弱国パキラ
2話
「噂に聞いた通り、針のような山だったな。」
俺は、日が開けるころ、一睡もせずに5つの山を越え、最後のパキラを囲む針のような山を超えた。
超えた先には、木造の小さい建物や田畑が広がっていて、一昔前の王国ラニウムよりも文明が、まるで進んでいない。しかも領土が、王国ラニウムの1つの街よりも圧倒的に狭い。こりゃ『弱国』と言われる訳だ。
早速俺は、パキラの国境の中に一歩足を踏み入れた。その瞬間、上空から何かが、俺に向かって落ちてくる音が聞こえた。
「でああああぁぁぁぁぁぁ‼‼‼‼‼‼」
「なに‼」
ズドオオッッ‼‼‼‼‼
白髪の少女が、空から蹴り落ちてきて、しかも降り立った地面は、大きなクレーターになっていた。この少女は、打撃魔法を使って、本気で俺を殺そうとしていた。
「かかったわね、はぁっ‼‼」
「ふんっ、甘いな。」
俺の体が浮いた瞬間を狙って、少女は『魔道暗器・鉤爪』を俺の心臓目掛けて、突き刺してきた。とっさに俺は、鉤爪をはめている左手をかかとで下に蹴り落とした。
「うそっ‼」
「油断は、禁物だ。」
「(やられる‼‼‼‼‼)ひぃっ‼‼」
スッ‼‼
少女の顔を目掛けて、寸止めのパンチをした。すると、ビビった少女は、目を閉じて、閉じた目から、少し涙がこぼれていた。
「俺だって、鬼じゃないんだから、本気で殴るわけないだろ。」
「え……はっ!?ごごご、ごめんなさい。おー、お金を差し上げますので、ここから立ち去ってください。私を殺しても村の人たちは、殺さないでぇー‼‼」
この少女は、俺が人間に見えていないのか?まるで俺が、魔族でもあるような、扱われ方じゃないか。この国で起きる悲劇の大きさを思い知らされる。
「待て、もう一度言う。俺は、魔族でも鬼でもない。だから、そんな金は要らない。大切にしまっとけ」
「えっ?お兄さん、本当に普通の人間なの?あまりにも強そうで、本当に強いから、思わず魔族が人間になりすましてたのかと思った。」
「そんなわけあるか、素手での戦闘なら誰にも負けないだけだ。今の俺の魔力量だけで見たら、一般魔族にも満たない……って、どうした?」
少女は、目を煌めかせて、俺をじぃーっと見つめていた。
「あ、あのっ、私をお兄さんの弟子にしていただけないでしょうか‼‼私の攻撃を見切れたのは、今まででお兄さんただ一人だけなんです。」
「はっ?ま、まぁ構わないが、俺でいいのか?」
「はいっ‼お兄さんがいいんです。」
「……なるほど」
「とにかく、来たばかりで、住むところも無いと思うから、部屋を貸してあげる‼‼」
「……お、おぅ。」
国に来たばかりで、家が無かった俺に少女は、部屋を貸してくれた。幼げな見た目だが、1人暮らしをしているらしい。
「あれが私の家です。」
ザワザワ……
国の人たちが俺を見て、こそこそと何か話しているというのは、一旦置いておいて、少女の家は、藁の屋根と木造建築の家で、小さな家だが、中はとても広く、5つの部屋に分かれていた。
「ここが、ししょ……あっ、そういえば、まだ師匠の名前を知りませんでした。私の名前は、『スレン・ストレシア』」と言います。年齢は15です。師匠の名前は、何と申すのですか?」
「俺は、『アトリア・アルファード』年齢は17だ。これから長い間、よろしく頼む。」
「はいっ、これからよろしくお願いします。では、続きを話しますね。ここが、アトリア師匠の部屋です。貸すと言いましたが、壊すこと以外なら、好きに使ってくれて構いません。では、夕ご飯の時間になったら、お呼びしますね。」
「いや、俺も手伝うぞ、されてもらっているだけじゃ、気分が悪い。」
