スチュワート帝国の悪者退治
幸福亭の娘クリスがスパイダーの一味に攫われた。そして、ユーリとリルは相手が指定してきた貴族街の倉庫に向かった。すると、タランツの率いるスパイダーのメンバー達が幸福亭にやってきて、僕とハル、アルベルトを取り囲んだ。この程度の相手なら簡単に倒すこともできるが、ハル達に僕の能力を知られるわけにはいかない。
“どうしようかな~。ハルさん達が見てるしな~。まあ、普通に剣で戦っても勝てそうだし。”
スパイダーの連中が一斉に斬りかかってきた。僕は背中の剣を抜いて応戦する。ハル達を守りながらの戦いは意外に厄介だ。すると、タランツが魔法を放ってきた。僕はそれを剣で斬った。
「なんだと~!俺の魔法を剣で斬っただと!貴様のその技はもしかして気術か!」
「それがどうかしたか!」
「フフフ・・・面白い!」
タランツの魔法に対応しながらも、なんとかタランツ以外は全員討伐した。だが、魔法使いのタランツはそれなりに強い。僕が気術を使って斬りつけても結界に阻まれる。逆に炎で攻撃してくるのだ。うっかり避ければハル達に直撃してしまう。かなり厄介だ。
「そいつらを守りながらの戦いは辛いだろう。」
「・・・・・」
その頃、リルとユーリは護衛の兵士達とともに貴族街の倉庫にいた。
「よく来たな!ユリウス!」
「貴様はヘラクルト!」
建物の陰からスパイダーのメンバーと兵士達が現れ、その一番後ろから太った貴族風の男が出てきた。その横にはロープで縛られたクリスの姿があった。
「ハッハッハッハッ ユリウス!安心して死ぬがいい!ここでお前を殺した後、ブルート様を皇帝にして実権はこのわしが握るのだ!」
「ハゲラ!貴様~!その子を放せ!その子は何の関係もないだろう!」
すると、スパイダーのメンバーと兵士達が剣を抜いてゆっくりと近づいてくる。
「どうするんだ!ユーリ!」
「クリスを助けるさ!」
「わかった!」
ユーリとリル、それとユーリの護衛の兵士達が敵の中に突っ込んでいく。相手は50人ほどだ。護衛の兵士達が苦戦する中、ユーリとリルが相手を次々に討伐していく。だが、異変が起きた。ユーリもリルも突然魔法が使えなくなったのだ。
「さすがだな。ユーリ。だが、魔法が使えなければ魔法剣士など何も怖くなんぞない!」
「貴様何をした!」
すると、赤く光っていたヘラクルトの右手が一段と眩しく輝いた。次の瞬間、辺り一帯が薄い赤色のカーテンのようなもので覆われていく。
「ハッハッハッハッ アンチマジックだよ!古代遺跡から発見されたこの指輪は、魔法を使えなくできるのさ!これでお前もお終いだな!」
するとリルの身体に異変が起きた。身体が光り始め、人の姿がどんどんとフェンリルの姿に戻っていく。これにはユーリもクリスも、その場の全員が驚いた。
「お前はフェンリルだったのか!」
「ウ~ ウ~ ガウッ~」
リルはヘラクルトに飛び掛かった。だが、ヘラクルトが気を纏った拳をリルに向けると、リルが大きく後ろに吹き飛んだ。
「ガルル~ ウ~」
「俺様がなぜ魔法を使えなくしたのかわからぬか!俺様は気術の天才なんだよ!魔法なんぞなくとも貴様らの相手はできるんだ!」
辺りを見渡すと、ユーリの護衛達が地面に倒れている。ユーリは顔を真っ赤に死して残っている敵に突っ込んでいった。だがユーリは魔法剣士だ。魔法が使えなくなれば実力の半分も出せない。すると、ヘラクルトがクリスのところに行った。
「ユリウス!そこの獣!動くな!動けばこいつの命はないぞ!」
「卑怯な!」
「なんとでも言え!勝てばいいのさ!勝てばな!」
ヘラクルトが放った気の球がユーリの腹に直撃した。
グハッ
ユーリが口から血を吐いてその場に倒れ込んだ。さらに気の球が飛んでくる。すでに血だらけになったユーリは限界のようだ。
“このままじゃまずいわね。”
ヘラクルトがリルに向かって気で攻撃してきた。リルはそれを避けながら僕に念話を送った。
“ショウ!まずいことになってるの!すぐに来て!”
