人生のターン?
「人間でも魔族でも、ルールを守れない者には他の者もルールを守りません。それこそが唯一無二のルールです」
ゲームとは、そんな世間のルールを守るために必要な、言わば英才教育なのです。なので魔王様も攻撃のターンをきちんと守ってください。
「だからチートしたくなるのよね」
「コラコラ」
いやいや、なにを言い出すのだ。
「チートはいけません」
ルールを破ることを目標としてはいけません。楽しようとしちゃ駄目です。ゲームも人生も。いや、魔生とでもいうのだろうか……魔族だから。
「ルールの縛りが強すぎて、抜け出して楽しようとする輩が増えるのだぞよ」
「――! ルールの縛り……」
たしかにその通りなのかもしれない。
これは駄目。これは危ない。これは教育上よくない……。規制が強まるにつれてそれを抜けだしたい欲望は強まってしまう。
魔王様が久しぶりにいいことを言ったのが……腹立たしい気がする。
「ルール違反といえば、デュラハンなど歩くわいせつ物ね」
「やーめーて! 歩くわいせつ物ってなに!」
首から上が無いだけで、別にわいせつな物を出したまま歩いているわけではありませんから!
「鎧着ているように見える全裸」
「こういうモンスターなのですっ!」
全身金属製鎧のモンスターなのですから……裸と言われれば裸です。
「それを言うなら、スライム達だって、みんな全裸です」
他にも全裸なモンスターは大勢います。狂乱竜クレージードラゴ―ンですら全裸です。あれはいつも「モロダシ」で歩いています。
「やだ、デュラハンって、そういう目でスライムを見ていたの?」
そういう目って、なんだ。首から上は無いのだが。
「スライムは裸でも害は無いぞよ」
「……」
なんか、私は害があるように聞こえるのは気のせいでしょうか……。
鎧の上にトレーナーとかパーカーとかでも、着た方がいいのでしょうか。ナウでヤングなのでしょうか。
「連続攻撃はともかく、ターンを守る必要があるのはよく分かったぞよ。これからはデュラハンと交互に将棋を指すこととしよう」
「ありがとうございます」
――なぜだ。なぜ私は当然のことに対して深々と礼を言わねばならぬのだ……。
将棋を交互に指すのは、当然のルールではないか――。
歩を動かした。
「それ、二歩よ」
「……」
二歩ってなんだ――!
「予は構わぬ。五歩までならオッケー」
ゴフッ!
「さすが魔王様。寛大でございます」
堂々と歩を斜めに動かした。
「やれやれだわ」
魔王妃がパイプ椅子から立ち上がると、玉座の間から出ていった。ルール無用の残虐将棋に飽きたのだろう。
……勝った。
「冗談はともかくデュラハンよ、ゲームではなく人生にもターンがあるのだ」
「人生にもターンがある?」
意味不明だぞ。さらには魔王様が自分の歩の上に歩を重ねていらっしゃるのも意味不明だ。
火力二倍になるそうだ。魔王様的には……。
「人生は辛い時ばかりではなく、辛い時があれば必ず幸せの時がくるのだ」
「幸せの時」
私が独身なのを気遣っていらっしゃるのだろうか。さんざんイチャイチャを見せつけた……腹いせ?
「つまり、今は耐える時期、辛いターンなのだ。だが、それを耐え抜けることができれば、必ず幸せのターンがやってくる」
幸せのターン? はっ!
「ハッピーターン!」
甘辛でおいしいやつ!
「先に言うでない! デュラハンのケチ! わいせつ物! 居候!」
下唇を少し噛んで魔王様が凄く悔しそうな顔をしている~。
最後の美味しいところをごっそり持っていかれて怒っている~。
「配慮が足りませんでした――申し訳ございません」
深々と頭を下げる。首から上は無いのだが。
でも、居候って……酷いぞ。
ここは魔王城だから、仕方ないのだぞ――。
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