森での生活
僕は小学校の時に見た超能力の特別番組を見た。その時から不思議な力を持ったようで、他人の心の声が聞こえるようになった。その結果、学校に行けなくなってしまった。丁度僕が中学3年になったある日のこと、本屋に行く途中で雷に打たれたようだ。気が付けば姿形も変化していて、見たことのない場所にいた。そこで凶暴な野ウサギに襲われ、必死に燃えるように念じた結果、目の前で野ウサギは青白い炎を出して燃え始めた。
“もしかして魔法かな~。僕が魔法を使ったとか。まさかな~。それとも超能力とか。その方が可能性が高いよな~。昔、スプーンを曲ちゃったしな~。”
そう思って川原に落ちている木の棒に向かって念じてみた。
「燃えろ燃えろ燃えちまえ!」
何も起きない。
“なんでだ~?もしかしたら必死さが足りなかったのか?”
その後、何度か試したがやはり何も起こらなかった。すると無性にお腹が空いてきた。目の前には、焼けた野ウサギの死体が転がっている。それを川原の石で捌いて食べた。最初はグロテスクに感じて気持ち悪かったが、腹がすきすぎて我慢できなかったのだ。
「なかなかうまいじゃないか。」
それから、2日は食べ物に困らなかった。野ウサギの肉と森の中の桃やミカンがあったからだ。その間、僕は何とか木の棒に火をつけようと何度も何度も必死に念じた。そして、とうとうその瞬間がやってきた。
ボッ
「燃えた~!燃えたぞ~!やった~!」
とうとう木の棒が青白い炎を出して燃えたのだ。感覚を忘れないようにとさらに他の木の棒でも試してみた。
ボッ
「やった~!これでなんとかなるぞ!」
それから、石器時代の人々が使っていたような槍を作った。そして、寝る場所を確保するために川沿いを下っていくことにした。川原では石がごつごつしていて、背中が痛くて寝れなかったのだ。2時間ほど歩くと、木々の間から人工物のようなものが見えた。ゆっくりと近づいていくと、どうやら遺跡のようだった。大きな丸い柱が何本も倒れている。それを隠すかのように雑草が茂っている。
“ここって遺跡か何かだよな~。あの中に入ってみるか。”
大きな石の崩れた場所に入り口らしき穴が開いていた。僕はその中に入っていった。石の隙間から日光が差し込んでいる。奥に進んでいくと部屋のような場所があった。腐りかけた本棚や机がある。本棚の中には埃だらけの書物が並んでいた。
“よし!当面ここで生活するか!”
僕はこの部屋を拠点に生活することにした。そうと決まれば掃除からだ。木の枝を集めてほうき代わりにして、部屋のほこりをはいていく。焼けた野ウサギの毛皮をぞうきん代わりにして、部屋中を拭いていった。部屋の真ん中に像が倒れている。何とか動かそうとしたが、重くて動かない。
“この像、じゃまだな~。どうにかどかさないと寝る場所がないや。”
超能力で火をつけることができたならばと、同じ要領で像を動かそうと念じてみた。すると、ゆっくりだが少しずつ像が端に動いていく。
“やればできるもんだな~。”
寝床が確保できたので本棚を見ることにした。見たこともない文字で書かれていたが、不思議なことに僕にも読めた。
「『能力の種類』か~。どんな本かな~。」
ページを開くと、1ページ目に『この本は魔法書である。表紙に手を書いてみるがよい。』と書かれていた。僕は書かれている通りに本に手をのせると、頭の中に様々な情報が流れ込んできた。
「すごいな~。これが魔法なのか?」
最初に書かれていたのは能力の区分だ。
『世界にはいくつかの能力がある。それは種族によって特性が異なる。例えば魔法は魔族、エルフ族、ドワーフ族が優れている。逆に気の力においては人族、獣人族が優れているのだ。ただし、今もって解明されていない別の能力もある。その力は神に与えられた能力と考えるほかないだろう。特記すべきことは、もはや人族には使えない大魔法のようなことまでできるらしい。この力を手にしたものは、恐らく世界中から注目されることになるだろう。』
僕は愕然とした。もしかしたら、この最後の能力っていうのは僕の言う『超能力』のことなのかもしれない。それともう一つ大事なことが書かれていた。
『魔法を使う場合も気を使う場合も、厳しい修行が必要である。確かに生まれ持った才能も必要だが、どちらも集中力と経験によってレベルが大きく変わるのだ。だとするならば、私の言う未知なる能力も同様に修行と精神集中が重要なのかもしれない。』
確かにそうだ。僕がものを燃やすことができるようになったのは、野ウサギに襲われて必死に念じたからだ。なんか少し希望が湧いてきた。
「よし!明日から修行するぞー!」
他の本も眺めてみる。同様に本に手を置くだけでその中身が頭の中に入ってきた。使うことができないかもしれないが、魔法の習得方法や気の使い方、それに植物図鑑や魔物図鑑。この世界の様々な知識が僕の頭の中に記憶された。そして、その本は僕が読み終わるとすべてのページが真っ白になってしまった。
グググー
