スチュワート帝国の闇
僕とリルはユーリとクリスの案内で帝都オレゴンを観光していた。すると刀を持った男性の銅像が建てられていた。初代皇帝でタケルと呼ばれる人物のようだ。恐らく僕と同じ日本人だったのだろう。その後、空腹を満たすため屋台に向かうことにした。どうもさっきから後をつけてきている人間がいるようだ。
“リル?もしかして付けられてる?”
“今気づいたの?最初からいたわよ。多分、ユーリの護衛でしょ?”
“やっぱり、ユーリさんがユリウス皇帝なのかな~?”
“そうに決まってるじゃない!”
屋台に到着するとユーリが僕達の分も肉串を買ってくれた。一口食べると肉汁が溢れ出てくる。
「美味しい~!めちゃくちゃ美味しいです!」
リルは無言で食べている。美味しい証拠だ。肉串を食べているとどこか懐かしい匂いがしてきた。
“ソースの匂いだ!”
2軒隣の屋台を見るとお好み焼きを焼いていた。物凄く美味しそうだ。
「ショウ。食べるかい?」
「いいんですか?」
どうやらこの世界ではソース焼きと言われているようだ。僕はフーフー言いながら食べた。
「帝国の食べ物は初代様が伝えたものが多いんだ。あっちを見てごらん。」
ユーリに言われた方向を見るとそこにはリンゴ飴が売られていた。食べ物以外にも水を中に入れて遊ぶヨーヨーを売っている店もあった。まるで日本にいるみたいだ。僕はヨーヨーを手に取って、昔を思い出しながら試してみた。
「ショウはよく水毬の遊び方を知ってたね。どこかで見たことがあるのかい?」
ついはしゃぎ過ぎた。
「多分そうじゃないかなって・・・」
ユーリもそれ以上何も聞いてこなかった。僕達が帝都の散策を楽しんでいると、人相の悪い連中がやってきた。通行人達は急いで道を開ける。彼らは肩を揺らしながら歩き、リンゴ飴の屋台の前で止まった。
「アニキ!この店ですぜ!金を払わないのは!」
すると、店主が大きな声で言った。
「うちはちゃんと役所に税を払っているんだ。なんでお前達に金を払わなきゃいけないんだ!」
「ここでの商売は俺達スパイダーの許可が必要なんだよ!」
バッターン
グチャ
「やめてくれ!誰か衛兵を呼んできてくれ!」
「うるせぇんだよ!」
人相の悪い男達が屋台の店主に因縁をつけて殴ろうとしたが、ユーリがそれを止めた。
「貴様ら何をしているんだ!」
「すっこんでろ!」
男がユーリに殴りかかる。だが、ユーリは素早くかわして男の腹に拳をめり込ませた。
ボコッ
グハッ
男達が一斉に剣を抜いた。
「てめぇ!俺達スパイダーを敵にまわして、この国で生きて行けるなんて思うなよ!やっちまえ!」
“リル!止めてくれ!”
“わかったわ!”
リルがユーリと男達の間に入った。
「下がっててくれる?」
そういうと、リルは目にもとまらぬ速さで男達を無力化していく。
ボコッ バコッ ドテッ
グハッ バッタン
男達は腹を抱えて地面に倒れ込んだ。ユーリは男達を縛り上げ、男達の懐から財布を抜き取った。
「何しやがる!」
「まだそんな元気があるのか。」
ボコッ
「これはお前達が壊した店の修繕費だ!もらっておくぞ!」
そういって、ユーリは財布を店主に渡した。
「悪いね。兄さん。助かるよ。」
「大丈夫さ。それよりこいつらは衛兵に引き渡しますから。」
「ユーリ兄ちゃん。」
「ごめん。悪いけど今日はここまでにしてくれ。」
ユーリが男達を衛兵に引き渡しに行ったので、僕とリルとクリスはそのまま宿に戻ることにした。宿に戻ってから、クリスがハルとアルベルトに広場での出来事を一生懸命説明していた。
「本当にすごかったんだから!リル姉ちゃん、物凄く強いんだよ~。」
「そうかい?見かけによらないね~。旅の間、ずっとショウ君を守ってきたんだろうね。大したもんだよ。」
なんか僕はリルに守られて旅をしてきたように思われている。別にいいけど。リルは褒められてニコニコだ。
その翌日、僕とリルはバスコ商会に行くことにした。バスコ商会は商業地区にある。ここから近いはずだ。
「あれじゃない?」
「本当?かなり大きいよ。」
中に入ってみると、入り口で衣料品、奥で食料品を売っていた。階段を上がると手前に家具があり、奥では武器を販売している。僕達がぶらぶらと見学していると、店員が話しかけてきた。
