ルール無用の残虐ファイト
「予に勝ちたければ、デュラハンも連続で攻撃すればよいのだ」
「え、よろしいのですか」
やっと私に勝てるターンがやってきた――。
目の前に置かれていた将棋盤にやっと手を伸ばす。そろそろ足の痺れも限界に近かったのだ。
まず「歩」を一マス動かす。
「からの~!」
連続で動かして王手をして、勝ってやる~!
「ねえデュラハン、「歩」って前にしか動かせないわよ」
「――!」
魔王妃はいったいいつから二人の将棋を見ていたのだ――! っていうか、ひょっとして最初からいたのか――! パイプ椅子に座ってじっと私のガントレットを凝視している。
銀色のガントレットから汗が出る。
「なに! デュラハンよ、動けない方向へ動かすのはルール違反ぞよ!」
ルール違反! この紳士なる騎士たる私が――!
「そうよ。魔王様も卑怯だけど、まずはルールくらい覚えたら」
「おぼえーいでか!」
フッフッフ。ガクッ。
将棋のルールも知らずに魔王様を説教していたとは。
魔王様も知らないのだろうけれど……。
二人で勝手に将棋のルールを作って、これまでも何回も、いや、何百回も遊んでいたというのか……。
……二人だけの世界は最高だった……何度負け続けても……。
「どちらも知らなければ平等ぞよ」
――それ!
さすが魔王様、奇跡的平穏発言! どちらも知らなければ平等説――!
「そ、そうですとも。ゲームは楽しむものなのです。楽しければ細かいルールなど必要ないのでございます」
魔王妃はパイプ椅子に座って見ているだけでよいのです。つまり、口出し無用。二人の世界に入って来ないでください。
「……あほ」
「「――!」」
魔王妃は今、たしかに魔王様にも「あほ」と言ったぞ。目の前で――!
「き、貴様、私にならともかく、魔王様に向かって『どあほ』とは、無礼だぞ」
たとえ魔王妃とはいえ、剣を抜くぞ。……抜かないけど、抜くぞ。
「よいよい。予は寛大だ」
「……」
自分で言うなと言いたいぞ。魔王様、がっつり「アホ」って言われとんよ。
「でも、どうしてチェスじゃないの」
チェスだと。……小癪な。将棋よりこじゃれた感があるのは何故だろう。
「やはり……あれだ。共感が持ってもらえないから……読者に」
チェスのルールより将棋の方がみんな知っているはずだから。地理的都合だ。
「だったら麻雀の方がよっぽど共感が得られるんじゃないの?」
「まーじゃん!」
……どうだろう。麻雀人口は少なそうだぞ。実際にはどのルールが一番メジャーなのだろうか。
「オセロ→将棋→チェス→麻雀。この順で間違いないです」
オセロの方が麻雀より簡単なのだけはたしかだろう。
「いや予は、麻雀→将棋→オセロ→麻雀。だと思うぞよ」
なぜそうなる。さらには麻雀が二回入っているぞと指摘したい。でも言わない。なんか、どうでもいいから。
「そうかしら? わたしは、プロレス→オセロ→将棋→野球。の順で覚えたわ」
「魔王妃の覚えた順など、どうでもいいのです」
どさくさにプロレスと野球を混ぜてこないで! 簡単そうで、ルールが難しそうだから~! とくにプロレス。
「上から押さえて、ワン、ツー、スリーで勝ちよ」
「あ、それなら簡単です」
子供でも覚えられるぞ。
「凶器攻撃もレフリーに見つからなければ可」
「おやめください」
見つからなければいいっていうのは、コンプライアンス違反ですから。栓抜きは凶器に入りませんから。
「それこそ、チェンソーとか使えば楽勝なのにね」
「おやめなさい!」
レスラーをガチで殺す気でございますか、魔王妃は。
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