王都イスタンクに到着
僕とリルは手持ちのお金が少なくなったので、シルベニア王国に入ってすぐに冒険者ギルドに行った。そして、馬車に乗って王都イスタンクに向かう途中で、ギルドにいた不思議な2人組の女性冒険者に声をかけられた。
「お前達、馬車は結構大変だろ?」
「そうにゃ。お尻がヒリヒリするにゃ。」
「どうだ?一緒に食事に行かないか?」
するとリルがぶっきらぼうに言った。
「何であなた達と食べなきゃいけないの!」
リルが僕の手を掴んでその場から離れようとすると、最初に声をかけてきた色白の女性が小さな声で僕達に言ってきた。
「私には魔力が見えるんだ。そっちの彼には魔力がない様だが、お前の魔力には神聖なものを感じるんだ。お前は本当に人族なのか?」
魔力のない僕にはわからないが、リルの正体がばれたらまずい。何とか誤魔化さないと。そんなことを考えていると、リルが彼女達に怒ったように言った。
「あなた達こそ何者よ!これ以上私達に付きまとうようなら本気で怒るわよ!」
魔力のない僕にもリルの身体から溢れ出るオーラは見える。以前帝国で僕が経験した奴だ。すると、何故か女性冒険者達は焦ったようだ。
「わかった。すまなかった。」
「ごめんにゃ。」
2人は違う方向に歩いて行った。
「リル!彼女達は何者なんだろうね。」
「エルフ族と獣人族よ!」
「えっ?!だって人族と同じ姿をしてたじゃないか。」
「魔法で姿ぐらい変えられるわよ。」
確かにそうだ。リルも魔法で姿を変えているんだから不思議なことでもなさそうだ。それよりもお腹が空いた。その後適当に街を歩いて、近くにあった食堂で食事をしてから宿に向かった。
「朝だよ!リル!馬車が行っちゃうよ。」
「もうそんな時間?」
「早くしないと朝食抜きだよ。」
その後のリルの行動は素早かった。
「おはようございます。皆さん。遅くなってすみませんでした。」
僕達が馬車に行くとすでに全員が揃っていた。
「じゃあ、出発しますよ。」
例の2人組の女性冒険者達が遠くから僕達を睨んでいる。それから馬車に揺られて2時間ほどした頃、薄暗い森の中に入った。全員に緊張が走る。すると、もうすぐ森の出口というところで馬車が停まった。窓からのぞいてみるとゴブリンとオーガの姿が見えた。
「リル!行こうか!」
「え~!護衛がいるんでしょ?」
「リルが行かないならいいよ。僕だけで行くから。」
「わかったわよ。行くわよ!」
老夫婦が慌てて僕達を止めた。
「君達!危ないから中にいた方がいいよ!外には冒険者達もいるんだから!」
「そうよ。危ないわよ。子どもなんだから!」
「大丈夫です。これでも、僕と姉はCランクの冒険者ですから。」
老夫婦も若夫婦も僕の言葉に驚いていた。僕達が馬車から降りると、3台の馬車を囲むようにゴブリン達がいた。その後ろにはオーガの姿がある。
「もしかして、ゴブリンとオーガが協力してるってこと?」
「普通なら考えられないわ。でも一緒にいるんだから間違いないわね。」
ゴブリンはともかくオーガはBレベルの魔獣だ。すでに護衛の冒険者の中には犠牲者が出始めている。2人組の女性冒険者は他の護衛を守りながら戦っていた。
「しょうがないな~。やるよ!リル!」
「わかったわ!」
僕達は剣に気を纏わせてオーガ達に向かって行った。最初は余裕に構えていたオーガも、仲間があっという間に殺されるのを見て森の中逃げ始めた。
“誰も見てないよな~。”
あたりを確認した後、僕はオーガに向かって念じた。
『潰れろ!』
バッタン ドッタン バタッ
グチャ ベチャ グチャ
森の中に逃げ込んだオーガはすべて死んだ。安心して森から出て行こうとすると、女性の声が聞こえてきた。
“やはり、ゴブリンやオーガ程度では相手にならぬか。まあいい。あいつの力は大体わかったからな。“
辺りを見渡しても誰もいない。僕は急いで森から出た。すると、すでにリルがゴブリンを殲滅していた。
「終わったようだね。」
「まあね。やっぱり気術を覚えてよかったわ。」
僕とリルが話をしていると他の冒険者達が感謝を言いに来た。森の反対側を見ると、亡くなった冒険者がいたようで、火魔法を使える仲間が火葬していた。
2人組の女性冒険者は何か言いたげだったようだが、僕達は無視して馬車に乗り込んだ。面倒ごとにかかわりたくないのだ。
”リル。“
“なに?”
