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俺のマジックバッグの吸引力が強すぎる

作者: ジン ロック

初投稿です

◼️ 旅立ち ◼️


「諸君、卒業おめでとう」


 校長の締めの挨拶で卒業式もやっと終了。教室に戻ったクラスメイト達は、泣いたり笑ったりと忙しい。


 俺は一人、静かに教室を後にする。別れの時間を惜しんででもやりたい事があるんだ。卒業と同時にダンジョンに挑む。ずっと前から決めていた俺の進路だ。


 卒業したのは王立冒険者学園ではない。地元にある神奈川県立、厚木北方高校だ。


 もちろんトラックにも轢かれてないし、女神様に特別なスキルも貰って無い、異世界転生もしていない。


 でもダンジョンについての知識だけは少しあるつもりだ。主にネットで得た知識だけどね。あと体力も少し自信がある。日々の筋トレとバイトでね。


ダンジョンに挑むにあたって、まず向かわねばならない場所がある。武器防具屋ではない。そんなものはない。市役所だ。


 「本厚木駅行き」の市営バスに乗り込み市役所を目指す。以前、子猫を2匹もらった動物病院前を通過する。丁度、植木に水やりをしている院長先生を見かけて少しほっこり。

(先生、2匹とも元気にしてますよ)

テレパシーを送るも通じた様子はない。


 厚木市役所、市民課で冒険者登録をする。申請用紙に住所、氏名、生年月日、血液型と銀行口座を記入する。


『ダンジョン内で死亡しても全て自己責任である事を了承している(他殺除く)』


 この文字だけ赤色で印刷されてる。その横にある四角いマスにチェックを入れる。登録料の一万円と申請用紙を提出し、ドロップしたての卒業証書をチラ見せして申請終了。


 20分程待って冒険者タグと『冒険者の心得』なる冊子を受け取る。新人レクチャーなどない。


 冒険者タグには、名前、生年月日、血液型、Fランクとだけ掘り込まれていた。金属製だが何の金属かはわからない。形状はアメリカ軍人が首から下げる認識タグをパクった感じ。というか完全にパクってる。ただし色々と高性能らしい。


 ちなみに冒険者ランクが上がっても、タグの素材がシルバーやゴールドになったりはしない。



◼️ 新たなる目標 ◼️


 帰りのバス車内にて『冒険者の心得』に目を通す。ほぼ知ってる内容だったが興味深い制度を見つけた。


 『冒険者の心得』その4

 「特別登録冒険者」を目指そうぜ

Aランク以上の冒険者で、顕著な実績を収めたと認定された者は、国の特別登録を受け、月々1000万円の手当が出るぞ。引退しても月々100万円の手当だ。


 随分と煽って来るね。

 あと、この語り口調は気の良いギルドマスター辺りを意識してるのかね。


 現実にはAランク冒険者ってかなり少ないらしい。やっぱAランクダンジョンをソロで踏破するのは至難の業なんだと思う。それでも登録されれば半引退状態でも税金貰って生きていける。


