ハゲラ侯爵の悪だくみ
僕とリルは馬車で知り合ったバスコの店に来た。そこで、帝国の状況について色々と教えてもらった。バスコの店を出て冒険者ギルドに行き掲示板を見ていると、男達が声をかけてきた。
「お前らちょっと付き合えや。」
僕とリルは黙って男達についていった。僕達がつれていかれた場所は貧民街にある空き地だった。
「うちの連中が世話になったようだな。」
家の陰から黒い服を着た男性が現れた。かなり体格がいい。相当な実力者だ。その後ろに衛兵に突き出したはずの男達がいた。
「どうしてあんた達がここにいるのよ!」
「そりゃ、釈放されたからに決まっているだろ!」
男達がニタニタ笑いながら言った。そして体格のいい男が言ってきた。
「俺はスパイダーの副リーダーをしているタランツだ。どうだ?俺達の仲間に入らんか?月に金貨10枚やろう。それでどうだ?」
どうやらリルの実力を知って勧誘しに来たようだ。
「断るわ!あなた達のような悪党の仲間になんかなる気はないからね。」
「このやろう!」
部下達が一斉に剣を抜いた。すると、タランツが彼らを止めた。
「やめろ!お前らが全員でかかってもこの女には勝てねぇからな!」
「しかし、兄貴!このまま黙ってるんですか!」
「今日のところはな。だが覚えておけよ。いくら強くても勝てないこともあるってことをな。行くぞ!」
それから10日間は何もなく、いつものように冒険者ギルドに行って薬草採取や、ゴブリンやホーンラビット、ホーンボアの盗伐をして過ごした。お陰で僕もリルもCランクまで上がっていた。
「今日も冒険者ギルドに行こうか?」
「そうね。でも、ゴブリンやホーンラビットだと宿代払ってご飯食べたら終わりよね。せめてホーンボアがいてくれればいいんだけど。」
「リルが沢山食べるからだろ!」
「だって他に楽しいことないんだもん、仕方ないじゃない!」
最初のころは街の人達が僕のことをじろじろと見てきたが、今では美人姉弟として当たり前になっている。まあ、見慣れればそんなものかもしれない。
「もうフードを取っても大丈夫なのね。」
「まあね。」
ギルドの前にユーリがいた。僕達を待っていたようだ。
「何か用ですか?」
「まあね。歩きながら話そうか。」
ユーリがいつもになく真剣な顔で言ってきた。
「二人にお願いがあるんだ。」
「何ですか?いきなり。一応聞きますけど、できないこともありますからね。」
「ああ、わかってるさ。以前この国について話しただろ?」
多分、皇族や貴族の中での権力争いのこと言っているのだろう。
「この帝都にはスパイダーという組織があってさ。彼らが貴族と組んで悪さをしているって話をしたよね。」
「ええ、聞きましたよ。先日衛兵に引き渡した連中に昨日呼び出されましたから。」
「えっ?!そうなのかい?」
するとリルが説明した。
「タランツとか言ってたわ。スパイダーの副リーダーらしいわよ。なんか仲間になれって言ってきたけど。」
「それで?」
「断るに決まってるじゃない。死んでも悪党の仲間になんかならないわよ。」
ユーリがニコニコしながら言った。
「それは良かった。でも、あいつらもそろそろ必死になってきたようだな。」
「どういうこと?」
「皇帝が帝国内に奴隷禁止令を出すようなんだ。奴隷の身分でいる者も罪を犯してなければ解放されるんだ。」
「皇帝って凄いことするんだね。」
ここで僕は思い出した。僕のいた地球でも確かリンカーン大統領が奴隷解放宣言を出した後、暗殺されたような記憶がある。すると、ユーリもリンカーンと同じように命を狙われる可能性があるのだ。
「もしかしてスパイダーの収入減が無くなるってことですか?」
「まあ、収入源が無くなることはないだろうけど、打撃を受けることは間違いないだろうね。」
「でも、彼らが必死なら皇帝が命を狙われるってこともあるんじゃないかな~。」
「そうだね。警戒するように言っておいた方がよさそうだね。」
ユーリはまるで他人事のようだ。もう、僕とリルはユーリがユリウス皇帝だって感づいているのに。
「それで私達に何をしてもらいたいの?スパイダーの連中を全員殺せばいいの?」
リルの過激な意見を聞いてユーリが焦った。
「待ってくれ!そうじゃないんだ!スパイダーの後ろにはこの国の侯爵がついているんだ。その侯爵の娘は皇帝の弟の妻なんだよ。だから、スパイダーを潰せば侯爵と全面戦争になる可能性があるだろ!そんなことになったら、国民に犠牲者が出てしまうじゃないか。僕はそんなことは望まないんだ。」
「ユーリさん。まるで皇帝のようなことを言うんですね。」
さすがに僕の言葉にユーリが反応した。
「まっさか~!僕が皇帝になんかなったら帝国が潰れちゃうよ。ハッハッハッハッ」
リルがしびれを切らしたようだ。
「それで?私達は何をすればいいのよ!」
「近いうちに皇帝はスパイダーとその侯爵を一斉に捕縛するようなんだけど、その時に2人にも手伝って欲しんだ。」