“森の中で女の声が聞こえたんだよ。聞き覚えのある声だったんだけど。”
“もしかして帝国であった悪魔じゃないの?”
リルに言われて気付いた。そうだ。あの声は確かにあの悪魔の声だ。
“間違いないよ。あの悪魔だよ。”
“それでなんて言ってたの?”
“オーガ程度じゃダメかとか、僕の力がどうとか言ってたよ。”
“あなた、悪魔に目をつけられたのよ。”
そうかもしれない。悪魔の企てを台無しにしたんだから、恨まれても当然だ。
“悪魔って殺せるの?”
“悪魔は肉体を持ってないから物理攻撃は効かないわ。だから、私のように魔法で攻撃するしかないのよ。”
“なら、僕は勝てないってことだよね?”
“大丈夫よ。私が何があってもショウを守るから。”
“ありがと。”
リルと話して思った。確かに僕は強くなった。でも、それは今まで戦ってきた相手が僕より弱かっただけの話だ。僕の力が悪魔に通じない。そう思った瞬間、身体の中に恐怖が駆け巡った。何か対策を考えなくちゃ。
そして再び馬車に乗って移動を開始した。
“なぜあの二人は人族の国にいるのかしらね?”
“確かに今までエルフ族や獣人族を見なかったけど、普通はいないの?”
“マイヤー先生が授業で言ってたでしょ!エルフ族や獣人族、ドワーフ族は人族を嫌ってるって!人族の国にわざわざ住む者がいるわけないじゃないの。”
“そうなんだ~。でも、戦争って相当昔の話なんでしょ。未だに嫌ってるのかな~。”
“エルフ族とドワーフ族は平均的に300年は生きるわ。獣人族だって150年ぐらい生きるわよ。彼らにとっては昔の話じゃないんじゃないの。”
“そっか~。そんなに長生きするんだ~。”
リルの顔が少し暗くなった。多分、人族の僕のことを考えたのだろう。人族の僕は生涯老いることのないエルフと違って年を取れば老いていく。それに、100年も生きなれないだろう。それに対してリルは神獣フェンリルだ。老いることも年齢で死ぬこともない。
馬車は順調に進んでいき、王都イスタンクに到着した。老夫婦と若夫婦、それに冒険者達に感謝されて解散となった。解散後、僕とリルは街を散策することにしたが、どうやら2人組の女性冒険者が僕達の後をついてきているようだ。
「さすがに王都だけあって賑やかだよね。」
「でも帝都ほどではないわね。」
「まあ、あの国は特別だと思うよ。ユーリさんが皇帝なんだからさ。」
「ショウ。気付いてるわよね?」
「後ろの2人のこと?」
「やっぱり気づいてたのね。」
「僕達から話しかけようか?」
「仕方ないわね~。」
僕は後ろを振り返って彼女達のところに行った。
「僕達に何か用でもあるの?」
「まあな。話したいことがあってな。」
「そうにゃ。話したいことがあるにゃ。一緒に食事するにゃ。」
リルに言われて意識してみたが、やはりリルの言った通りエルフと獣人族で間違いなさそうだ。何か大事な話があるのかもしれない。僕達は4人で街をぶらぶらしながら、いい匂いを漂わせている食堂に入った。




