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お金も家族も手に入れたのに……。実話をもとに描く「大人になってから自閉スペクトラム症(A S D)と診断されるまでの物語」

この小説は、私と元夫のことを描いた物語です。

ピンポン、ピンポン、ピンポン。チャイムが鳴る。ドンドンドン。ドンドンドン、ドンドンドン。

「開けてください」

ドアが力強くノックされる。ドアの向こうには、警察官がいる。


僕は逮捕されるかもしれない。怖い。すごく怖い。とてつもない恐怖が僕を襲う。

だが、相手は警察官だ。抵抗できるはずもない。

僕は目を閉じ、大きく息を吸いこんだ。震える心臓を押さえ、横になっていた玄関の鍵を90度右に回す。

そして、恐る恐る10センチほどドアを開けた。

怖い。


「奥さんが財布とスマホと車の鍵を取りたいと言っているので、中に入れてください。」

警察官は、僕に唐突に話しかけた。

僕は怖かった。

警察官は、僕を逮捕するのだろうか。

だが、僕にできることは何もない。

警察官の言うことに反くなんて無理だ。

それでも、嫌だった。

怖かった。

逮捕されてしまうかもしれない。

どうしよう。

どうすればいいんだ。

警察官は、僕の手に手錠をかけようとしているのかもしれない。


「入りますね」

警察官は僕の返答なんて待たず、強引に僕の部屋に上がり込んだ。

僕から見えていた警察官の後ろには、もっとたくさんの警察官がいた。

ドカドカと入り込んできた警察官の数は、僕が把握できるだけで6人を超えている。

警察官たちは、玄関からリビングまでずらりと壁のように並んだ。

僕はその怖い光景に落ち着かなくなり大声で叫んだ。


「こいつは路駐して駐禁を取られたことがあるんですよ! それなのに逃げた! 僕は何もしていない! 被害者です!」


僕は僕が捕まらないように、女が犯した罪を警察官に訴えた。

それなのに、警察官たちは僕の声がまったく聞こえないかのように微動だにせず、ただ壁となり、僕の話を無視した。

そして、その間を女がサッと通り抜けた。

その女の姿を目にすると、どうしようもなく怒りが込み上げてきた。


「二度と帰ってくるな!」


大きな声で叫んだのに、その女まで僕の声がまったく聞こえないかのように僕の存在を無視した。

その女はラックの中から僕の車の鍵と、僕が買ってやった財布と、僕が与えてやったスマホを取り出した。

そして、僕を蔑んだ目で一瞥すると、何も言わずにそのまま去って行った。

その女に続くように勝手に入ってきた警察官たちも、僕の部屋から出て行った。


「車は返せ! 俺のものだ!」


僕は叫んだ。

それなのに誰ひとり、僕のほうを振り返る者はいなかった。

みんな僕がいないかのように振る舞い、僕を無視し、勝手に僕の前から立ち去った。

それなのに、僕はまだ恐怖に怯えて椅子から立つこともできない。


玄関のほうで、最初にドアを開けて一方的に話しかけ、一方的に僕の部屋に上がり込んだ警察官の声がした。


「ご協力ありがとうございました。失礼します」


ハキハキとした太い声はあの女のようで、僕を非常に怖がらせた。

みんなが出て行くと、またいつもの静けさが訪れた。


怖かった。

5分ほど経って、もう誰も戻ってこないことがわかると、僕はようやく立ち上がった。

玄関の鍵を閉める。

僕は逮捕されなかった。

良かった。

そして、本当に怖かった。

もう二度と、こんなことは起こらないでほしい。


こんなはずじゃなかった。

僕は、幸せになるはずだった。

幸せになったと思っていた。

どうして、こんなことになってしまったんだろう。


一人でも多くの人に、発達障害という目に見えない難しさを知ってもらいたいと思って書き始めました。自分が抱える苦しさや違和感が障害によるものだったと知ることは、その人の人生を肯定できるようになる第一歩なのではないかと思います。そして、その人の周囲にいる人々が彼・彼女らの特性を知り、ほんの少し適切な対応をするだけで、互いに傷つくことなく共存していけるのだろうと思います。

私は、そんな適切な対応を知りませんでした。だから、いちばん良くない関わり方をしてしまった。でも、おかげで私の二人の発達障害の子供には、同じ思いをさせないで済んだと考えるようにしています。もし、もっと前に少しでも発達障害ってこういう大変さがあることをなんとなくでも知っていれば、家族として、やっていけていたのかも知れない。

同じように、パートナーの少し変わったところに悩んでいる人の参考になれば、そして、発達障害かも知れない当事者の方はどうすれば他人とうまく生きていけるのか、ほんの少しだけでも考えてもらえたら嬉しいです。

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