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友達

目を開けると知らない天井だった。




「大丈夫ですか!」




声のする方へ首を傾けると灰谷が心配そうな顔でこちらを見ていた。




「ごめんなさい、私のせいで……」




どうやら灰谷の許容量を超えた刺激は、眷属である俺の脳さえも貫通したらしい。


そして耐えきれずショートした。




「あんなの自殺行為同然なんですから気を付けてください」




そう言う灰谷の目尻には光る雫が見えた。


吸血鬼の脳を保護するための眷属。


その眷属に保護機能はないらしい。




責任を感じてるのか。


それとも、心配してくれているのか。




この胸の痛みは……




聞いたら彼女は答えてくれるのだろうか。


わからない。


でも今は聞かないことにした。





✽ ✽ ✽





気付くと灰谷はそばで眠っていた。


ずっと気を張っていて疲れたのだろう。


起こなさいように気を付けてそっと起き上がる。


身体の具合は悪くない。


周りを見渡したが先生は見当たらなかった。


なので俺は灰谷を置いて帰宅の準備をしに教室に戻った。




教室には何人かの女生徒がまだ残っていた。




そして「あの女」やら「一緒じゃない」やら。


ひそひそと話す彼女達からは、そんな言葉が聞き取れた。




――そうか。お前たちか、あの視線は。




1人がこちらに近づいてくる。




「あの女、感じ悪いよねぇ」




気にせず帰る準備を進める俺の背中に彼女は続けて灰谷の悪態をついていた。




「勝手に一匹狼気取っておいて。


結局1人なのが寂しくなったのか知らないけど、急にあんたに擦り寄って。


迷惑だったでしょ?」




うるさい。


そんなんじゃない。


そんなんじゃ……




気付けば耐えかねた俺は、その生徒を襲おうとしていた。




――吸血衝動だ。




多分、吸血鬼としての本能が俺を動かしたのだろう。




灰谷の悪態をつかれたことに、自分でも抑えられない程、俺はストレスを感じていたんだ。


だから、それを処理しようと。


眷属を作ろうと。


本能が俺に吸血行為を行おうとさせていた。




そして、それを止めるように。


間に割って入る人影が一つ。




灰谷牡丹だった。




俺が襲おうとしていたこと。


そして、それを止める為およそ人間とは思えない速さで灰谷が割って入ってきたこと。


それらを理解できたのか、はたまたできなかったのか。


わからないが、そのまま女生徒達は怯えるようにして去っていった。




そして、静まり返る教室の中。


自分が何をしようとしていたのか理解出来ず泣き崩れる俺に、灰谷は自身の首元を差し出してきた。




高ストレス下で吸血衝動が起きるということは、逆に血自体に興奮を鎮める作用があるということだから。




「ごめん、ごめん……


でもさ、嫌だったんだよ。お前が悪く言われるの」




俺にはわかる。眷属だから。


俺だってわからなかった。眷属になるまで。




この世界は、吸血鬼にはあまりに辛い。




あらゆるものが刺激物で、そして自身を抑えられないくらいストレスになる。




でも、だから。だからこそ。




「……友達、作ろう」




メモリの拡張?


……違うね。




わかってくれる人が欲しいから。




誰かに理解してもらいたいから。




だから、吸血鬼は眷属を作るんだ。




なら……


眷属じゃなくてもいい。




友達でいい。




「楽しいも苦しいも友達なら一緒に分かち合えるんだから。


たくさん作るぞ!友達!!!」




……恨むなら、俺を眷属にした自分を恨め。




この胸が痛まなくなる日まで、お前のそばにいてやる。

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