 Cランクになれれば充分。と思ってたけど決めた。今、決めた。俺はAランク冒険者を目標にダンジョンを踏破する。


 レベルが存在しないこの世界では、魔物をいくら討伐してもあまり意味が無い。


 アイテムドロップを狙った、ピンポイントの魔物乱獲なら意義があるけどね。


 それよりダンジョン踏破だ。


 最小の魔物討伐数で、ダンジョン踏破を狙い、冒険者ランクをAに上げる事を目標にする。


 その為には、踏破対象ダンジョンの選定、必要なスキルやアイテムをドロップする魔物のリストアップ、装備の更新計画とか色々作戦練らなきゃね。今夜から忙しくなるぞ。


 鼻息荒く「降車ボタン」を押す。


 Eランクダンジョン

 『厚木山際ダンジョン』まではもうすぐだ。




◼️ 神社参拝 ◼️


 ダンジョンがある神社に着いた。

今日は当初の計画通り、このダンジョンを探索。


 神社にダンジョンが出現したのは昨年の秋。まだ出来立てホヤホヤだ。それでも先人達にあっという間に踏破され、まるっと情報公開されている。


 それでも俺は思うのだ。

 神の領域とされる神社の敷地内に、魔物の巣窟であるダンジョンが出現する奥ゆかしさ。

 潜らざるを得ない。


 まずは神社の主祭神に挨拶を入れるべきだろう。


 鳥居の前で軽く一礼し、参道の端を進む。

 次に手水舎で身を清める。

 柄杓に水をすくい両手、口、柄杓の柄の順番に水で流し、物理的に身を清める。

 拝殿の前に立ち、賽銭を静かに投入する。

 大きな鈴をおごそかに鳴らす。鈴の清らかな音色で今度は霊的に身を清める。

 拝殿の奥、本殿に意識を向け二礼二拍手。


 目を瞑り心の中で問いかける。


 (神様、手水舎で身を清める流れは、現在猛威を奮っている、感染症対策と似ている気がするのです。手洗い、うがい、使用物の清めと。ひょっとして大昔にも?)


 返事は無い。違う様だ。

 一礼してダンジョン入口へ向かう。




◼️ ギルドの洗礼 ◼️


 拝殿の横10メートル程にあるプレハブ小屋。入口上部には木製の看板が掲げられている。


 『厚木山際ダンジョン Eランク』

 『神奈川冒険者ギルド協会 厚木第二出張所』


 入口横にあるセキュリティ装置に手に入れたばかりの冒険者タグをかざす。ピコンと機械音が鳴り無事開錠。スライドドアをぎしぎし言わせながら開く。


 プレハブ内は外見に反して広い。なんて事は無かった。入口から見て縦長の六畳間くらいしかない。そして蒸し暑い。


 正面奥に手すりの付いた下り階段。これがダンジョン入口。


 右奥に魔石買取機。

 左奥にはアイテム買取機。あとは壁に沿って有料ロッカーが3台並ぶだけ。


 若くて、美人で、心配症の受付嬢なんていない。そもそも無人だ。


 想像以上に寂しい職場に、軽く衝撃を受けながら階段へ進む。


 階段手前で深呼吸。ちょっと腰が引けてる気がするけど、気にのせいにして階段を降りる。


 ちなみに冒険者登録をすれば、どのランクのダンジョンにも入る事だけは出来る。生きて出られるかは自分次第。全て自己責任。


 俺は自宅からの近さを理由に、このダンジョンを選択した。歩いて来れる距離だからね。時間と交通費の節約になる。歩かず自転車で来るけどね。


 まずは魔物を1匹倒すと必ずゲットできる【鑑定】スキル狙い。


 「少し早いけど武器装備しておくか」


 階段中程の踊り場で立ち止まり、リュックから小さめの包丁二本を取り出す。


 「ダブルナイフが火を噴くぜっ」


 実際、火は噴かないけどね。ちょっとびびってるのもあって景気付け。


 周囲に誰もいないのを再確認してから、服も用意してた物にささっと着替えた。


 「ふぅ〜」


 大きく息をはいてダンジョン一階層に降り立つ。



◼️ 既知と未知との遭遇 ◼️


 草原と青空が広がる違和感しか無い空間。草は膝上の高さまで生い茂り、空には雲一つない。音も無い。匂いも無い。情報通りだけどなんか不気味。立ち止まってたら帰りたくなるから前に進む。


 装備とまでは言えないけど、今の服装はキャップ、スウェット上下、安全靴、防刃手袋、包丁二本、背中にリュック。ほぼ黒一色のアサシンスタイルだ。


 草原と青空の広がる、ここで暗殺は無理だけどね。


 ダンジョン潜るのにあたって、防刃手袋だけはネットで新品を買った。安全靴はバイトで使ってたものだし、他は普段着で動き易さ重視。

ドロップ装備も期待できるしね。


 〈ザワッ、ザワザワッ〉


 前方で草が擦れる音が聞こえた。敵のお出ましだ。すぐさま立ち止まり腰を落とす。音はまだ断続的に聞こえる。こっちに近づいて来ているようだ。目を細め前方に意識を集中する。


