救出作戦終了
攫われたエルフ族と獣人族を救い出すために、傭兵に扮して闇市の会場に潜り込んだ。そして、僕とペルは彼女達の救出に成功し、闇市の会場に戻ってくると、思ったとおり騒ぎになっていた。
“リル!大丈夫か?どこにいる?”
“外の中庭よ!いきなり護衛の連中に疑われて囲まれてるわ!”
疑われるのは当たり前かもしれない。倉庫の中にいた警備全員が意識を刈り取られ、僕とペルと少女達だけが姿を消したのだから。僕達の仲間のリルとアルが犯人扱いされるのは当然だろう。
「急ぐよ!」
僕はペルと中庭に向かった。すると、リルとアルを取り囲むように大勢の傭兵達が立っている。中庭の右側には、2人が殺されるのを楽しむかのように貴族達が眺めていた。そして一番奥の高い場所にはシラー伯爵とガルム公爵がいる。その隣に人相の悪い男が立っていた。
“リル!着いたよ!さあ、大掃除を始めようか!みんな!遠慮はいらないよ!”
“わかったわ!”
リルが上空に手をあげると、光の矢が何本も現れる。魔法が使える傭兵達は自分の前に結界を張った。そして、リルが手を下すと光の矢が雨のように降り注いだ。弱い結界の傭兵達は次々と地面に倒れていく。その隣では、アルが剣に魔法を付与して真横に力いっぱい振った。すると、剣から轟轟と炎が飛び出し傭兵達を倒していく。
僕とペルの前の傭兵がいなくなった。おかげで僕とペルからもリル達の姿が見える。
「私も負けてられないにゃ!」
ペルが剣を抜いて気を纏い、傭兵達に斬りつけていく。剣で防ごうとするが、ペルは剣ごと斬った。
すると、ガルム公爵の命令を受けたのか、人相の悪い男が僕達の前にやってきた。
「怪しいとは思っていたが、貴様らは何者だ?そっちの女は獣人族のようだがな!」
アルも変身を解いた。
「私はエルフ族よ!よくも私達の同胞を攫ってくれたわね!あんた達には死んで詫びてもらうわ!」
「ハッハッハッハッ エルフに獣人か。まあ、俺様の相手には不足だが、相手をしてやろう。そっちの二人は何者だ?人族ではあるまい!」
リルが怒った。
「そんなことあんたに関係ないでしょ!」
「まあ、そうだな。死んでいくものに聞いてもしょうがないな。」
「あんたこそ何者なのよ!あんたこそ人族じゃないでしょ!」
「俺の正体を知りたいなら、せいぜい頑張るんだな。ハッハッハッハッ」
ディアブはかなり強く、自分に自信があるのだろう。余裕に構えているが隙が無い。ペルが剣に気を纏って斬りかかる。だが、ディアブの姿が消えた。そして次の瞬間、ペルの後ろにいた。
「危ない!」
『ファイアーアロー』
ディアブがペルを突き刺そうとした時、リルがディアブに魔法を放った。
「こざかしい真似を!ふん!」
ディアブがリルに手を向けるとリルは大きく後ろに吹き飛んだ。まるで気術のようだが、気術ではない。
「ショウ。あいつ相当強いわよ!」
「そのようだね。あいつの相手は僕がするよ。みんなはその間に他の奴らを退治してくれるかな。」
「わかったわ。気を付けてね。」
ディアブも僕の強さに気がついているだろう。何も言わずに魔力を高めていく。すると、真っ黒なオーラがどんどん溢れ出す。以前戦った女の悪魔どころではない。このディアブという男ははるかに強い。
「お前!もしかして悪魔か?あの女悪魔の仲間か?」
「ハッハッハッハッ やはりな。クレナイを倒したのはお前か!だが、あんな雑魚と一緒にされては困るな。俺はルシフ様に使える四天王の一人だ。」
「ルシフ?確か以前の大戦のときに封印されたなんじゃないのか?」
「ああ、そうだ。神々の介入がなければあんなことにはならなかったがな。だがいい。ルシフ様ももうじき復活されるからな。」
「どういうことだ?」
「おしゃべりはここまでだ!行くぞ!」
ディアブの姿が消えた。だが、彼の行動は予測できる。僕の頭上に現れるはずだ。僕は上に向かって剣を突き上げた。すると、予想通り上に現れたディアブは慌てて剣を避けた。
「俺の動きを予測しただと!貴様!何者だ!」
「何者って言われても困るんだけど!僕は普通の人族なんで。」
「ありえん!人族が俺の攻撃を予測するなど!絶対にありえん!」
確かに以前の僕なら無理だろう。でも、天界で死ぬほどきつい修行をしてきたんだ。あの程度のことは簡単にできる。
今度はディアブが魔法を放ってきた。ディアブの手から巨大な漆黒のドラゴンが現れ、僕に襲い掛かる。僕は念を放った。
『散れ!』
すると、漆黒のドラゴンがどんどん薄くなっていく。そして、最後には消えてなくなった。
「なんだと~!俺の魔法を防ぐだと~!ありえん!絶対にありえん!」
ディアブの身体が黒い靄に包まれていく。そして、靄の中から頭に角を生やし背中に漆黒の翼をつけた巨大な悪魔が現れた。それを見ていたガルム公爵とシラー伯爵が逃げ出した。恐らく2人もディアブの正体を知らなかったのだろう。たとえ悪魔に誘惑されていたとしても、彼らの犯した罪は許されるものではない。
『燃えろ!』
2人の身体が青白い炎に包まれていく。
ギャー
「助けてくれー!」
バタン
ガルム公爵もシラー伯爵も完全に燃えつき、跡形もなく消えた。
「やはり貴様はただの人間ではないな!ま、まさか神々の使徒なのか!」
「僕が使徒だって~?そんなはずないよ。まあ、どっちでもいいけどね。そろそろ終わりにしようか。」
「なめるな!」
