侯爵令嬢オリビアと冒険者マクエル
ヨハネス王国の王都サワイに到着した僕達は、街を散策しながら宿屋を探した。あまり人気のなさそうな宿屋に入ったのだが、そこで殺気を纏った若者と出くわした。その日は宿屋でゆっくり休んで、その翌日ウオーレン辺境伯の屋敷に行った。
「シ、ショウ様!本当にショウ様なの?!」
いきなりエリーナが抱き着いてきた。
「こら!エリーナ!」
「エリーナ様。お久しぶりです。」
エリーナがリルを見た。
「私よ!わからないの?エリーナ!リルよ!」
「えっ?!リルちゃん?」
「ええ、そうよ。リルよ。」
「どうして?」
「私はフェンリルなのよ。人間の姿になることぐらい簡単よ。」
「そうなのね~。あの可愛い子犬ちゃんがこんなに綺麗な女性になるなんて、信じられないわ!」
「エリーナも立派なレディーになったみたいね。すごく綺麗になったわよ。」
リルに褒められてエリーナは顔を真っ赤にしている。それから、昨日のシャルル襲撃事件や今後の方針について辺境伯と話し合った。問題なのは、フロイト公爵とアストロ侯爵が犬猿の仲ということだ。ことの発端は簡単だ。新国王のフィリップの婚約者を決める際に、公爵令嬢のシャルルと侯爵令嬢のオリビアが候補になったが、結局当時皇太子だったフィリップがシャルルを選んだことが原因だった。
「2人を婚約者にすればいいじゃないの!」
「リル殿。それは無理なんです。我が国では王族であっても側室は娶りません。ですから、シャルル様が存命中はオリビア様と結婚することはあり得ないのです。」
日本で暮らしていた僕にとっては当たり前だが、この世界では一夫多妻制の国もある。
「そうなると、妥協点を見出すのは難しいですね。どうすればアストロ侯爵は納得するのかな~?」
「ショウ。シャルルにはもう会ったから、オリビアに会いに行ってみない?」
「いいけど。どうして?」
「シャルルは礼儀正しい普通の女性だったけど、オリビアがどんな女性なのか知りたくない?」
正直、僕には全く興味がない。でも、リルの言う通りどんな女性なのかは知っておいた方は良さそうだ。
「わかったよ。」
すると、エリーナが言ってきた。
「オリビア様とシャルル様は親友なんです。二人とも成績優秀で優しい方ですよ。」
「どうしてエリーナ様が知ってるの?」
「王立学院の先輩だったので。お二人には私、色々助けていただきましたから。」
「そうなんだ~。」
なんか余計に話が複雑になってきた。オリビアの方は一体どう考えているのだろうか。やはり、オリビアに会いに行く必要がありそうだ。
「辺境伯様。ちょっと調べたいことがあるので出かけてきますね。」
僕とリルは辺境伯の屋敷を出て、王立学園の近くを散策することにした。シャルルとオリビアの情報を得るためだ。
「確かにお店はたくさんあるわね。」
「聞き取り調査でもしようか。」
聞き取り調査をした結果わかったことがある。エリーナが言う通り二人は親友だったようだ。当時、新国王のフィリップも上級生として在籍していた様だが、別に二人との接点があったわけではないらしい。
そして、有力な情報がつかめないでいた僕達は、侯爵屋敷に忍び込んで直接オリビアに話を聞くことにした。屋敷の周辺には衛兵達がいる。僕達はリルの魔法で姿を消して忍び込んだ。
“オリビアの部屋はどこかな~?”
