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スチュワート帝国の帝都オレゴン

 ヨハネス王国を出た僕とリルは、深淵の森の南側にあるスチュワート帝国に向かった。結構時間はかかったが、僕達は深淵の森を抜けた。すると、森を抜けたところに『ノースシティー』と呼ばれている街があった。帝国の最北の街だ。帝国でも他の王国と同じように封建社会のようだ。いくつかの領地に分かれていて、その領地は貴族達が支配している。他国と違うのは、領主が王都で暮らし実際の統治を代官が行っている点だ。退屈だったマイヤー先生の授業が役にたった。



「それにしても寂しい街ね。」


「多分、農業の街だからじゃないかな~。」


「それにしても人通りが少なすぎるわよ。」



 僕達は冒険者ギルドに行った。宿屋を紹介してもらうためだ。ギルド内もかなり静かだ。冒険者の姿もない。受付に誰もいなかったので大きな声で呼んだ。



「すみません!誰もいませんか~!」



 すると、奥から体格のいい女性が現れた。



「はいはい!悪かったね。何か用かい?」


「この街に宿屋はありませんか?」


「一軒だけあるよ。」



 どうやら、ここの冒険者ギルドはこの女性一人で運営しているようだ。昔は活気があったそうだが、魔獣の盗伐を冒険者でなく国の兵士達が行うようになってからさびれてしまったらしい。


 僕達は紹介された宿屋にやってきた。マイヤー先生が言った通り人族の世界では基本的に同じ言語、同じ通貨を利用していた。僕達は銀貨12枚を支払い部屋に案内された。お願いした通り風呂付の部屋でベッドも2つあった。



「あ~あ、久しぶりのベッドだよ。」


「そうね~。ここに来るまで10日はかかったもんね。」



 僕の住処である古代遺跡からギザまで徒歩で約5日なのに対して、このノースシティーまでは倍の10日かかった。



「ショウ。この街ってなにもないわよね。いっそのこと帝都に行ってみない?」


「いいけど、どうして?」


「だって、帝都なら美味しい物や可愛い服がいっぱいありそうじゃない。」


「そうだけどさ~。」



 人間の姿になったリルは服に興味があるようだ。フェンリルの姿の時は必要なかったのだろうが、人の姿になればいろんな服を着られる。ギザの街にいた時も、もしかしたら女性の服をチェックしていたのかもしれない。そう考えると少しかわいく思えた。


 その後、僕達は宿屋の食堂で味気ない食事を食べてぐっすりと寝た。そして翌朝、帝都に向かって出発しようと広場に向かった。宿屋で乗り合い馬車があると聞いたからだ。一人金貨1枚と結構な値段はしたが、帝都までの日数を考えれば仕方がないかもしれない。



「失礼ですが、姉弟ですか?」



 いきなり商人風の男性に声をかけられた。リルを見ると頬を膨らませている。



「はい。姉と二人で帝都まで行くんです。」


「そうでしたか。私は帝都の商人でバスコっていうんですよ。いいですね~。仲がよろしくて。」


「僕はショウ。姉はリルって言います。バスコさんは買付か何かで来られたんですか?」


「ええ、そうですよ。このノースシティーは帝国随一の穀倉地帯ですからね。」


「そうなんですね。」


「ショウ君達はどちらから来たんですか?」


「ヨハネス王国です。」


「えっ?!そんなに遠くから来たんですか?何か訳がおありなんですね。」


「ええ、まあ。」



 僕達がヨハネス王国から来たと聞いて他の乗客達も驚いていた。馬車は順調に進んでいき、何度か休息をとりようやく帝都までやってきた。ノースシティーからここまで4日かかった。そう考えると、やはり一人金貨1枚は安いのかもしれない。



「皆さん。帝都オレゴンに到着ですよ。」



 馬車を降りると、目の前にはまるで別世界の光景が広がった。巨大なお城が聳え立ち、さらにその右側にも巨大な塔が立っている。通りにはいろいろなものが飾られていて、すべての家の前に花が植えられていた。さらに、街灯のようなものまである。



「ショウ。凄い街ね。」


「うん。」



 驚きすぎて声が出ない。ギザの街を初めて見た時も感動したが、それ以上だ。大通りの両側にはぎっしりと屋台が並んでいる。人々はみんな笑顔で楽しそうだ。異世界アニメの影響で『帝国』は悪のイメージが強かったが、このスチュワート帝国は違っているようだった。



「ショウ君。リルさん。もし機会があればぜひうちの店に来てください。安くしておきますから。」


「ありがとうございます。」



 バスコさんの店は『バスコ商会』といって、商業地区にあるそうだ。食料品や衣料品、それに家具や武器まで扱っているらしい。もしかしたら、バスコさんは大商人なのかもしれない。



「ショウ。これからどうするの?」


「まずは街を散策しながら宿屋を探そうよ。」


「そうね。その前に何か食べない?お腹空いちゃったわ。」



 僕達は大通りを歩き始めた。フードを被った少年とその隣に美少女が歩いている。目立たないわけがない。みんなが僕達をじろじろと見てくる。



「見られてるね。」


「周りの目なんて気にしなくていいわよ。それよりも早く食事にしましょ!」



 確かにリルの言う通りだ。どうしても前世の呪縛から逃れられない。食堂を探しながら通りを歩くと様々な店が並んでいた。どうやらここが商業地区のようだ。裏道に入ると街の様子は一変した。人通りが少なく食堂や小物を売る店が点在していた。この雰囲気も嫌いではない。そんなことを考えていると、美味しそうな匂いを漂わせている食堂があった。どうやら宿屋も一緒になっているようだ。



