャルナ自身も何が起こったのか理解できないようだ。



「き、き、貴様!何をした!」


「終わりだ!死ね!」



 僕は背中の剣を抜いて神力を注ぎ込む。



『万物を切り裂け!』



 僕が剣を振るとシャルナの身体が真二つになっていく。そして肉体の中から現れたシャルナの本体も2つに分かれて消えていった。



「ショウ!やりすぎよ!見てみなさいよ!」



 リルが指さした方向を見るとリルの張った結界も、そしてその先の空間まで斬れていた。僕が頭に念じると、斬れてゆがんだ空間が再び一つになっていく。



「終わったね。戻ろうか。」


「そうね。」


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