お腹が鳴り始めた。今日は果物しか食べていない。そこで、森の中に狩りに行くことにしたのだが、森に入ってすぐに角の生えた野ウサギを見つけた。
“あの野ウサギってホーンラビットっていうんだ~。なるほどね~。日本のウサギと違って肉食だったんだな~。”
頭の中に取り込んだ知識がかなり役に立つ。そうこうしていると、木の向こうに角の生えた巨大な猪が現れた。
“あれはホーンボアか。相当凶暴な奴のようだな。気付かれないようにしないとな~。”
その日は、ホーンラビットを捕まえることができずに桃やミカン、それにリンゴの実を採って戻ることにした。
“この世界で生きていくには強くならないとな。せっかく魔法や気の使い方が分かったんだから、修行するしかないよな。”
その翌日から僕は頭の中に浮かんでくる方法で魔法の練習を始めた。ところが、どうやっても魔法が使えない。
“やっぱり僕がこの世界の人間じゃないからかな~。何か間違えてるのかな~。”
住処に戻って役に立ちそうな本を探していると、本棚の下の戸棚に水晶を見つけた。そこには『属性判定水晶』と書かれた紙があった。僕はその水晶を机の上に置いて、頭に浮かんだ通り、心臓からお腹の辺りに意識を集中させて水晶に手をかざしてみた。
“やっぱりダメか~。何の変化も起きないや~。これって魔法が使えないってことだよな~。”
魔法が使えないことのショックよりもこれから先の不安が頭をよぎった。
「しょうがない!魔法が使えないなら気を使えるようにすればいいだけだ。それに僕には、ホーンラビットを燃やした超能力があるんだから!」
方針が決まった。その日から僕は気の使い方の訓練と、精神集中に時間をかけるようにした。頭に浮かぶ方法をいろいろと試していく。成長しているようには思えなかったが、それでもあきらめずに修行した。
そんなある日、遺跡の探検をすることにした。
「遺跡なんだからお宝があるかもしれないよな~。まあ、お宝があってもここじゃ役に立たないんだけどね。」
そんな独り言を言いながらあたりの遺跡を探検していると、祭壇のような場所があった。祭壇の前に古ぼけた1本の剣が横たわっていた。
「ラッキー!古そうだけど磨けば使えるかもしれないよな~。」
さらに遺跡の周りを探していると、ズタ袋のようなものや古い剣、それに火をともすランタンのようなものが落ちていた。
「もしかしたら、これって何でもはいる魔法袋だったりして!まあ、そんなはずないか。」
皮でできた袋は木の実を入れたりするのに便利だったので、そのまま持ち帰ることにした。
「汗びっしょりだ!お風呂に入りたいな~!」
この世界の暮らしは結構大変だ。お風呂がないので近くの川で水浴びをするのだが、シャンプーや石鹸がない。そのため、身体の汗を流す程度のことしかできない。それに食事だ。頭の中に浮かぶ野草や、果物、それにホーンラビットの肉が中心だが、調味料がないので美味しくない。生きるために仕方なく食べている。
“ああ、日本で暮らしていたのってかなり恵まれた生活だったんだな~。”
一番困ったのは服と靴だ。僕の身体がどんどん大きくなる。すると当然服は着れなくなるし、靴も履けなくなる。そこで、狩りで仕留めたホーンラビットや野生動物の毛皮で服を作り、残りの皮と木をくり抜いて靴を作った。すべて僕自身の手作りだ。
そして翌日、再び森の中に修行に出かけた。しばらく歩いていると、目の前にぷよぷよした緑色の生物がいた。
“これってもしかしてスライムなのか?”
すると頭の中に浮かんできた。
『グリーンスライムは消毒に使える。ブルースライムは食材になる。シルバースライムは金属の加工に使える。』
“なるほどな~。やっぱりこれってスライムなんだ~。緑色しているってことは消毒に使えるってことだよな~。”
僕は棒を拾って、緑色のスライムを必死に叩いた。すると、どうやらスライムは絶命したみたいで動かなくなった。そこで、昨日発見した袋の中に入れようと、スライムに手を触れた瞬間スライムは吸い込まれるように袋の中に入ってしまった。
「やっぱりこれって魔法袋なんだ~!凄い発見だぞ!」
僕は上機嫌で上流へ向かって歩いていると、昨日までは気づかなかったが水辺に水色のスライムが群がっていた。僕はそれをひたすら叩いた。そして、腰に付けた魔法袋にしまう。
「これだけあれば十分だな。」
その後、川原でいつものように気の訓練と精神集中の訓練をして、水浴びすることにした。
“グリーンスライムって消毒に使えるんだよな~。試してみるか。”
僕は服を脱いで魔法袋からグリーンスライムを取り出した。それを身体にこすり付けるようにすると、身体がヌルヌルになった。物凄く気持ち悪い。慌ててヌルヌルを水で洗い流した。
「うそだろ!!!肌がつるつるになったぞ!髪もサラサラだ!」
僕は服を着た後、急いでねぐらまでもどってブルースライムにかじりついた。口の中いっぱいにさわやかな甘さが広がっていく。まるでゼリーだ。
「旨い!めちゃくちゃ旨いぞ!」
ブルースライムを丸々1匹食べてしまった。そして、その日は満足しながら気分よく寝た。