「リル。この店にしようか?」


「そうね。店の中からいい匂いがしてくるわ。」



 店の中に入ると女将が出てきた。



「あの~。」


「いらっしゃい。食事かい?それとも宿泊かい?」


「両方です。」


「そうなのかい。なら食事の方は安くしておくよ。」



 宿屋の名前は『幸福亭』、女将さんはハル、ご主人はアルベルトという名前だった。そして、女将さんの後ろにいる少女はクリス、この2人の娘さんだ。



「お兄ちゃん達は姉弟なの?」


「そうだよ。僕はショウ。姉はリルっていうんだ。よろしくね。クリスちゃん。」


「うん。」



 10日分の宿代を支払った後、クリスが部屋まで案内してくれた。部屋にはベッドが2つと、テーブルとイス、化粧台、お風呂、それにテラスまであった。お風呂のお湯は魔力が必要なので、いつものようにリルにお願いすることにした。少し部屋で休憩した後、食事をするために下の食堂に降りて行くと、冒険者風の男性3人と魔法使い風の女性がいた。すでにお酒を飲んでいるようだ。



「何にするんだい?」



 僕とリルは日替わり定食を頼んだ。これからの相談をして待っていると料理が運ばれてきた。シチューとパン、それに野菜の煮物に小さめのステーキだ。



「美味しい!」


「うん!めちゃくちゃ美味しいよ!」


「ねえ!ショウ!おかわりしてもいい?」


「いいよ。シチューでしょ?僕もおかわりするよ!」



僕達が満足しながら料理を食べていると、若い冒険者風の男性が入ってきた。



「女将さん。いつものを頼むよ。」


「久しぶりだね。ユーリさん。仕事は順調かい?」


「あまり順調とは言えないかな。」



 どうやら常連客のようだ。食事をしている僕達のことを不思議そうに見ている。僕がフードを被ったまま食事をしていたからかもしれない。すると、奥にいた冒険者風の男性がやってきた。



「お前!失礼だろ!食事をするときはフードをとれよ!」



 すっかり油断していた。男はいきなり僕のフードをまくってきたのだ。次の瞬間、目の前にいたリルが目にもとまらぬ速さで男を床にねじ伏せた。



ドテッ



「痛ててて!放しやがれ!」



 奥にいた冒険者と魔法使いの女性が慌ててやってきた。騒ぎになったら店に迷惑だ。



「リル!ダメだよ。フードを被ったままの僕がいけないんだから。」



 僕は席を立って冒険者の男性に頭を下げた。



「すみませんでした。」



 周りも見ると、女将さんもユーリと呼ばれる男性も他の冒険者達も、呆気にとられたように僕を見ている。すると、娘のクリスがポツリと言った。



「綺麗!天使様みたい!」



 間違いなく僕のことだ。僕は下を向いて再び料理を食べ始めた。すると、ユーリと呼ばれる男性が僕達のところにやってきた。



「ちょっといいかな。」


「なんですか?」


「ごめんごめん。そんなに警戒しないでくれよ。それにしても君すごく強いんだね。」



 どうやらリルのことらしい。



「別に強くなんかないわ。相手が酔っていただけよ。」


「そんなことないと思うよ。だって、彼らはAランクの冒険者なんだから。いくら酔っていてもそんなに簡単に倒せる相手じゃないさ。」


「偶然よ。」


「まあ、いいけどね。俺はユーリっていうんだ。2人は恋人かい?」



 つっけんどんだったリルが少し反応した。僕はすかさず返事をした。



「いいえ。姉弟なんです。僕はショウ。姉はリルっていうんです。」


「なるほどね~。美少女と美少年の姉弟か~。でも、中がよさそうで羨ましいよ。」



 そういうとユーリは女将に注文した。



「この子達に果実水を出してやってくれるかい?」


「はいよ!」


「君達はまだ未成年のようだからお酒はダメだろ。お近づきのしるしに果実水でも飲んでくれ。俺のおごりだよ。」


「どうもです。」


「それにしても、ショウは綺麗な顔をしているね。白髪で青い瞳か~。どこの出身だい?」


「・・・・」



 僕が答えないでいるとユーリは話題を変えた。



「そうだよね。知られたくないこともあるよね。ただ、最近この帝国内に他の国のスパイが入り込んでいるようだからさ。」


「僕達は違います。安心して暮らせる場所を探してこの国に来たんです。」


「そうかい?ごめんよ。君達を疑っているわけじゃないんだよ。ただ、いろいろ疑問に思うことがあったからさ。」



 僕達のやり取りを女将のハルと主人のアルベルトが陰から聞いていた。



“リル。このユーリって何者かな?”


“人族にしてはかなりの魔力量よ。それなりに強い冒険者じゃないの。”


“ならいいけどさ。なんかメンドクサイことにならなきゃいいんだけど。”


“そしたら、また別の場所に行きましょ。”


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