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アストロ侯爵

 アストロ侯爵は自分の娘オリビアを国王フィリップの婚約者にしようとしたが、その計画は実現しなかった。オリビアには心に決めた男性がいたのだ。その男は冒険者マクエル。だが、アストロ侯爵に命を狙われているマクエルは、身を隠しているようだった。そこで、僕とリルはオリビアに頼まれてマクエルを探し出したのだが、マクエルはただの冒険者ではなさそうだった。



「マクエルさん。もしかして、どこかの貴族か何かなんですか?」


「どうやら君達に嘘は通じそうもないようだね。お察しの通り、私はデンブルク王国の第3王子さ。」


「第3王子がなぜこんな場所にいるんですか?」


「君達は僕が王子だと聞いても驚かないんだね。君達は何者なんだ?」


「僕達はただの冒険者ですよ。ただ、世界が乱れるのを許せないだけなんです。」



 マクエルが少し考え込んでいた。



「君達、帝国に行ったことはあるかい?」


「どうしてそんなこと聞くんです?」


「いや~。スチュワート帝国の皇帝ユリウスは俺の親友でさ。以前、奴が神の使徒様とフェンリル様に助けられたって言っていたんでね。」



 まさかこんなところでユーリの名前が出てくるとは思わなかった。考えてみればスチュワート帝国とデンブル王国は隣国だ。交流があっても不思議ではない。



「僕達はそんな立派なもんじゃないですよ。それよりこの国に何しに来たんですか?もし内乱を企てに来たんなら・・・」


「違うさ。逆だよ。」


「逆?」


「そうさ。我が国の第2王子カイザーがどうやらこの国の内乱を画策しているようなんだ。それを防ぎに来たのさ。」


「何故内乱を起こそうとしてるのよ?」


「私の兄の第1王子バークルは生まれつき病弱でね。カイザーはこの国で内乱を起こさせ、その隙にこの国を属国にすることで貴族達を味方につけて、自分が国王になろうとしているのさ。」



 リルの顔が徐々に赤くなっていく。



「もしかして、アストロ侯爵に近づくためにオリビアを利用したってこと?もしそうなら、私はあなたを許さない!」


「確かに最初はそのつもりだったさ。けど、彼女は純粋なんだ。純粋で人を疑うことをしないんだ。それに、彼女の優しさに俺は打たれたよ。俺はオリビアさえいてくれれば何もいらないんだ。王位継承権もお金もすべてを捨てることができるさ。」



 どうやらマクエルの気持ちは本物のようだ。なんとかオリビアと会わせてあげたい。だが、第2王子カイザーはどうやってこの国に内乱を起こさせようとしているのだろうか。



「マクエルさん。カイザーは何をしようとしてるんですか?」


「俺の諜報員が調べたところ、カイザーの手のものが商人に扮してアストロ侯爵に近づいたようなんだ。オリビアをフィリップ国王の妻にすることで、実権を握るように唆したようだ。」



 不思議なのは、オリビアが皇后になったからといってそんなに簡単に実権を握れるものなのだろうか。王族派の貴族達が黙っていないはずだ。



「そんなに簡単に実権を握れるのかな~?この国って結構貴族が大勢いそうなんだけどな~。」


「ショウ殿の言う通りだ。簡単にはいかないだろうな。王族派の貴族が黙っていないだろうからな。そこが狙いなんだよ。貴族派が反抗する王族派を粛清しようとしたらどうなると思う?」


「内戦になるかもね。」



 確かにマクエルの言う通りだ。だが、その手段はあまりにも稚拙のような気がする。もっと、何か隠されたものがあるんじゃないかと疑ってしまう。


 それから僕達は内戦を防ぐための作戦会議をした。まずは相手を知らなければ始まらない。僕とリルはアストロ侯爵に会う方法を考えた。



「どうしようかな~?」


「この際だからウオーレン辺境伯とエリーナに頼んでみたら。」


「なんかエリーナ様に頼み事し辛いんだよな~。」


「エリーナから求婚されたら断れなくなるもんね。」


「違うよ。」

 


 リルにちょっと痛いところをつかれた。確かにその通りだ。恐らくエリーナは僕のことが好きだろう。エリーナは可愛いし僕も好きだけど、僕にはリルがいる。僕には同時に二人の女性を幸せにすることはできない。

 


「仕方ない。ウオーレン辺境伯様にお願いしようか。」



 僕とリルは辺境伯の屋敷を訪ねた。



「そうか~。デンブルク王国の第2王子が陰で糸を引いていたのか。このままだと我が国はデンブルク王国と全面戦争になってしまう。ただでさえオリント聖教国との問題を抱えているのに。どうにかしなければならんな~。」


「あのさ~。リル。カイザーとオリント聖教国が手を組んでいるなんてことはないよね?」


「可能性はあるわ。でも、今はこの国を何とかしないと。」


「そうだよね。でもどうしようかな~。王族派の辺境伯様が侯爵を訪ねるわけにもいかないしな~。」


「だ・か・ら!さっき言ったでしょ!エリーナにオリビアに会いに行ってもらえばいいのよ。私達もエリーナの級友として一緒について行けばいいのよ。」


「エリーナが危険じゃないかな~。」


「大丈夫よ。私が渡した指輪があるじゃない!エリーナに危険が及べば、あの指輪が結界を発動するわよ。それに、私達だっているんだから。」



 方針は決まった。辺境伯の承諾を得て、僕達はエリーナと一緒に侯爵邸のオリビアを訪ねることにした。


 