「何をお探しですか?」
「特に何かを探してるわけじゃないんです。偶然バスコさんと馬車で知り合って、バスコさんの店に来てみたかっただけですから。」
「わかりました。ゆっくりと見学して行ってください。」
店員の態度が物凄く丁寧だ。バスコさんがしっかりと教育しているのだろう。僕達は武器を売っている場所に行った。そこでは、ヒール草から作られているポーションを売っていた。青色のポーションはすごく綺麗だ。
「リル!これ買っていい?」
「私の光魔法じゃダメなの?」
「そうじゃないよ。リルがいないときに怪我したら困るだろ。用心のためだよ。」
「別にいいんじゃない。」
僕はポーションを5本買って魔法袋に入れた。さらに店内を見渡すと、僕の魔法袋に似たデザインの魔法袋が売られていた。金額を見ると安い物でも大金貨3枚はする。
「やっぱり魔法袋って高級なんだね。」
「当たり前じゃない。空間魔法を使える人族なんてわずかしかいないんだから。」
そんな話をしていると、先ほどの店員がバスコを連れてきた。
「やっぱり君達ですか。来てくれたんですね。」
「はい。すばらしいお店ですね。」
「そんなことはないですよ。まだまだ改善の余地はあるんです。ここで売られている剣や魔法袋だってもっと安く提供したいんですけど、なかなか仕入れが大変でしてね。」
バスコさんが僕の魔法袋を見た。
「君も魔法袋を持っているんですね?」
「はい。両親の形見なんです。」
「そうなんですか?ちょっと見せてもらっていいですか?」
僕は腰から取り外してバスコさんに手渡した。バスコさんはじっくりと観察している。
「これは何の皮だろうな~?見たことのない素材だな~。」
そんなことを聞かれても困る。僕だって知らないんだから。
「この魔法袋にはどれくらい入るんですか?」
確かなことはわからない。まだ魔法袋がいっぱいになったことがないのだから。
「わかりませんが、ホーンボアなら10匹以上入ると思いますよ。」
「10匹?!」
「少ないですか?」
「君は何を言ってるんだ!この店の最高級品でもホーンボアなら5匹が限界なんですよ!10匹も入る魔法袋なんて聞いたこともない!」
まずいことを言ってしまった。だが後の祭りだ。
「ぜひともこの魔法袋を売ってくれませんか?白金貨を出します!白金貨3枚でどうですか?」
「・・・・」
「なら5枚出しましょう!」
「・・・・」
「ダメですか~。」
バスコさんが肩を落とした。本当に欲しかったのだろう。だが、僕にとっても必要なものなのだ。
「ごめんなさい。形見なんで売れないんです。」
「そうだったですね。申し訳ありません。つい興奮して勝手なことを言いました。」
「いいですよ。」
その後、バスコについて会長室に行った。女性の店員がお茶を出しながら僕のことをじろじろと見てきた。ここ最近は勇気を出してフードをしないようにしているのだ。でも、やっぱりフードを被りたい。
「この街に来たばかりの君達に言うべきことじゃないかもしれませんが、この街には『スパイダー』と呼ばれる組織がいましてね。かなりの悪さをしているんですよ。特に旅の人達は狙われやすいですから注意した方がいいですよ。」
「ご親切にありがとうございます。」
すると、リルが聞いた。
「どうしてこの国じゃそんな悪者達を野放しにするんだ?」
「噂ですけど、どうやら大貴族のハゲラ侯爵が後ろ盾になっているようですね。」
「なら、そのハゲラとかいう貴族も処罰すればいいではないか?」
「そうもいかないんですよ。ハゲラ侯爵の娘は皇帝ユリウス様の弟のブルート公爵の妻ですから。」
なんかユーリが僕達に言っていたことが少しわかってきた。皇族や貴族の権力争いが関係しているのだろう。
「バスコさん。ちょっと教えて欲しんですが。」
「なんですか?」
「ユリウス皇帝とブルート公爵は兄弟なんですよね?仲が悪いんですか?」
「そうですね。ブルート様は家族思いの優しい方だったんですが、ハゲラ侯爵の娘と結婚してから人が変わってしまったと聞いています。」
何かあるのかもしれない。そんな気がした。