普段、リルから助けを求めてくるなんてことはない。よほどのことが起きたに違いない。もう悠長なことはしていられなくなった。
「ハルさん。アルベルトさん。今から見ることは内緒にしてください。」
二人は不思議そうな顔で僕を見た。僕はかまわずタランツに向かって歩き始めた。
「貴様!死ぬ気か!」
「遊びは終わりだ!」
「ふざけるな!俺の攻撃を避けるのが精いっぱいだったくせに!強がるな!」
僕はタランツに向かって念を込めて言った。
『燃えろ!』
すると、タランツの身体が青白い炎に包まれていく。焦ったタランツは必死に消そうとするが無駄な抵抗だ。炎は消えることなく燃え続ける。
「き、きさ、」
バタン
タランツは真っ黒になってその場に倒れた。
その頃、フェンリルの姿に戻ったリルはユーリを守りながら戦っていた。すでに全身傷だらけだ。
「さすがはフェンリルだ!俺の攻撃をここまで受けて生きているとはな。」
ヘラクルトはクリスのロープをほどいた。自由になったクリスがリルに向かって走り始める。次の瞬間、ヘラクルトはクリスに向かって気で練り上げた見えない球を放った。直撃すれば体の小さなクリスは死んでしまうだろう。リルが急いでクリスに近づき、クリスを庇うように覆いかぶさった。
バキッ
グハッ
気の球がリルの背中を直撃し、骨が折れる音が響いた。
「ハッハッハッハッ 流石のフェンリルも背骨が折れては動けまい。殺れ!」
10人ほどの兵士達がゆっくりと近づいていく。ハゲラ侯爵とヘラクルトは勝ち誇ったような顔でその様子を見ていた。ユーリが必死に助けに行こうとするが身体が動かない。
「やめろ~!やめてくれ~!俺の命ならくれてやる!やめてくれ~!」
グサッ
ズサッ
グサッ
グハッ
兵士達がリルの身体に剣を突き刺した。それでもリルは必死にクリスをまもろうとしている。
「さすがにしぶといな。そこをどけ!俺様がとどめを刺してやる!」
ヘラクルトが剣に気を流し込んでリルを突き刺そうとした時、空間にゆがみができた。僕がそこにテレポートしてきたのだ。
「き、貴様!どこから現れた!」
周りを見渡すと、血を流して動けないでいるユーリの姿があった。そしてその前方には、泣いているクリスの姿が見え、クリスを守ろうと全身血だらけで覆いかぶさっているフェンリルの姿が見えた。その瞬間、僕の中で何かが弾けた。
「貴様達がやったのか!」
「ああ、あそうだ!それがどうした!お前もすぐに殺してやるよ!」
心の底から怒りが込み上げてきた。日本にいたときさえ感じなかった感情だ。もう、抑えることはできない。僕の身体から真っ赤なオーラがゆらゆらと現れ、兵士達は困惑している。ガタガタと震え始める兵士もいた。だが、僕は許さない。僕は念を込めて言った。
『潰れろ!』
僕が両手を広げて一言言うと、突然兵士達が地面に倒れ、何かに押しつぶされたかのように全身から血を流して潰れた。
バッタ バッタン
グチャ
ハゲラ侯爵もヘラクルトも何が起こったのか理解できない。僕はユーリとリルのもとに行き、持っていたポーションを2人に振りかけた。
「もう大丈夫だから!」
後ろから声が聞こえる。
「貴様!なぜ魔法が使える!」
「答える必要はない!」
「ならば死ね!」
ヘラクルトが僕に向かって気の球を放った。
ヒュー
バシッ
僕はそれを片手で叩き落した。
「なぜだ!なぜ俺の気の攻撃が効かない!」
流石のヘラクルトも焦っている。僕は念動力でその場のすべての剣を空中に持ち上げた。
「なぜだ?ま、まさか、その力は魔法ではないのか!」
『動くな!』
ビシッ
すると、ヘラクルトは両手を広げたまま動けなくなった。
「な、な、何をする気だ!」
「処刑を始めるのさ!」
「や、やめてくれ!俺が悪かった!侯爵の命令だったんだ!やめてくれ!」
『死ね!』
手を振り下ろすと剣は一斉にヘラクルトに向かった。
グサッ
ズバッ
ドスッ
体中に剣が刺さったヘラクルトはその場に倒れた。それを見たハゲラ侯爵が逃げ出そうと走り出す。
「ま、ま、魔王だ!魔王が出た~!助けてくれ~!」
『燃えろ!』
ハゲラ侯爵の身体が青白い炎に包まれていく。
ギャー
僕は急いでリルのところに行った。
「リル!大丈夫か!リル!」
僕が抱きかかえると、リルがゆっくりと目を開けた。
“ショウ!ごめん!やられちゃった!”
