2日目〜ペンダント〜
連載小説、
かなり遅くなりましたが、続き書きました。
ひっそり載せときます。
ファンタジーよりは日常に近いかも。
後半にいくにつれて異世界感がでます…。
内容、短いですが、共感していただける部分があれば幸いです。
2日目の登場人物、載せておきます
主人公 ララ
→サバサバ。考え事ばっかり。中2。
お母さん ともこ
→こちらもサバサバ。教育には熱心。
おばあちゃん ふみこ
→優しくてキュート。カタカナ英語をたまに使う。
イヌ キャン
→人懐っこい犬。意外にしっかりもの。
女友達 千鳥
→親しみやすく、ノリが軽め。ピアノが上手。
あー、もう。まだあの子は起きてないの?
毎日夜更かしするなとあれほど言ってるのに。
実際に耳にタコができないとわからないのかしら。
「ララ!」
バタンッ
精一杯の声量と共に扉を開ければ、通常、まだ眠そうな目を擦って「起きてる」とぼやくのだけど。
「うーん…。」
「まだ寝てるの…?」
肩透かしを食らった。本当にまだ寝ているとは。声を聞く限り、魘されているように見える。
…起こさないと。
「ララ、いい加減起きなさい!」
自分でも耳を塞ぎたくなるぐらいの大声で呼べば、ぴく、とララの身体が反応する。弾かれたようにこちらを一瞥して。
「…お母さん…。」
安堵した表情になったかと思えば、いつもよりスムーズに起き上がった。学校に遅れないか気がかりだけど、明らかに様子がおかしい。
このまま放っておくことは憚られて。
「嫌な夢でも見たの?」
「え?うーん。別に。」
「そう?朝ご飯、できれば食べてから行きなさい。」
ぽかんとした雰囲気から察するに、夢の内容は忘れているのだろう。それでも、起こしに来た際の唸り声と起きた瞬間の行動は忘れられない。
「なに、今日お母さんどうしたの?」
人に尋ねておきながらすぐさま階段を降りていく。それは当然、学校に遅刻しないため。
珍しいこともあるもんだ。
夢見が悪いこともたまにはあるでしょう。
明日の朝はララの好きなほうれん草入りの卵焼きを作ろうと心に決めて、階段を降りた。
「なんか変だったんだよ。」
「お母さんが?」
「そそ。」
今朝の話をしている相手は友達の千鳥。彼女とは私が1年生の時から一緒のクラスで、ペアワークで意気投合してからの友人。上辺だけ友達、そんな人はまあ何人かいるけど、私が気を許している友達は3人くらい。あと、幼馴染が2人。
「寝相が悪すぎて徘徊してたんじゃない?」
「いやいや、寝相悪いなんてこれまで一度も言われたことないし。」
「だからこそってやつだよ。」
「さすがにそうだったら私が1番びっくりしてるよ。」
「だよねー。」
ふざけた事を言って笑いあえる仲。そのぐらいが心地いい距離感だと思う。
「私は昨日、ピアノ行ってきてさー。」
「うんうん。火曜日だもんね。」
千鳥は能天気な人だけど、意外にも趣味はピアノ。幼稚園の頃から教室に通っていて、私も何回か地元の小さな発表会を聴きに行ったことがある。私は素人だから知識なんて全然だけど、とにかくすごいことだけはわかる。惹き込まれる美しい旋律。その表現力は音の響きだけでホール中を別世界に変えるんじゃないかと感じさせる。
そんな天才みたいな子と友達っていうのは、私の密かな自慢かもしれない。
「その帰りにコンビニでアイス買おうと思って。」
「いいじゃん。」
「そしたらさ、お目当ての「MOF」だけ売り切れてたの!ひどくない!?」
「うわ、悲しいやつ。「MOF」美味しいよね。」
「もう。誰だー買い占めたやつー。」
キーンコーン…
あ。3時限目が始まるみたい。
「やば、席着かなきゃ。」
「じゃーね。」
千鳥が自席に戻っていく。
つまらない授業の再開だ。
「どっちがいいかなー。」
「ロングの方が雰囲気あると思う。」
「だよね。それならこの白いやつか。」
学校を終えた私と千鳥は、そのままショッピングモールにきた。洋服や文房具なんかはここで揃う。千鳥が次のピアノ発表会に着る服を選ぼうと時間に余裕を持ってきたのだけど、パーティ等に使えそうな服の品揃えは少ない。まだここに来てから10分くらいで、トータルコーディネートができそう。
