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01:プロローグ1


「それでは、”話題のアプリ”のコーナーです」


 日曜日のため世間が寝坊を許す静かな朝、家のリビングでテレビの音だけが鳴り響いた。


「今週紹介するのは、最近高校生を中心に話題沸騰中のマッチングアプリ!」


 僕は、静かな部屋に広がるその声をただじっと聞いている。

 親は両方とも、まだ夢の中。

 その為、僕、石宮 秀(イシミヤ シュウ)は、朝の優雅なひと時を堪能しているのだ。


 しかし――


「あれ?お兄ちゃん、学校もないのにもう起きているの?」

「なんだよ愛葉(アイハ)、お前ももう起きていたのかよ……」


 のんびりコーヒーを嗜もうとした瞬間、俺と双子の妹であるアイハがリビングへと入って来た。


「お兄ちゃん、そんなに苦笑して……。はっ!?もしかして私の事、嫌いになったとか!?」

「おいそれ、苦笑いじゃなくて元の顔だろ。相変わらず失礼だな」


 まぁ、アイハが入って来たことは正直少し嫌だったし、確かに無理に笑っていたのかもしれないが。

 僕はアイハの分のコーヒーを継ぐため、さりげなくソファから立ち上がる。それに対しアイハは、「あっ、角砂糖5つね!」と、甘々なものを注文するのだった。




「へぇ、マッチングアプリねぇ。さっきからチラチラ見てるけど、お兄ちゃん、このアプリやりたいの?」


 僕が注いだ甘々コーヒーをズルズルとすすりながら、アイハが今やっているテレビのコーナーについて細い目で見てくる。


「……」


 それに対して、僕は俯いたまま何も言うことができなかった。


「まっ、お兄ちゃんはあまりモテる顔してないし、やりたくなる気持ちもわかるよ?かっこいいというよりは子供顔っぽくて弱々しいし。でも私だったら、別にやんなくてもいいかな~」


 アイハは急に立ち上がり、僕を上から見下ろす。その腰には両手が当てられており、僕に嫌味を言おうとしているのがよーく伝わってきた。

 確かにアイハは、僕と違ってずっと可愛い。双子には全く思えないほどに……。母親譲りの茶(赤)毛はただでさえ長く、サラサラな上、顔立ちも整っており、黒い目はいつでもくりくりしている。胸はまな板だけど……とっとにかく、高校では、アイハと俺などの16歳がいる2学年だけではなく、学校全体としても1・2を争うほどの魅力があると評判なほどだ。


 しかしこの話の流れでは、アイハに完全敗北してしまう。モテないことに対する嫌みを言われて終わってしまうのだ。

 そのため、僕は唯一対抗できる手段を実行した。


「そっそんなことより、日曜日の朝から何してるの?それに高校の体操着も着てるし、もしかしてこれから弓道?」


 アイハは中学の時から弓道を習っており、何気に全国ベスト4にまで上り詰めた強者。高校でも熱心に取り組んでいるらしく、こうして土日の休日も学校の弓道場に通うことがほとんどらしい。

 その為僕から、このような質問が出てきたのだ。


 そしてこの質問を聞いた人ならもうわかっているだろう。僕の唯一の対抗手段が。

 それは、”話を逸らす”である!

 「やだ恥ずかしい人っ!」なんて誰にも言わせない。僕にはこう言うほかに、勝てる手段が無いんだ。


 そして、そのことを悟ったアイハは、ただただ笑いをこらえるのであった。




   ♦♦♦




 場所と時間が移り、東京都渋谷駅周辺。


 いよいよ、僕が日曜日の朝から早く起きた理由になる本命の行事が始まる。

 それは、”彼女との初対面&初デート”だ。


 先ほどアイハに「このマッチングアプリやりたいの?」と聞かれた時に僕が何も言い返すことができなかった理由。それには、やりたいことがばれアイハにいじられるのを阻止するというのもある。しかし主な理由は、もう既にこのアプリを始めていたからだ。

 そのアプリをもう始めているのに「やりたいの?」と聞かれても、当然何も言うことができない。そうだろう?



 と、そんなどうでも良いことを考えていると、もう約束の時間になっていた。

 太陽はまだ上がりきっておらず、春の心地よい風が僕の肌を撫でる。




 そして、その時は急にやってきた。


「あのぉ……イシミヤシュウ君ですよね?」


 僕が話しかけられてから頬を赤く染めるまで、そう時間はかからなかった。


 目の前に立っていたのは、金髪で赤い目をした超絶美少女。外人と日本人のハーフかと思えるほどスタイルも良く、胸の豊満なものに優しそうな顔立ち。何より、僕へ対するその笑顔が、周りの男性全員を虜にした。

