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この世界の人間と初めての遭遇

 僕がこの世界に転生してから2年が経った。この2年で身体が成長しただけでなく、気の技、気術も使えるようになっていた。例えば、手に気を集中させれば力が強くなる。足に木を集中させれば速く動くことも可能だ。目に木を集中させれば、ホーンラビットやホーンボア、それに強敵のレッドベアの動きすらゆっくり見えるようになる。


能力は確実に向上したが、寂しさが限界状態だった。誰かと話そうにも相手がいないのだ。僕は寂しさを紛らわすためにワザと大きな声で独り言を言っていたが、それも限界だ。



“あ~あ。一人がこんなに寂しいなんてな~。日本にいた時は、周りが煩くて我慢できなかったのに、一人がこんなに孤独だとは思わなかったよ。お父さんもお母さんも悲しんでるだろうな~。”



 僕はこの2年間、遺跡から川沿いに1㎞ほど上流に行った場所にある滝に通っている。精神集中の修行の一環だ。滝に打たれていると感覚が研ぎ澄まされていくのだ。お陰で、あの本に書かれていたように、ものを燃やしたり、重力に関係なくものを動かしたりできるようになった。さらに、ここ最近では、目に見える範囲でならテレポートのような瞬間も移動可能になっていた。



ザザザザー


カサカサ カサカサ



 僕がいつものように滝に打たれていると、茂みの陰から何やら白い生き物が現れた。僕は水からあがって、白い生物に近づいた。よく見ると子犬だ。



“『フェンリル』”


「えっ?!」



 子犬に近づこうとしたら、僕の頭に突然イメージが沸き上がった。まるで天の声が聞こえたかのようだ。



「君はフェンリルなのか?」


「ワン!」


「ただの子犬にしか見えないんだけどな~。」


「ウ~ ウ~」


「そうか、自分は犬じゃないって言いたいんだな。」


「ワン!」



 本来なら、神獣のフェンリルが目の前に現れたことに驚くべきところだが、今までずっと一人でいたせいか、目の前にいるフェンリルが新たな友人のように思えた。



「君は迷子なのか?」



 フェンリルは下を向いたまま何も反応しない。人間の言葉が理解できるはずがないのだ。そう思うと悲しくなってきた。



“このまま僕はずっと一人なのかな~。”



 すると、フェンリルが尻尾を振りながら僕に飛びついて、顔を舐めまわしてきた。



「こらこら!やめろよ!くすぐったいだろ!」


「ワン!」



 人間の言葉がわかるはずもない。そう思いながらも僕はフェンリルに聞いた。



「君、僕と友達になってくれるのか?」


「ワン!ワン!」



 フェンリルは尻尾を振りながら再び顔を舐めまわしてきた。毛がふさふさしていて温かい。



「僕はショウっていうんだ。君の名前は?」



ク~ン ク~ン



「そうか。人間の言葉を話せるわけないよな~。じゃあ、今日から君はリルだ。いいよね?」


「ワン!」



 それから、僕はリルと一緒に暮らすようになった。リルは子どもと言えどもさすがにフェンリルだ。その能力は非常に高い。強敵のレッドベアとの戦いも、リルが一緒だと危なげなく勝つことができた。



「今日はご馳走だな~。久しぶりにホーンボアの肉だ。」


「ワンワン!」



 さらにそれから1年が過ぎた。修行の成果なのか、自分で言うのもおかしいが僕はかなり強くなったと思う。ただ、この世界の人々の強さの基準が分からないので、過信は禁物だ。それに、リルも大分成長した。3m以上の巨体になり、今では僕を背中に乗せて平気で森の中を駆け巡っている。それに、リルはフェンリルだけあって魔法が使えるのだ。中でも、水魔法と風魔法、光魔法は飛びぬけている。僕が怪我をしたときなんかはリルが光魔法で治してくれるのだ。



