運命の時
久しぶりの新作です。よかったら是非読んでみてください。
「翔~!テレビ始まっちゃうぞ!」
タッタッタッタッ
「間に合った~。」
今日は超能力特集の番組が放映される日だ。僕はなぜか、UFOや超能力のような不思議なものに興味がある。テレビを見ていると超能力者と言われている人が出てきた。手に持つスプーンをいとも簡単に曲げている。僕はその光景に心底感激した。
「凄いね。お父さん。」
「馬鹿だな~。こんなの何かトリックがあるに決まっているだろ!」
「そうかな~。お母さん!スプーン頂戴!」
僕は母親にスプーンをもらって超能力者がやったように擦ってみた。
グニャ
えっ?!
僕の手に持っていたスプーンが見事に曲がったのだ。嬉しいというよりも、とにかく焦った。
「お父さん!お父さん!見てよ!僕もスプーン曲げれたよ!」
父親がスプーンを見た。そして一言言った。
「元に戻しておけよ。お母さんに怒られるぞ!」
どうやら信じていないようだ。僕が何かインチキをして曲げたとでも思っているのだろう。その時は、信じてもらえなかったことに少し寂しさを感じた。
“何にもインチキなんてしてないのに!”
その日を境に僕に様々な変化が起き始めた。強く意識することで物を少しだけ動かすことができたり、なんとなく危険なことや嫌なことが起こりそうな予感がしたりと。だが、嫌なこともあった。意識していないにもかかわらず、人の心の声が聞こえてきてしまうのだ。登校しているときも、学校にいる時も、家にいる時でさえ、人の心の声が聞こえてくるのだ。
“まさか千波ちゃんが僕のことをあんな風に思っているなんてな~。ショックだ~。”
僕は幼馴染の千波ちゃんのことが大好きだった。ある日、僕が教室にいくと千波ちゃんと緒方さんが教室の後ろで話をしていた。
「2組の健太君ってカッコいいよね~。サッカーは上手だし、勉強もできるし。」
「何言ってるのよ!千波!千波には翔君がいるじゃない!」
「好子ちゃん。いつも言ってるけど翔は幼馴染なだけよ。」
「ふ~ん。」
それ以降の話は記憶にない。千波ちゃんの言葉で僕はかなり動揺したようだ。そして次の瞬間、千波ちゃんの心の声が聞こえてきた。
“確かに翔は優しいけど、幼馴染なだけよ。みんな私が翔と付き合ってるって思っているのかな~。すごい迷惑なんだけど。私だって好きな人ぐらいいるんだから。”
その翌日から僕は学校に行けなくなった。学校に行かないからと言ってずっと遊んでばかりいたわけではない。確かにゲームもさんざんやったが、この4年間独学で中学の勉強はしてきたのだ。
“ああ、高校か~。どうしようかな~。お父さんもお母さんも僕のことなんか諦めてるようだしな~。”
この4年間で、最初はお父さんもお母さんも僕のことを心配してくれていた。だが、いつのまにか諦めてしまったようで、両親の心の声から僕に対する反応が消えてしまったのだ。
“しょうがないな~。高校受験の問題集でも買いに行くか。僕が進学校に合格すれば、少しは見直してくれるかもしれないしな。”
そんなことを考えながら僕はフラフラと本屋に出かけた。あいにく空は曇っている。遠くで雷の鳴る音が聞こえていた。
“降られる前に早く買って帰ろ。”
バリバリバリドッカーン
目の前が光ったと思った瞬間、僕の意識は途絶えた。
“ここはどこだ?”
意識を取り戻した僕の前には大きな木がたくさん生えていた。本屋に行く予定が、何故か僕は森の中にいるようだ。かなり焦った。
“どういうことだ?!ここってどこだ?一体何がどうなってるんだ?”
立ち上がってみるとなんとなく視線が低い。僕は慌てて自分の手と足を見た。そこには子どもの手が見えた。
“えっ?もしかして僕の身体、縮んでる?!”
焦った僕は自分の顔や体を触りながら、見える範囲で自分の身体を見た。すると、着ているズボンも服も見たことのない物だ。僕の服じゃない。
“どうなってるんだ?!何が起こったんだ?!”