「そんなことはどうでもいいさ。生きていてくれてよかった!リルがいなくなったら僕はこの世界にいる意味がなくなっちゃうじゃないか!」
“ショウ!・・・ありがと。”
ユーリが起き上がってこちらにやって来た。どうやらポーションが効いたようだ。
「助かったよ。ショウ。」
クリスは少し僕を怖がっているようだ。当たり前だ。目の前で僕は大勢の人間を殺したのだから。
しばらくして、ハルとアルベルトが帝国の兵士達と一緒にやってきた。
「お母さん!お父さん!」
両親を見て安心したのか、クリスが泣きながら両親のところに走って行く。ユーリは兵士達に状況を説明している。
「リル!立てるか?」
”大丈夫よ。“
兵士達がフェンリルの姿のリルを見て警戒した。
「大丈夫だ。彼らは味方だ。私の命の恩人達だ。」
兵士との話が終わったらしく、ユーリがこちらにやってきた。
「まさか、リルさんがフェンリルだったとはな~。信じられないよ。それにしても君は何者なんだ?ショウ。」
「安住の地を求めて旅をしている冒険者ですよ。」
「まあ、そうしておくよ。例え君が魔王であったとしても、悪しき存在でないことは間違いないんだからさ。」
するとリルが立ち上がった。
“ショウ。まだ終わっていないわ。あの建物の中に邪悪なものがいるわよ。”
僕は倉庫の方をみた。気術を使うと、確かに倉庫の中に黒い影が見える。
「ユーリさん。まだ、倉庫の中に誰かいます!」
すると、倉庫の中から一人の男性と黒い衣装をまとった女が姿を見せた。
「ブルート!」
どうやら、男の方はユーリの弟のようだ。そして、その隣にいる女性はハゲラの娘、つまりブルートの妻なのだろう。
「もう逃げ場はないぞ!投降しろ!」
すると、黒い衣装を身に纏った女が笑い始めた。
「ハッハッハッハッ 今回は失敗のようね。でも、面白いものが見られたわ。フェンリルに・・・不思議な力を持った少年。一体何者なのかしらね。これから楽しくなりそうだわ。」
女の姿がどんどん薄くなっていく。そして完全に消えた。隣にいたブルートは糸が切れた操り人形のようにその場に倒れた。
「ブルート!ブルート!しっかりしろ!」
リルがブルートの近くに行って吠えた。
ワォー
すると、ブルートの身体が光に包まれ、ブルートが意識を取り戻した。
「あ、兄上!ここは?」
「お前、何も覚えていないのか?」
「何がですか?私はハゲラ侯爵の屋敷に呼ばれて・・・・」
どうやらハゲラ侯爵の娘がすべての元凶だったようだ。もしかしたらハゲラ侯爵も操られていたのかもしれない。
“リル!あの女は何者なの?”
“もしかしたら、悪魔かもね。”
“悪魔?”
“そうよ。どうして?”
“以前読んだ本の中に悪魔の記載があったけど、悪魔って昔あった戦争の原因として封印されたんじゃないの?”
“そうよ。でも、すべての悪魔が封印されたわけじゃないわ。”
“そうなんだ~。”