「よし、それじゃあ次はララの服!」
「着れる服はあるから買わなくてもいいよー。」
「せっかく来たんだから、1着くらい買おうよ!」
「じゃあ、インナーでも探そうかな。」
服を買う予定はなかったけど、他にお金を使う用事もないし、いっか。店内を練り歩いて探す途中、ふと立ち止まった。
…なんか、目についちゃった。
それはどう見てもただのネックレスで。正確には、ネックレスにあしらわれた石に目が止まった。かといって大ぶりなものでもない。それでも、圧倒的な存在感を放っているように思えた。
「…1000円か。」
「お、そのネックレス買うの?ララにしては珍しい。」
「私にしてはって。」
強ち間違ってないけどね。服は着れれば良いと思ってるから、アクセサリーなんて普段はしない。もちろん、進んで買うはずもないのだから。
「すごいシンプルだね。これなら服を選ばない感じ。」
いいと思う、そう笑顔で勧めてくれた千鳥を信じよう。
「じゃあ、これにしようかな。」
「服は買わないのー?」
「服は後ででいいよ。」
この時にはもう、狂っていたのかもしれない。
気づくのは何日も後のことだけれど。
誰だって、些細な変化如きじゃ何とも思わない。
…決定的に違う出来事が起こって初めて、知るんだろう。
「今日はハンバーグ♪」
「はいはい。ちゃんと手を洗ってきなさい。」
「おかえりララちゃん。ハンバーグ出来てるよ。」
「キャンキャン!キャンキャン!」
「わかってますよ〜っと。」
家に帰れば、いつも通りお母さんとおばあちゃんとキャンが出迎えてくれる。
今日は良い買い物ができた気がするし、良いこと尽くしかも。
それにしてもキャンがいつも以上にうるさいような…。気のせいかな。
「キャンキャン!キャン!」
「どうしたのキャン。今日は随分と元気だけど。」
洗面所で手洗いうがいをしている間も、吠えてるみたい。お母さんも不思議に思っているみたい。
朝のお母さんといい、今のキャンといい…。
「ララちゃん、今日は買い物してきたの?」
「うん!素敵なペンダントを買ったんだ!これ!」
「ちょっとララ。まだ食べてる途中でしょ。」
お母さんからお小言をもらいつつ、おばあちゃんにペンダントを見せる。
「あらほんと、綺麗な石だね。」
「ララがアクセサリー買うなんて珍しい…。」
好きな人でもできたの?とお母さんに聞かれたけど、私の答えは決まっている。
「いやいや。好きな人なんてできないから。」
生まれてこの方、恋愛に興味を示したことなんて、1ミリたりともない。…自慢じゃないけど。
「何かご利益がありそうだね。」
「うーん、そうかな?そうなのかも。」
おばあちゃんが微笑ましそうに見つめている。実際、この石に惹き込まれたのは確かだから、ご利益があるっていうのは強ち間違いじゃないのかも。
「…くーん…。」
キャンの鳴き声が、妙に聞こえる夜だった。
…何処だここ…。
起きて目が覚めた時には、いつもと違う部屋にいた。いや、正確に言えば、ほとんどそこは私の部屋だった、のだけど。
お父さんとおじいちゃんと撮った写真がない。
2人がいつも見守ってくれますように、とおばあちゃんが私の部屋に飾ってくれていた写真。
逆を言えば、そこだけが違っていた。
とにかく起きてみよう。
部屋のドアを開ければ、いつも見る廊下と階段があって、家の中は静まり返っている。
さっき目覚ましを見る余裕がなかったから、今何時なのかわからない。
リビングへと歩を進めたところで、今度こそ時間を確認することができた。
…5時。早い。
その時だった。
ガチャン。
玄関から物音がしたのは。
思わずその場に固まる。お母さんもおばあちゃんも5時はまだ寝てるはず。こんな朝っぱらから訪ねてくるような知り合いだっていない。
まさか…泥棒、とか…?
背中から寒気が起こって、身体が震えているのがわかる。いつも普通に過ごしていたのに、こんな、こんなことになるなんて…。
キィ…
ゆっくりとリビングのドアが開いていく。その先に人影を認めて…。
ぎゅっと目を閉じてしまった。