シルベニア王国へ出発
スパイダーを殲滅し、ハゲラ侯爵を討伐した僕とリルは幸福亭に戻った。当然リルは人の姿に戻っている。ハルとアルベルトにさんざんお礼を言われたが、クリスは黙ったままだ。相当ショックだったのだろう。僕とリルも疲れていたのですぐにベッドに寝転んだ。
「リルが無事で本当に良かったよ。」
「ショウがあんなに心配してくれるなんて!」
リルが僕にくっついてきた。何か照れくささも感じたが、その日はリルの温もりが物凄く幸せに思えた。
「これからどうするの?」
「そうだな~。もうこの国にはいられないもんな~。また、旅に出ようか?」
「いいわよ。でも、ショウは安寧の地でじっくり生活したいんでしょ?」
「まあね。きっとどこかにあるよ。見つかるまでは旅を続けるしかないさ。」
そして、知らないうちに寝てしまったようだ。翌朝起きると一階が騒々しかった。僕とリルが降りていくと、兵士達がいきなり敬礼してきた。
「ハルさん。何事ですか?」
「ユリウス皇帝陛下がお呼びだそうですよ。」
「僕とリルをですか?」
「そうみたいね。」
するとクリスがハルの陰から出てきた。
「ショウ兄ちゃん。リル姉ちゃん。助けてくれてありがとう。昨日はごめんなさい。」
ハルが申し訳なさそうに言った。
「昨日、帰って来てからクリスにいろいろ聞いたよ。ありがとうね。リルさん。ショウ君。昨日はこの子も動転していて、ちゃんとお礼が言えなかったみたいでね。」
「いいんですよ。」
僕はクリスを見て言った。
「怖がらせちゃってごめんね。クリスちゃん。」
「うんうん。ショウ兄ちゃんは悪くないの。ただ、驚いただけだから。それに、リル姉ちゃんは私のことを命がけで守ってくれたもん。それなのに、私・・・エーン。ごめん、ヒック、なさい。」
「いいのよ。クリスちゃん。こうしてみんな元気なんだから。」
どうやら兵士達は僕とリルを城に連れていくために来たようだ。敬礼するぐらいだから悪意はなさそうだが、僕は城に行く気はない。行けばこの国に残るように頼まれるに違いないからだ。フェンリルがいるという噂だけでも他国への牽制になる。ましてや魔王のごとく強い存在がいるとなれば、帝国の力を借りて他国への侵略を考える者達まで出てくるだろう。
「すみません。僕とリルはここで失礼します。ユーリさんに伝えてください。『僕は魔王ではないですよ』って。」
「あの~!しかし、皇帝陛下がお二人を連れてくるようにと・・・」
僕はテレポートで古代遺跡の住処まで帰った。突然僕達がいなくなったので、兵士達は慌てていた様だが、ハルやアルベルトがしっかりと説明してくれるだろう。
「やっぱりここなのね。」
「まあね。ここが僕の実家みたいな場所だからね。」
リルが真剣な顔で言ってきた。
「私はショウの足手まといね。」
「何を急に言い出すんだ!リルがいてくれたから今の僕があるんだよ。足手まといなんて思ったことなんか一度もないよ!」
「でも、実際に私はショウに助けられたわ。魔法が使えないフェンリルなんて何の役にも立たないのよ。」
「だったら僕が気術を教えてあげるよ。」
「気術?」
「そうさ。あのヘラクルスとかいう奴も使っていただろ!」
「あの技ね。厄介な技ね。でも、私に使えるかしら?」
「種族によってそれぞれ特性があるんだ。魔族やエルフ族は魔法に適性が高くて、獣人族と人族は気術や武術に適性が高いんだ。リルはフェンリルなんだから、きっと気術だって使えるさ。」
「わかったわ。なら、教えて!あのヘラクルスとかいう男よりも絶対強くなるわ!」
「あの男の気術は基本中の基本だよ。リルならすぐにあの程度は使えるようになるさ。見てて!」
僕は目の前の大きな岩に向かって、ヘラクルスと同じように気の球を放った。すると、辺りの空気が歪み、目の前の大きな岩が粉々に砕け散った。
「ねっ!簡単でしょ!」
「ショウ!やっぱりあなたは普通の人族じゃないわね。」
「なんでだよ!ここまでできるようになるのに3年もかかったんだよ。死に物狂いで頑張ったんだからさ。」
「そうなのね。でも、いくら努力しても限界はあるでしょ?私にはショウの限界が見えないのよ。」
それからリルの特訓が始まった。近くの滝に行って毎日滝うち修行をする。それから精神を統一して体の気を感じ取るのだ。それが出来たら今度は気を目や耳、手や足などに集中させる。ひたすら訓練するしかない。リルは愚痴も言わずに必死に耐えた。
「修行を始めて1ヶ月だね。一度試してみようか。」
「そうね。」
