シロウ・バース
小さい頃の夢を見た。4歳の時の思い出だ。なぜ覚えているかと問われれば、その日から全てが変わったからだ。青空の下で芝生の上で、お母さんとお父さんと3人で、走り回って遊んでいた。
「リアー! こっちにおいでー!」
お母さんの方にリアは走って抱き付いた。リアは笑顔でお母さん、お母さんと叫んだ。お母さんはそれを見て笑っていた。
「リア。お父さんのところに行こっか?」
「じゃあ競争ね!」
リアはお父さんの所まで全力で走った。お母さんは、リアの後ろをずっと走ってくれた。お父さんの所に先につくと、リアはお母さんに勝ったとはしゃいだ。手加減している事も知らずに全力で喜んでいた。お母さんの方を向き、はやくとリアが手招きしていたその時、リアの後ろから、お父さんの声が聞こえた。
「大丈夫。リアはきっと役に立つ。」
振り返るとそこには、注射器を持ち、鬼の形相をしたお父さんがいた。逃げようとするリアの左腕を掴み、赤い液体を注射をした。そこから地獄が始まった。お母さんとは離れ、見知らぬ研究所に連れて行かれた。真っ白のワイシャツ長ズボンを着せられ、誰かもわからない金髪のお兄さんと稽古という名目で、毎日組手をさせられた。データ収集の為に。泣いても止まることはなく、体をボロボロにされた。寝る前にケージの外からお父さんが優しい声でリアに言った。
「大丈夫。リアは役に立つよ。」
そう言うとそのままどこかに行ってしまった。これが日常になった。変わりたての頃、リアは必死にお父さん、置いていかないで、お母さんはどこ、一人は嫌だと必死に叫んだが、その声が届くことはなく、毎日独りの寂しい夜を過ごした。泣いても、誰かを呼んでも、叫んでも、何も起こらなかった。そしてとうとう、彼の想いは儚く消えていった。リアの中から、希望は消えた。