ディアブがさらに強力な魔法を放とうとしている。さすがにこれだけの魔力を込めた魔法を発動させるわけにはいかない。この王都が壊滅する可能性がある。
『止まれ!』
ディアブの動きがとまった。
「貴様!何をした?」
「動きを止めただけさ。そんな魔法を放たれたら、この王都にかなり被害が出そうだからね。そうだ!悪魔って精神体なんだよね!その肉体が滅んでも死なないんでしょ?でも、その精神体が滅べば、あの女悪魔みたいに死ぬよね?地獄で自分の行いを悔い改めな。」
「何をする気だ?」
僕は背中の剣を抜いた。そして、念を込めて剣を振った。
『万物を切り裂け!』
グハッ
ディアブの身体が2つに分かれていく。そして、その肉体から抜け出そうとしているディアブの本体も2つに分かれた。
「終わった~。」
あたりを見渡すと全員が立ち止まって茫然としていた。僕とディアブの戦いを見ていた様だ。
「まだ逆らうつもり?もし、逆らうなら僕が直接相手をしてあげるけど。」
すると貴族達も護衛の傭兵達も慌てて手に持っている武器を捨て、地面に平伏した。もしかしたら僕のことを神の使徒とでも思ったのだろう。
「リル!彼らに罪を償わせたいんだけど、何かいい方法ないかな~。」
「あるわよ。」
リルが彼らに向かって手を広げ、魔法を唱えた。
『出でよ!贖罪の輪』
すると、貴族達や傭兵達の首に黒い輪が現れた。そしてリルが大きな声で彼らに言った。
「その首輪はあなた達が悪事を行えば頭を斬り落とすことになるわ。逆に、罪を償い善行を施せばやがては外れるでしょう。わかったわね!」
全員がぶるぶる震えている。僕は彼らに言った。
「罪を償う気持ちがあるなら、今すぐ屋敷に戻って奴隷達をここに連れてこい!」
後は、王城で囚われている前王の后と王子を解放するだけだ。
「リル!アルと一緒に王城に行って王子達を解放してくれるかな~。」
「わかったわ。ショウはどうするの?」
「ペルと一緒にここで待ってるよ。奴隷にされた人達が連れてこられるからね。」
「わかったわ。」
リルとアルが王城に向かって走って行った。2人になったところでペルが聞いてきた。
「ショウは本当に人族にゃ?」
「そうだよ。今更どうしたの?」
「あの悪魔との戦いは凄かったにゃ!一方的だったにゃ!それに、ショウは魔法が使えないのに魔法でもできないことができるにゃ!神の使徒にゃのか?」
「どうかな~。神様達からは『使徒にする』なんて言われなかったし、ただ、この世界が平和になるように協力して欲しいとは言われたけどね。」
「神様達にあったにゃか?」
「まあね。天界で神様達に修行してもらったからね。」
ペルの目が点になっている。
「やっぱり、ショウは神様の使徒様にゃ!間違いないにゃ!」
「やめてよ。ペル。僕は普通の人間なんだからさ~。」
そんな話をしていると、貴族達とその傭兵達が続々とやってきた。傍にはエルフ族や獣人族の女性達がいた。ほとんどの貴族が出そろった頃、リルとアルがウイリアム王子と王妃を連れてやってきた。貴族達も傭兵達も全員が僕に平伏している。そして、ウイリアム王子と王妃までもが片膝をついて臣下の礼をとった。解放された奴隷達は何が起こっているのかわからない様子だ。
「使徒様。この度はありがとうございました。亡き父に代わりお礼を申し上げます。」
「お二人とも立ってください。僕達はこの国に攫われてきた人達を助けただけですから。それよりもこれからの方が大変ですよ。ここにいる貴族達を処分したり、王位を継いだり、やらなければいけないことが山積みじゃないですか!」
ウイリアム王子と王妃が立ち上がって聞いてきた。
「恐れ入ります。この者達は私が処分してもよろしいのでしょうか?」
ガルム公爵の言いなりになっていた貴族達が、どんな処分になるのかとびくびくしている様子だった。
「あなたが新たな国王なんですから当然だと思いますよ。でも、一ついいですか?」
「はい。なんでしょう?」
「彼らには二度と罪を犯さないように『贖罪の輪』を嵌めてあります。だから、死刑は勘弁してあげてください。貴族の身分をはく奪して社会貢献させた方がいいと思いますよ。隣にいる傭兵達もです。」
「社会貢献ですか?使徒様に何か考えがおありでしたらお聞かせください。」
「そうだな~。例えば、国王直轄の部署を作ってそこに所属させます。この国の道路の整備や学校、治療院などの建設、それに災害が起きた時の復興支援だとか、役に立てることはいろいろありますよ。」
すると、リルが貴族達と傭兵達に言った。
「あなた達は大きな罪を犯したのよ!人々の役に立つことを行いなさい!そうすれば罪も償われるわ!」
「は、はい!!!」
そして僕は、解放された女性達を1か所に集めた。
「準備はいいね!行くよ!『テレポート』」
すると、僕達の周りの空気がゆがんでいく。そして、僕達は深淵の森の古代遺跡までやってきた。先に来ていた女性達も新たに連れてきた女性達も驚いた様子だったが、姉妹や知り合いだった者がいたようで再会に感動していた。
「感動しているところを悪いけど、これからみんなをフェアリー大陸まで連れて行くからさ。準備してくれるかな。」
先に来ていた女性達が古代遺跡に荷物を取りに行っている。その間に、アルとペルがみんなに僕とリルのことを説明してくれていた。
「さて、これからアニム王国の王都まで行くよ!」
『テレポート』