「エリーナ様。お付き合いさせてしまってすみません。」


「いいんですよ。ショウ様と一緒にいられるんですもの。」


「エリーナ。恐らく危険はないと思うけど、もしそうなったら指輪の魔法が発動するからね。」


「うん。」



 侯爵屋敷の前まで来ると門兵に呼び止められた。エリーナが辺境伯の家紋を見せて、学園の先輩のオリビアに会いに来たことを告げた。しばらくして、門兵が玄関まで案内してくれた。そして、そこにはメイドが立っていた。



「どうやらアストロ侯爵は来客中のようだね。」


「そうね。」



 僕達は玄関から建物の1階を通って、2階のオリビアの部屋に案内された。建物に入ってからだが、何か違和感を感じる。この違和感がなんなのかわからない。



「お久しぶりです。オリビア先輩。こっちは私の知り合いで・・・」


「知ってるわよ。エリーナさん。」


「えっ?!」



 僕とリルがオリビアの部屋に忍び込んだことは言ってなかったのだ。



「それでどうでしたか?彼は見つかりましたか?」


「ええ、見つけましたよ。」


「本当に?どこにいるの?元気なの?どこも怪我してない?」


「安心しなさい。元気よ。」


「そうですか~。良かったわ~。」



 エリーナは僕達の話についてこれないようだ。改めてエリーナにも説明した。



「そうだったんですか~。オリビア様にも思い人がいらっしゃったんですね。」


「心配かけたみたいね。エリーナ。ごめんなさいね。」


「いいえ。大丈夫です。」



 それよりもこれから先どうするかの方が大事だ。アストロ侯爵は誰と会っているのだろう?もしかしてカイザーの手のものとよからぬ相談をしているのかもしれない。



「リル!アストロ侯爵の部屋の会話を聞けないかな~。」


「ショウも気になるのね。わかったわ。やってみる。」



 リルが魔法でアストロ侯爵の部屋まで透明な糸のようなものを出した。それを伝わって中の会話が聞こえてきた。




「アストロ殿!そろそろ決断していただきましょうか!我が主カイザー様について内乱を起こすのか、それともデンブルク王国を敵にまわして戦争をするのか、どちらですか!」


「もう少し待ってくれぬか!ベラミン殿!」


「待てませぬな!カイザー様をお待たせするのはもう限界です!」


「わかった!ならば戦の準備を始めるとしよう。最初はウオーレン辺境伯の領都を攻め落とすことにしましょう。デンブルク王国からも援軍を派遣してもらえるんでしょうな。」


「当然ですよ。アストロ殿。」



 やはり思った通りだ。だが、アストロ侯爵の真意がわからない。なぜ内乱に躊躇したのだろうか、それにどうして王都から離れたウオーレン辺境伯領から攻撃するのか、考えてもわからないことだらけだ。



「どうしてかな~?」


「ショウ。もしかしてアストロ侯爵の考えがわからないんでしょ?」


「そうだけど、リルはわかったの?」



 オリビアもエリーナも不安で泣きそうな顔をしていた。



「アストロ侯爵はこのヨハネス王国を守ろうと必死なのよ。だからウオーレン辺境伯領を攻撃するなんて言ったのよ。」



 するとエリーナが泣きそうになりながら言った。



「どうして?どうしてギザなの?」


「ギザには神の使徒とフェンリルがいるかもしれないからよ。ギザの人々が危なくなったら、助けてもらえると思ったんじゃないの!」



 言われてみればそうだ。恐らく僕とリルの噂はこのヨハネス王国に広がったはずだ。アストロ侯爵は僕とリルに助けを求めているのかもしれない。



「リル!僕、決めたよ!この国で悪さをするデンブルク王国の連中を討伐して、マクエルさんと一緒にデンブルク王国のカイザーを討つよ。」



 オリビアが驚いた顔で僕を見た。



「そうね。ショウ。それにこの件には四天王が関係しているかもしれないわね。」


「ああ。間違いないだろうね。」



 エリーナが心配そうに聞いた。



「四天王って?」


「悪魔さ。ルシフを復活させようと悪魔の四天王が動いているんだよ。」



 オリビアもエリーナも恐怖で顔が引きつっている。



「大丈夫よ。ショウなら負けないわ!」



 暫くして、アストロ侯爵の部屋からベラミンが出てきた。その顔を見て思い出した。宿屋にいた青年だ。僕達はベラミンの後をついて行くことにした。すると、ベラミンは僕達が泊っている宿屋に入っていった。



「アストロ侯爵のところに行くわよ。ショウ。」


「そうだね。内戦を起こさせるわけにはいかないからね。」



 僕とリルは再度アストロ侯爵の屋敷に出向いた。



「待て!お前達は何者だ!」


「うるさいな~!アストロ侯爵に用事があるのよ!」


「曲者だ~!」



 兵士達がぞろぞろとやってきた。騒ぎを聞きつけてオリビアが慌てて兵士達の前に立った。



「待ちなさい!この方達は敵ではないわ!お父様に用事があるのよ!」


「ですが、お嬢様!」



 すると、アストロ侯爵が後ろからやってきた。



「騒々しい!何事だ!」


「侯爵!あなたに用事があるんです!」


「わしはお前達なぞ知らん!この者達を追い出せ!」


「ハッ」



 ここで僕は侯爵に言った。



「デンブルク王国のベラミンと言えばわかりますか。」


「き、き、貴様!どうしてその名を!」



 ここでリルがしびれを切らしたのかフェンリルの姿に戻った。



ワオー



「も、も、もしや、フェンリル?!」



 再びリルが人の姿になった。



「これで話をする気になった?アストロさん。あなたのために来てあげたのよ!このままじゃ、あなた地獄行きよ!」


「お父様!お願いです。ショウ様とリル様の話を聞いてください!」



 アストロ侯爵は下を向いてうなだれた。そして、僕達はアストロ侯爵について彼の執務室に行った。


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