「う~ん、分かりました。では、国の案内もかねて、いっしょに買い物へ行きましょう。安心してください‼このスレンが、分かりやすく教えてあげますからね‼‼」
「ああ、そうしてくれると助かる。」
そして俺たちは早速、買い物かごを持って、国の商店街へと向かった。果物、魚、肉、全ての食品が王国ラニウムよりも値段が高く、1つ1つの品がとても小さい。
今回買ったものは、リンゴ2個、魚1匹、乾いたパン4つという、王国ラニウムでは、銅貨2枚ほどで買えてしまう、貧乏人が買うようなものだった。しかし、ここ弱国パキラでは、銀貨20枚という、10倍以上も高い値段で、取引されていた。
「今日は、お客さんが、来たということで私‼奮発しましたよ‼‼夕飯が、楽しみですね、アトリア師匠。」
「あー、楽しみだな。」
まさか、パキラとラニウムでの国の差が、ここまで広がっていたとは……考えてもいなかった。
「きゃああああ‼‼‼‼‼‼」
突然、俺たちの家の方角から、たくさんの人たちが、悲鳴をあげて、走っていた。
「なぁ、これは一体どういうことだ?まさか、魔族か?」
「は、はい、そのようですね。(まさか、今日が魔族の来る日だなんて……)」
「じゃあ、ちょっと俺行ってくるぞ。」
「え、えっ‼ちょっと待ってください、私も行きますよ。」
俺たち二人は、魔族がいる方向に走っていった。すると、俺たちの家の近くに10匹くらいの大きな魔族がいた。
「だははははっ‼‼‼‼そろそろこの弱国の人間も食べ頃だ‼存分に食らい尽くせっ、お前ら‼‼‼‼」
「「「「ウオオオオーー‼‼‼‼」」」」
ドドドドドド……‼‼‼‼‼‼
「「「「きゃああああああ‼‼‼‼‼‼‼‼‼」」」」
グシャッ‼グシャッ‼‼
こ、これが、パキラが地獄と言われる理由か。巨大な魔族たちは、人間の両手、両足を持ち、腹部からグシャグシャと食っていた。その光景を一言で表すなら、史上最悪の地獄絵図だ。
「う、うわああああ、助けてくれぇぇーー‼‼‼‼‼‼」
「グへへヘヘ」
グワァァァァ……
「ぎゃああああああ‼‼‼‼‼‼」
「早く助けなければ‼‼」
「まぁ待て、お前の足では遅すぎる。ここは、俺に任せろ。ディ・フォーメイション‼‼」
グシャッ‼‼グシャッ‼‼グシャッ‼‼グシャッ‼‼グシャ‼‼グシャッ‼‼グシャッ‼‼グシャッ‼‼グシャッ‼‼
俺は、あらゆるものを変形させる魔法『ディ・フォーメイション』で、地面を大きなトゲに変化させて、一気に9匹の魔族を突き刺した。
「す、すごっ‼」
「……ん?」
だが、何だこの感覚は?魔族を突き刺した時と、手ごたえが違う。まるで、人間を突き刺したような感覚だ。
「「「「「「「「「ぐはっ‼‼」」」」」」」」」
ドサドサドサドサドサドサドサドサドサ……
シュシュッ‼‼シュシュゥゥゥゥーーーー……
「な、何!?あの死体から出てる汚気体は」
(今のうちに逃げちゃおっと(←生き残っていた魔族))
突き刺さっている9匹の魔族の体から、毒々しい気体が発生しだした。すると魔族の体は、みるみる縮んでいった。そして、やはりこの魔族の正体は、『人間』だった。しかも王国ラニウムの兵士の人間。
「に、人間!?」
「そのようだな。(しかも、王国ラニウムの兵士だ。魔化薬と呼ばれる、人間を一時的に魔族化させる薬を投与させていたようだな。確か、一人で上級兵士1万人分の戦力とか……)」
今の俺は、とにかく眠かった。この少し複雑そうな話は、深掘りせずに一旦スルーすることにした。
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