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放課後HEROES

心像

 歳を重ねるごとに月日が経つのも年月が経つのも早く感じる。



 宇品橋を彼女と渡った。時刻は深夜の2時だったかな。この時間にもなると走る車も少ないが、その速さは普通の速さよりも速く感じる。



「この橋がいつできたか知っている?」



 彼女は立ち止まり、振り返って微笑んだ。



 その笑顔はとても美しく、絵になるようにすら感じられた。



「さぁ、私が高校生の頃かな。忘れたよ」



 私は彼女に見惚れているという内心は隠して、適当に返事した。



「2000年だよ。今からもう約10年も前の話になるね」



 彼女はまた遠くを眺める。ここに何か思い入れでもあるのだろうか?



「ここで何かあったの?」



 私は思わず訊いてみた。



「う~ん、どうかな。あったかもしれないね」



 まだ彼女はこの橋から見える夜景を眺め続けている。



「あったら、何か聞きたいの?」



 いつの間にか彼女は振り返って不愉快な顔をしてみせた。まずい。これは訊いちゃいけない事を訊いてしまったか。



「話したくなかったら、別にいいよ」



 私は彼女と目を逸らしながら話を終わらせようとした。



「友達が死んだの。この橋で彼氏にふられて、この橋から飛び降りてね」

「そうだったの…………」

「ちゃんと私をみてよ?」

「へ?」



 彼女は欄干に背をもたれて笑っていた。あんな顔してあんなことを言っていたのに、すごい変わり様だ。嘘だと言うのだろうか?



「さっきの話は嘘。ここで死んだ人の話なんて聞いたことないよ」



 嘘か。やっぱり嘘だったのか。溜息をつく私をよそに彼女は話を続けた。



「ねぇ、例えばここで地震が起きたとしたら、私はこの川のなかにドボーン! と突き落とされて死んじゃうのかな?」

「不吉なこと話さないでよ。何か悩みごとでもあるの?」

「悩みごとはいくらでもあるよ。でも自殺したいなんて思ったりはしないかな」

「もうっ、急にこんなところで立ち止まって、思わせぶりなこと言うからよ!」

「ふふふ、何かつまらないなぁ」

「何が?」

「貴女さ、小説を書いているのでしょ? この景色をみて何も膨らまないの?」

「こんな時間よ? そんなメンヘラなことする趣味はない」



 彼女は「そう……もうちょっとゆっくりするわ。先に帰って」と言ったきり、その場を動かなかった。私は眠気もあったので、彼女に悪いがタクシーを拾って先にお家へ帰った。




 彼女が行方不明になったのはそれからのことだ。




 警察にあの時のことを尋ねられる事があった。それからと言うもの、あの時に私が何を言えば良かったのか、ずっと悩みの種となって私に根付いていった。



 私と彼女が知り合ったのは大学の課外活動でのことだ。彼女と私は違う学校で知り合う機会もその課外活動があったからだと思う。



 それは音楽。歌を歌うことだった。



 私はそれから彼女のことを調べた。彼女には親がいなかった。児童養護施設で育って福祉施設で働くようになった。彼女が行方不明になったあの前日、彼女は長らく務めたその職場を辞めたらしい。



 そういえば彼女の歌う歌はどこか遠くへ向かっているような響きがあった。



 手にとった日記帳。そこにはいつも明るい彼女と別の彼女がいた。



『いつからか何も考えられなくなった。変わらない。逃げられない。自分だけの世界が、毎日が続いていく。でも、どうってことはないよ。どうってことはない』



 私は気づけば涙していた。やっぱりあの時何かしていれば……




 あれから1年経った。私も仕事のことで深く悩むようになった。だけどそれを救ってくれたのは、中学時代に出会った仲間たちとの巡り会いだった。



 人は人によってのみ救われるのだろうか?



 私は白紙のノートにありったけの想いをぶつけた。



 心臓の鼓動が高まった。



 私は小説でなく、いつの間にか絵を描いていた。



 宇品橋から見える夜景をバックに微笑む彼女。




 何故かな? それまでは何とも思ってなかった友がこうも愛おしくなるなんて。



 私はまた特に訳もなく宇品橋にやってきた。



 死んだって決まったワケじゃないから花を手向けたことは1度もない。



 どこかで誰かと幸せにやっているのなら。それでいい。



 孤独でないのならそれでいい。




 深夜2時、私はサイモンとガーファンクルの「明日に架ける橋」を歌った。




 彼女に届いたらいいな。でも届かなくてもこれは彼女へ歌う歌だ。



 彼女が孤独でなければいい。孤独でなければそれでいいの。




 ねぇ、この話が私の作り話だったら、あなたは怒りますか?



 ねぇ、だけどこの話が作り話だったとしても、退屈じゃないでしょ?




 歳を重ねるごとに月日が経つのも年月が経つのも早く感じるから嫌になっちゃうの。あなたは違う? また会った時に話を聴かせてね。じゃあね。また。

∀・)読んで頂きありがとうございました!!この作品は「放課後HEROES」の高木玲さんが書いたという設定の作品になります。だけど「放課後HEROES」を読まなくても大丈夫なお話です。テーマソングはサイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」ですが、あなたが思い浮かべるBGMがありましたら、ぜひ教えて下さい。


※高木玲さんが感想返信する企画サービスは終了しました※

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― 新着の感想 ―
[良い点] 島田雅彦さんの『小説家とはプロの嘘つきのことである』という言葉を思い出しました(*´艸`*) 嘘でも怒らないよ(*´∀`*)だってその想いは切実に感じたから
[良い点] 彼女にはきっと心に秘めた何かがあったんでしょうね。話してくれたら、何かが変わったかもしれないけれど…… 人に知ってほしくて相手に匂わすことはあっても、本心を話すというのはもう少し先であって…
[良い点] 純文学企画に参加されているとのことで、参りました。 劇伴企画のときに一度拝読していたかと思います。 思わせぶりなことを言う彼女、何か深い悩みがあったんでしょうね。 でも、どこかで幸せになっ…
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