集団
いつもいろんなことを忘れてしまう僕は、周囲の状況だって実はよく理解できていない。だから、いつもうっすら笑みを浮かべ、みんなの話をわかっているフリをしながら生きてきた。
みんなが笑っている。でも、何がそんなに楽しくて笑っているのかはわからない。周りに合わせることに必死すぎて、余裕がないからわからないのかも知れない。みんなが話しているその過去の中に、そもそも僕はいたんだろうか。それに、今僕の目の前で起こった状況にみんなが笑っていても、僕にはそれのどこがおもしろいのかがわからないことも多い。
いつだって、子どもの頃から大人になった今も、自分の前で繰り広げられている状況について、僕はほとんどよくわかっていない。いつも自分から発言するような冒険なんて犯すことなく、だがみんなの輪に入れてもらえるよう、みんなが笑うのと同じタイミングでなんとなく笑う、という技を必死に磨いて生きてきた。
みんなが思い出話をしている時だって、僕はみんなの表情を見ながら笑っているだけ。本当は何がおかしいのかなんてまったくわからない。ここは笑うんだろうなと判断し、ただそれを実行する。もうそれだけで、精一杯だ。
「ははははは」
僕は高くもなく低くもないトーンの乾いた声で、いつも笑う。
時々、僕に会話を振ってくれる優しい人もいるが、ほとんどの場合その状況の意味もわからず笑っているだけのため、突然意見を求められても気の利いたことなんてひとつも言えないどころか、え、と固まってしまう。当然、場はしらける。そういうことが何度か起きると、自然と僕に話題は振られなくなっていく。
だが、みんなが楽しそうにしている姿を見ていると、意味がわからなくても僕まで何だか楽しく明るい気分になる。だからそれでも、僕はいつもみんなの輪の中に入れてもらえるようにと笑うのだ。