もう状況がわからず、頭の中は真っ白状態だ。
“確か本屋に向かっていたんだよな~。なのにどうしてこんなところにいるんだ~。もしかして、僕は雷に打たれて死んだのか?もしそうなら、ここは異世界とか?ないない!そんなアニメのような話が起こるわけがない!しっかりしろ!”
パンパン
僕は自分の頬を叩いた。一度目をつむって深呼吸した後、ゆっくりと目を開いた。だが、状況は変わらない。何が起こったのか理解できない。今、僕は現実的に一人で森の中にいる。そう考えると急に怖くなってきた。
“とにかく人がいる場所に出なきゃ。その前に水だよな~。飲み水がなきゃ死んじゃうよ。”
僕はおどおどしながら森の中を歩き始めた。時折聞こえてくる鳥の鳴き声や獣の鳴き声に、心臓が縮み上がる。
キーキーキー
バサバサバサ
グオー グオー
“なんなんだよ!もう!脅かすなよ!”
森の中を歩いていると、見慣れた果実が沢山実っていた。見かける昆虫も見慣れたものばかりだ。
“カブトムシやクワガタ、それにカナブン。やっぱりここは日本なのか?それに、あの実は間違いなく桃とミカンだよな~。でも、桃とミカンが同じ時期にできてるのっておかしくないか~。”
僕は桃を手に取って一口食べてみた。
“甘い!やっぱり桃だ!やっぱりここは日本なんだ!”
しばらく歩いていると、目の前を横切る動物が見えた。それは茶色をしていてぴょんぴょん跳ねている。
“野兎かな~?”
すると、今度は草の陰からにょろにょろとしたものが現れた。蛇だ。
「ぎゃー!へ、蛇だ~!」
僕は慌ててその場から走り出した。すると、左手の方にキラキラと光るものが見えた。
“もしかして水?”
目を凝らしてよく見てみると、そこには小川が流れていた。
“この小川を下っていけば、もしかしたら人が住んでる場所に出るかもしれないな。”
人は川沿いに集落を作ると何かの本に書いてあったのを思い出したのだ。僕は小川に沿って歩き始めた。しばらく歩くと川原が見えてきた。少し大きめの川に合流したのだ。
“疲れたな~。ちょっと休むか。”
僕は川まで行って、流れの緩やかな場所で水を飲もうと水面に顔を近づけた。
“えっ?!これが僕?どうなってるの?”
水面に映った姿は10歳ぐらいの子どもだ。しかも、髪は白く、瞳の色が水色だったのだ。
“なんで~?やっぱり僕は死んだんだ。転生したんだ~。でも、ここは日本だよな~?どういうことだ?”
僕は死んで転生したんだと確信した。そう思うとなんか急に体の中の力が抜けていった。これから先の不安がグルグルと頭の中に浮かんでは消えていく。
“これって何かの罰かな~。学校に行かなくて両親に心配をかけたもんな~。”
僕は川原に座りこんだ。動く気力もない。
“これからどうしよう。食べ物も必要だし、寝る場所もないし。もう、勘弁してよ。”
川原に座ってそんなことを考えていると、草の陰から茶色いものが出てきた。
カサッカサカサ
「な~んだ。野ウサギか~。」
安心していると、野ウサギが突進してきた。よく見ると、先ほどの野ウサギと違って頭に鋭い角がある。僕は慌てて避けた。
「あ、危ないな~!」
野ウサギは方向転換して再び僕に襲い掛かってきた。僕は必死に逃げた。だが、身体が小さくなっているせいか、頭と体の動きが一致しない。僕は思わず石に躓いて転んでしまった。
ドテッ
すぐ目の前には凶暴な野ウサギがいる。助けを呼ぼうにも誰もいない。僕は転がっている石を野ウサギに投げつけた。
「この野郎!あっちに行け!」
だが、野ウサギはそれを避けてこちらを見ている。
「クソ!」
野生動物は火を怖がる習性があることを思い出した。だが、ライターも何もない。
「燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えちまえ!」
僕は野ウサギに向かって必死に念じた。すると奇跡が起こった。野ウサギの身体から青白い炎が出たのだ。野ウサギはたまらず川の中に飛び込んだがそれでも火は消えない。そして、そのまま野ウサギは川原に横たわって絶命した。
“どうしたんだ?一体何がおこったんだ?”
自分でも目の前の出来事が理解できないでいた。