「リルって本当に何でもできるんだな。偉いな~。」


「ワン!」



リルが来てからというもの、寂しかったここでの生活も楽しく感じられるようになった。そんなある日、リルが急に森の中に注意を払い始めた。



「リル!どうしたの?」



ウー ウー



「森の中に何かあるの?」


「ワン!」



 リルが大勢を低くした。僕に背中に乗るようにと言っているのだ。僕はリルの背中に乗って森の中を進んで行く。すると、鎧を着た兵士達がレッドベアに襲われていた。



「リル!あの人達を助けるよ。」


「ワン!」



 僕とリルはレッドベアに突っ込んでいった。すると、突如巨大なフェンリルが現れたことで、レッドベアは森の中に逃げて行った。兵士達も腰を抜かして怯えている。僕は言葉が通じるかどうか考えもせず、兵士達に声をかけた。



「大丈夫ですか?」


「ああ、助かったよ。」


「君は?」


「僕はショウです。」


「その大きな犬は君の使い魔かい?」



 どうやら、兵士達はリルがフェンリルだということに気付いていないようだ。当たり前だが、本棚の本の中にも書かれていたが、この世界でフェンリルは神獣であり、伝説の生き物なのだ。



「違います。リルは僕の友達です。」


「ワン!」



 リルが吠えると兵士達は怯えながら後ずさりした。



「怖がらなくても大丈夫ですよ。リルは賢いですから。」


「ワン!」



 兵士達の話では、この森は『深淵の森』と呼ばれていて、世界で最も危険な場所のようだ。そんな場所に僕が一人で住んでいることが不思議に思えたのだろう。いろいろと質問してきた。



「ショウ殿はどうしてこんな場所に一人でいるんだ?」


「ショウでいいですよ。」


「そうかい。わかったよ。なら、もう一度聞くが、どうしてこんな場所に一人でいるんだ?」


「僕、記憶がないんです。気が付いたらこの場所に一人でいて・・・・」



 どうやら兵士達は僕がこの森に捨てられたと思ったのだろう。物凄く同情してくれた。



「ロベルトさん達はどうしてこの森に来たんですか?」


「調査だよ。定期的に森の中に入って調査しているんだ。魔物が増えて、この近隣の街に溢れ出たら困るからね。ただ、道に迷ってしまってかなり奥まで来てしまったようなんだ。」


「そうなんですか~。」


「ショウ。こんな森の中で一人で生活するのは大変だろう?俺達と一緒に街に来ないか。」



 僕は考えた。リルがいてくれるから以前に比べてさほど寂しくはない。でも、異世界の街も見てみたい。



「わかりました。では、今日は僕の家に行きましょう。明日、一緒に街まで連れて行ってください。」


「いいのかい?」


「ええ、何もありませんけど。」


「構わないさ。この森に入ってから、みんな熟睡したことがないんだ。それだけでも助かるよ。」



 考えてみればそうだ。僕が最初にこの森に来た時も、怖くて熟睡できなかったのだから。僕はロベルトさんと他の兵士4人を家に案内した。家と言っても古代遺跡を利用しただけの場所だ。ロベルトさん達は古代遺跡を目の当たりにして驚いたようだ。



「こ、こ、これは遺跡じゃないか?!」


「隊長!これは重大発見ですよ。」


「ああ、そうだな。」



 兵士達の目がキラキラとしている。遺跡と言えばお宝だ。きっと金銀財宝があると思っているのだろう。だが、この2年間で僕が探しつくしたが、お宝は見つからなかった。お宝はなかったが、本棚の本と祭壇のような場所に残されていた剣と魔法袋は、僕にとってはこれ以上ないお宝だった。



「ロベルトさん。お宝を期待しても無駄ですよ。多分、昔に盗掘されたようで、この遺跡にはお宝は残っていませんでしたから。」


「そうなのか~。」


「残念ですね。隊長。」


「ああ。だが、ここに遺跡があるってことは、昔はここに街があったってことだろ?魔物が怖くて誰も入らないこの場所に街があったっていうのは、凄い発見だと思うぞ!」


「確かにそうですね。隊長。」



 ロベルトさん達には、僕の部屋とは別の大きな広間のような部屋に寝てもらうことにした。


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