ユーリは決して弱くない。兵士達だって相当訓練しているだろう。どうして僕達に協力を要請してきたのか不思議だった。
「スパイダーってそんなに強いんですか?」
「2人以外は大したことないんだ。君達が会ったというタランツは元Sランク冒険者でね。剣だけなら勝てるかもしれないけど、彼は魔法使いなんだよ。それに、リーダーのヘラクルトはさらに強いよ。恐らく兵士1000人をさし向けても負けるだろうね。」
「そんなに強いんですか?」
「まあね。」
なんか少し興味がわいてきた。この世界に転生して3年間、孤独と戦いながら必死に修行してきた僕にとって、強敵と思える存在に出会ったことがないのだ。
「ショウ。あなたなんか嬉しそうよ。」
「そんなことないさ。でも、そのヘラクルトって奴に会ってみたいよね。」
ユーリが僕達のことを不思議なものを見る目で見ていた。
「本当に君達は何者なんだい?」
「・・・・」
「まあ、余計な詮索はしないよ。それよりお願いできるかな?」
「いいですよ。」
そして、僕とリルはいつものように郊外に魔獣討伐に出かけた。
その頃、ハゲラ侯爵の屋敷では密談が行われていた。意外にもその会談ではハゲラ侯爵でもブルート公爵でもなく、当然ヘラクルトでもなく、ハゲラ侯爵の娘のリザートが仕切っていた。
「お父様。このままにしておいてよいのですか?ユリウスは奴隷を解放しようとしているのですよ!このままではヘラクルトの収入も減り、他の貴族達からも不満が出るでしょう。一刻も早くブルート様を皇帝にするべきではないですか!」
「リザートよ。お前の言い分はよくわかるが、相手は皇帝だ。そう簡単な話ではないのだ。」
「ならば、ユリウスを殺してしまえばいいではないですか!」
「それができれば苦労はしないさ。あいつはそれなりに腕がたつ。しかも、最近ではかなり強い姉弟まで近くにいるのだ。」
すると、ヘラクルトが提案した。
「人質を取ったらどうですかな。確かユリウスは『幸福亭』によく行くようですが、あそこにはクリスという娘がいますよ。その娘を誘拐して誘き出しましょう。」
「それは名案ね。あのユリウスのことだから黙って見殺しにすることはないわね。」
「なるほどな。いい考えかもしれんな。」
密談の間、ブルートは下を向いたまま黙っていた。まるで人形のように。
それから10日が経った。僕とリルはいつものように冒険者ギルドに行って魔獣の討伐に向かった。
「ユーリさんはいつ頃スパイダーの殲滅をするのかしらね。」
「分からないよ。それより、ほら、あそこにホーンボアがいるよ。」
「わかってるわよ。」
ホーンラビットやホーンボアを数匹討伐して、僕達は街に帰ることにした。街に入ろうとすると門番が慌てて外までやってきた。
「ショウさん。リルさん。お二人を見かけたら、すぐに『幸福亭』に来るようにとユーリさんに伝言を頼まれました。」
何かあったのかもしれない。僕とリルが宿に戻ると、そこにはユーリと兵士、それにハルとアルベルトがいた。
「ユーリさん。何かあったんですか?」
「クリスが攫われたんだ!」
「クリスちゃんが?」
「ああ。」
ハルとアルベルトは憔悴しきったように項垂れていた。
「一体だれが・・・・・」
「クリスがいた場所にこの手紙が残っていたんだ。」
ユーリから渡された手紙を見た。
『子どもは預かった。返してほしければ貴族街にある第3倉庫に来い。』
そして最後に黒い蜘蛛の印が押されていた。
「もしかして、スパイダーですか?」
「ああ、そのようだな。ショウ、リル。一緒に来てくれるか?」
「もちろんです。」
するとハルが泣きながら言った。
「危険です。ユリウス様。これはユリウス様を誘き出す罠です。クリスのことはもうあきらめました。ウッウッヴッ・・・」
やはりユーリが皇帝ユリウスだった。ふと、嫌な気配を感じた。目に気を込めてみてみると、タランツが手勢を率いてこちらに向かってくるのが見えた。
「ユーリさん。リルと護衛を連れて先に行ってください。僕は後からすぐに行きます。」
「どうしたんだい?」
するとリルが言った。
「もうじきここにスパイダーの連中が来るのよ!ハルさんとアルベルトさんが危険でしょ!」
一瞬ユーリが驚いたが、僕達のことを信じたようだ。
「すまない。ショウ。ハル達を頼んだぞ!」
「はい!」
ユーリとリル達は裏から貴族街に向かった。しばらくして、タランツが仲間を引き連れてやってきた。
「思った通りユリウスはいないようだな。」
「ここに何の用だ!」
「貴様は・・・あの時の小僧か!命が欲しければ引っ込んでろ!」
「そういうわけにはいかないんだ!それよりもここに何しに来たか答えろ!」
「知れたことだ!ユリウスに味方する者達には全員死んでもらうのさ!後腐れがないようにな。」
どうやら口封じに来たようだ。スパイダーの連中が僕とハル、アルベルトを取り囲んだ。
「こいつらを殺せ!」