 〈ダァッッ〉


 5メートル以上離れた茂みから、魔物が声もあげずに飛び掛かって来る。丁度、腰を落としていた俺の顔の真正面を目掛けて。


 「うわぁ」


 情け無い声が漏れると同時に、尻餅をついてしまう。右手は一緒に地面を叩き、あろうことか頭を下げて目をつぶってしまった。


 〈ガァキィィン〉


不味いと思ったのと同時、金属音に驚きはっと目を見開く。無意識に前方へ伸びた左腕、俺の右後方に飛び去る魔物。すぐさま体を起こし、もう一度腰を落とす。今度は右脚を引いて、半身に構え呼吸を整える。魔物の姿は茂みに隠れて見えないが、俺の周囲をフェイントも織り混ぜて疾走している音が聞こえる。


 今のは危なかった。左手がまだ痺れてる。冷静に行かなきゃ。


 あの魔物は《黒刃鼠》だ。体毛は短く黒と灰色のまだら模様。黒光りする出歯は、金属並の硬度を誇る。コイツを狙って一階層に来たのだから当然知ってる。でもおかしい。仕入れていた情報と違う。


 ネット情報だと《黒刃鼠》は、体高が約10センチ、体長が約25センチ。速くも無く、歯が金属並に硬いだけのドブネズミ。といったものだった。


 姿が見えない魔物の動きに意識を割きながらも思考を続ける。


 まずサイズがおかしい。目測で体高は20センチ位。体長も50センチ前後。ネット情報より2倍は大きい。

スピードも結構ある。速くは無いなんて嘘だ。

 更に違和感を感じたのが、金色に煌めく尻尾だ。そんな個体情報は全く無かった。


 〈ザワッ、ダァッッ〉


 第二ラウンドの時間だ。《黒刃鼠》は俺の左側面から飛び掛かって来る。


 さっき窮地に陥って、逆に冷静になれた。俺は左脚のつま先を軸にして、反時計回りに半回転。腰の捻りも乗っけて、右手の包丁を《黒刃鼠》の左脇腹に叩き込む。


 〈ザシュッッ〉


手応えは充分。これで倒したかと思ったが、まだ終わらなかった。


金色の尻尾の周囲に金粉を撒き散らした様な光を放ちながら、俺に背を向け逃げ出したのだ。


 「待てぇ、こら、逃げるな」


 すぐさま追走する。

《黒刃鼠》は脇腹のダメージにより、速度が極端に落ちている。さっと追い付きトドメをさす。


 《黒刃鼠》が煙と消える。


 初めての魔物討伐で、ちょっと手汗がやばい。


 「ふぅ」


 一息ついて、魔石を拾う。


 ついでに魔石の隣に落ちていた、金色のポーチも拾う。ペットボトルカバーの様な形をしてる。


 「ドロップアイテムだよなぁ」


 思わず顔がにやける


 「鑑定案件だな」




◼️ 飛躍の予感 ◼️


 腰掛けるのに丁度良さげな岩を見つけて一休み。リュックから水筒を取り出し、麦茶で水分補給。左手に輝く金色のポーチを見つめ、暫しのニヤニヤタイムを満喫する。もう一口、麦茶を含んで喉を潤し発声する。


 「【鑑定】」


 頭の中に知識が入ってくるイメージ。ステータス画面なんて無いから、「鑑定」スキルがちゃんと発動してほっとする。


 初鑑定の結果はこんな感じ



 【マジックバッグ(ランクSS)】


 《黒刃鼠ユニーク》ドロップ


・吸引力MAX

 生きている魔物からも魔石を吸引する

 → 相手は死ぬ


・容量無制限


・時間停止



 おい、おい、おい、吸引力。強すぎだろ。


 マジックバッグの破格の効果に驚愕する。生きている魔物から魔石を吸引って。


 「ぶっ壊れ来ましたわ〜。神様ありがとう」



 冒険者人生、勝ち組確定の瞬間であった。高校の卒業式終了から、僅か三時間半後の出来事である。




 完


◼️後の踏破ダンジョン◼️


『厚木山際ダンジョン』 ランクE

『海老名国分寺跡ダンジョン』 ランクD

『鎌倉小町通りダンジョン』 ランクC

『箱根町役場ダンジョン』 ランクB

『横浜みなとみらいダンジョン』 ランクA

『小田原城ダンジョン』 ランクS















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