“多分ここよ。いい匂いがしているもん。”
やはり年頃の少女だ。確かに甘い香りが漂ってきた。部屋に入るとオリビアは机の前に座って外を眺めていた。何か考え事をしている様子だ。僕達はそのまま様子をうかがった。すると、オリビアの口から思いがけない言葉が出た。
「マクエル様は何しているかしら?会いたいわ~。」
どうやらオリビアには会いたいと思う人がいるようだ。僕は小さな声で話しかけた。
「オリビアさん。」
「えっ?!誰?!」
オリビアは慌てて椅子から立ち上がり、周りをキョロキョロと見始めた。
「驚かせたようだね。ごめんね。君と話をしたいんだけど、いいかな?」
「誰なの?!姿を見せないと人を呼ぶわよ!」
僕とリルは彼女の前に姿を見せた。すると、オリビアは意外な反応を見せた。
「もしかして天使様?」
「いいえ。僕達は天使じゃないですよ。」
「そうよ!どこが天使に見えるのよ!あなたが思い悩んでいるようだったから、話を聞こうと思っただけよ。」
「私は別に・・・」
「正直に話して欲しいんだ。マクエルって誰なの?」
「・・・・・」
どうやらリルが限界のようだ。
「あなたの父親が、シャルルとフィリップの結婚の邪魔をしようとしてるのよ!あなたの父親は、あなたをフィリップの妻にしたいみたいなの。このままだとこの国は内戦になるわ!それでもいいの!」
オリビアは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに気を取り戻しで話し始めた。
「私は~、シャルルにはフィリップ陛下と幸せになってもらいたいのよ!私の分までね。」
「あなたはそれでいいの?」
「私にもお慕いしている人がいるわ!でもその人は冒険者で、お父様が反対しているの!もう私どうしたらいいかわからないわ!このまま死んでしまいたい!」
オリビアはその場に泣き崩れた。この世界では、貴族が権力や地位のために娘を利用するのは当たり前なのだろう。だが、僕には我慢できない。
「協力できるかもしれないから、そのマクエルって人のことを教えてくれるかな?」
オリビアが護衛と一緒に街を歩いていた時に、人相の悪い男達に襲われたそうだ。その時、暴漢から助けてくれたのがマクエルだったそうだ。マクエルはAランク冒険者で、商人の護衛のためにデンブルク王国からやってきていたようだ。それから数日の間、オリビアとマクエルは王都をデートするようになっていたのだが、マクエルのことがアストロ侯爵の知るところとなり外出禁止となったらしい。その間にフィリップ陛下の婚約者の選定が行われ、シャルルが陛下の婚約者に決まったのだった。それに激怒した侯爵は、マクエルに逆恨みして刺客を送ったが、マクエルはすでに姿を消した後だった。
「なら、オリビアはマクエルと一緒になりたいのね?」
オリビアは小さくうなずいた。
「お父様が許してくださらないのなら、私はこの家を出てもいいと思っています。でも、マクエル様がどこにいるのかわからなくて・・・・」
「もしかしたら王都に隠れてるかもしれないし、僕達が探してみるよ。」
「本当ですか?」
「うん。ただ、見つかるかどうかわからないから、そのつもりでいてね。」
「はい。ありがとうございます。」
僕とリルは姿を消してその場を後にした。
「どうするのよ?もしかしたら王都にいないかもしれないわよ。」
「多分いるよ。だって、好きな女性がこの王都にいるんだよ!僕だったら絶対にあきらめきれないもん。」
翌日、僕達は冒険者ギルドに行ってみた。
「ちょっと聞いていいですか?」
「何かしら?」
「マクエルさんってどこにいるか知りませんか?」
「そうね~。ここ最近、彼の姿を見ないわね。もしかしたらデンブルク王国に帰ったんじゃないかな~。」
ギルドでも有力な情報は得られなかった。二人であてもなく歩いていると、僕達の後をつけてくるものがいた。
「手がかり発見ね!」
ギルド内で僕達がマクエルを探していることを知って後をつけているのだ。何か手掛かりを見つけられるかもしれない。僕達は気がつかないふりをして街の散策を続けた。
「どうするの?声でもかける?」
「宿に戻ろうよ。そしたら彼も帰るでしょ?その後をつければいいさ。」
「さすがね。ショウ。」
僕達は一旦宿に戻った。宿の窓から見てみると、やはり身軽そうな男が宿の方を眺めていた。そして、建物の陰から男の姿が見えなくなったのを確認して、僕とリルは後をつけた。
「どこに行くのかしら?王都を出るつもり?」
「多分、王都は侯爵の手のものが見張っているから、森にでも潜んでるんじゃないかな~。」
思った通り王都を出て森の中に入っていった。森に入って10分ほど行った場所に古い屋敷があった。男はその中に入っていった。屋敷の前には見張りの男が2人いる。
「マクエルって本当に冒険者なのかな~?」
「どうして?」
「だって見張りがいたり、僕達の後をつけてくるものがいたり、なんかどこかの国の諜報員みたいだよね。」
「確かにね。言われてみればそうね。探ってみましょうか?」
「うん。」
僕達は姿を消して建物の中に侵入した。大きな部屋では冒険者風の男が椅子に座っている。その前に片膝をついて話をしている男がいた。どうやら、椅子に座っている男がここの責任者のようだ。
「殿下。本日、ギルド内にて殿下のことを探っている男女がいました。」
「ジェスト!もしかして、そやつらはアストロ侯爵の手のものか?」
「いいえ。それはないと思います。2人は王都内の宿屋に入っていきましたから。」
「そうか。」
男が辺りを気にし始めた。もしかしたら、僕達のことがばれたのかもしれない。次の瞬間、男が僕に向かって腰の剣を投げつけてきた。
ズサッ
危ないところだったが、剣は天井に突き刺さった。
「いるのはわかっているんだ!姿を見せろ!」
仕方がないので、僕とリルは姿を見せた。
「やはりな。貴様達は何者だ?侯爵の手のものか?」
「違うけどね。オリビアさんに頼まれてマクエルっていう人を探していただけだけど。」
「オリビアに?」
「そうよ!あんた!オリビアのことをどう思ってるのよ!彼女は真剣にあなたことを愛しているのよ!」
「そうか。」
すると、ジェストが僕達に斬りかかってきた。僕は指に気を集中させてそれを受け止めた。
「やめるんだ!ジェスト!この者達は敵ではない!」
「ハッ」