リルが岩に向かって気の球を放った。だが、岩が少し砕ける程度だ。
「やっぱりまだまだね。」
「慌てることはないさ。この前も言ったけど、僕は3年かかったんだよ。リルはまだ1か月でしょ。1か月でこれだけできれば上出来だよ。」
「そう?」
「そうさ。ただ、見ていて思ったんだけど、リルは呼吸の方法が少し浅いんだよね。気術は精神統一と呼吸からエネルギーを作り出す技なんだ。もう少し深くゆっくり呼吸してごらん。慣れてくれば自然にできるようになるから。」
「わかったわ。」
さらにそれから1か月が過ぎた。
「ショウ。なんかできそうなの。見てくれる?」
「いいよ。」
リルが目を閉じて深く深呼吸した。すると、リルの身体から気が溢れだしはじめた。
ドッカ―ン
パラパラパラ
「できたわ!」
「やったね!リル!」
リルが僕に抱き着いてきた。リルの胸が当たって少し気恥しい。
その日の夜、リルが聞いてきた。
「ショウ。私は今のままでもいいけど、ずっとここで暮らすの?」
「どうしようか考えているんだよ。」
「そろそろこの森を出て、東のシルベニア王国に行ってみない?」
「どうして?」
「その向こうにフェアリー大陸があるのよ。そこなら、獣人族やエルフ族、ドワーフ族が住んでるから住みやすいと思うわよ。」
「別に僕は人族が嫌いなわけじゃないよ!」
「ケモミミの女の子やふさふさの尻尾をした女の子もいるのよ。」
リルは何か誤解しているようだ。僕は別に女好きではない。でも、少しは興味がある。
「ケモミミやふさふさの尻尾ならリルがいるじゃないか!別に他の女の子はどうでもいいよ。」
するとリルがいきなり抱き着いてきた。柔らかいものが腕に当たっている。顔を赤くしていると、リルが言った。
「何を恥ずかしがっているのよ!ここには2人しかいなんだから!」
結局、リルの提案通りシルベニア王国に行くことになった。もしシルベニア王国が暮らしやすい場所ならそこに永住してもいいと思っている。そして翌朝、出発する前に僕はリルに1本の剣を手渡した。
「これどうしたの?」
「この遺跡にあったんだよ。僕の剣もだけどね。」
「そうなのね。なら遠慮なく使わせてもらうわね。」
「別に僕の物ってわけじゃないから。」
「それもそうね。」
すると、リルが聞いてきた。
「どうする?また、私の背中に乗っていく?」
「今回はいいよ。」
「なら、私はこのまま人の姿でいいの?」
「いいよ。フェンリルの姿のリルもいいけど、人間の姿のリルの方がもっといいからね。」
なんかリルがもじもじしている。
「だって、人の姿だったら普通に会話ができるじゃん。」
「そういうことね。」
僕達は森を東に歩き始めた。南にも北にも山はなかったが、東に向かうと小さな山がいくつもあった。その山では鉱石が取れるようで、進化して皮膚の硬いメタルザウルスやミスリルザウルスがいた。
「私にやらせて!」
メタルザウルスは僕が討伐したが、リルも自分の実力を試したいようだ。
「いいよ。やってみて!」
リルが背中の剣を抜いてミスリルザウルスにゆっくりと近づいていく。だが、ミスリルザウルスがリルに気付いたようだ。先に大きな棘のある尻尾で攻撃してきた。リルがそれをジャンプして避ける。
「リル!魔法を使っちゃだめだよ!」
「わかってるわ!」
リルは地面に転がっている石を拾って、ミスリルザウルスめがけて力一杯投げた。
バチン
石がミスリルザウルスの顔に当たり、ミスリルザウルスが一瞬目をつむった。その隙に、リルが大きくジャンプして上から剣で突き刺した。普通の剣なら無理だろうが、気を纏った剣だ。剣はミスリルザウルスの硬い皮膚を突き破り心臓に達した。
「やったわ!」
「おめでとう!もう気術を使いこなせるね。後は実践で威力をあげるようにするだけだよ。」
するとリルのお腹がグーと鳴った。
「お腹空いちゃった。」
「僕もさ。」
ここまでくる間に遭遇した魔獣は、ゴブリンやメタルザウルスのような食べられない魔獣だけだ。腹をすかせたリルがボソッと言った。
「あ~あ、ホーンボアとかホーンラビットがいればいいのにな~。」
魔法袋の中に今まで狩った魔獣が結構入っているのを思い出した。
「魔法袋に入ってるよ!」
「なんで今まで気づかなかったのよ!」
「忘れてたんだよ。しょうがないだろ!」
僕達はホーンボアを捌いて、焚火をしながら肉を串焼きにして食べた。
「調味料を帝国で仕入れておいて正解だよ。」
「確かにね。ただ焼いただけの肉よりはるかに美味しいわ。」