 しかし僕は知っている。この人は僕と同い年、高校2年生のれっきとした日本人であるという事を。

 「周りの男性諸君、この子は僕の彼女なのだ!」と胸を張りながら言いたい気持ちを心にとどめ、僕は先程の質問に対して返事をした。


「はい、シュウです。それより、あなたが宇都木 茉奈(ウヅキ マナ)さんですか?」

「はい!よろしくお願いします」



 こうして僕の、初めてだらけの一日が始まったのである。




   ♦♦♦




 僕は女子から可愛がられることはあるが、恋愛対象として見られたことが無い。低身長という訳ではないが、ほっそりした腕に良くかわいいと言われる顔が、恐らく原因だろう。

 その為、数か月前から、高校生に人気と話題になっていたマッチングアプリを試すことにした。そこで知り合ったのがマナさんである。

 マナさんは、誰にも恋愛対象にされなかった僕に、自ら話しかけてくれた。そして、あまり話し上手でない僕を引っ張り、率先して会話の話題を振ってくれたのだ。

 そのお陰もあり、数日後には電子チャットでよく話すほど仲良しに。

 そして先月、僕はマナさんに告白。もともと知り合ったのがマッチングアプリという事もあり、すぐにOKの返事をくれた。


 こうして今のデートまで至る。


「ねぇねぇシュウ君。このバッグ可愛くない?」


 今は、女性に人気のバッグショップで買い物中だ。


「うっうん、可愛いですね」


 まだ慣れていないため敬語を外して話せないが、初めてのデート中でも、マナさんが自分から話を振ってくれるお陰で、気まずいどころか緊張すらしない。

 

 しかしそんなとき、マナさんは僕が可愛いと言ったバッグを持ちながら首を下に向けた。


「どうしたんですか?」

「うん……実は私、一人暮らししてるんだけど、今月ちょっと厳しくて。欲しいけど何も買えないなぁって」


 肩まで低め、露骨に悲しそうにするマナさん。僕は、自分にここまで優しくしてくれた人が落ち込んでいるのを見て、居ても立ってもいられなかった。


「分かったマナさん。僕もそこまでお金があるわけではないけど、このバッグを買ってあげるよ」


 このバッグ、値段はあまり高くない。僕でも普通に買える代物だ。初デートの記念という意味も込めるなら、このぐらいのものは高校生でも買うよな。

 僕は、マナさんが持っているバッグをすかさず手に取ると、そのまま会計レジまで歩いて行った。


 しかし僕は気づいていなかった。

 後ろで会計を待っているマナさんが、少し不気味な苦笑いをしているという事に。




 バッグを買った後、マナさんが要求する物の値段はさらにエスカレートしていった。服に食事、アクセサリーなど、ねだる物は様々だ。

 しかし僕は、それに違和感を覚えていなかった。初めての彼女にねだられているという事もあったし、何より初デートで浮かれていたのだ。






 デート終了時。


「今日はありがとね。いろいろ貰っちゃった」

「いいですよ別に。また今度もよろしくお願いします」


 待ち合わせした場所と同じ景色。しかし辺りは暗くなっているため、少し大人のムードと言うものが漂っている。

 そこで僕一人だけが数万円を散財し、けれども2人ともが、喜びの笑みを浮かべていたのだ。




   ♦♦♦




「おっ、お兄ちゃんお帰り~」

「なんだアイハ、もう帰ってきてたのか」


 僕がデートから家に帰ると、アイハはもうとっくに学校から帰ってきていた様子。お風呂上がりの濡れた髪をつやらせ、ソファの上で膝を三角に折りテレビをただ眺める姿に、僕は心をドキンとさせた。

 

「お兄ちゃん、なんか機嫌よくない?いいことでもあった?」


 流石は15年以上一緒に暮らしてきた妹。すぐさま兄の異変に気付くとは、なかなか良い目をお持ちで。


 しかしここで僕は思いついた。朝出かける前に小馬鹿にされたことに対して、カウンターを打つことができる方法を。


「なぁアイハ」

「何?」

「僕、彼女ができたんだよ」


 僕がカウンターを放った次の瞬間、アイハは急にソファから飛び上がった。


「え!?あのお兄ちゃんが!?いつも弱々しそうな目で見られていた、あのお兄ちゃんが!?」

「おい……それはちょっと言い過ぎなんじゃな――」

「で?相手はどんな人?可愛いの??」


 アイハは僕の話に聞く耳を持たず、未だかつてないほど目を輝かせている。

 そんなアイハを見ていると、僕もつい感情が高ぶり、


「え?電子チャット見たい?」


 とスマホを右手に掲げてしまった。


 それにアイハは細かく何回も首を縦に振り、じっと僕のスマホを眺めてくる。




 しかし画面を見た途端、僕とアイハは言葉を失った。


――このチャットアドレスは、現在使用されておりません――

余り頻繁に投稿はできません。週1ぐらいかな……?

よろしくお願いしますっ!

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