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1日目 プロローグ

私はララ。ふつーの中学生生活を送ってる。平々凡々な暮らしには、飽き飽きどころか安心してる。普通が1番。平和が1番。何も起こらないのが1番。

変わらないこと。

それが、私の唯一の望み。


「ララー!もう朝なんだけど!朝ごはんいらないの?」

「んー…。」

私の朝は目覚まし時計で爽やかに…始まるはずがない。いつもお母さんの怒号で気怠さを伴うのが普通だ。

もうちょっと寝たいなあ…。

「ララ!」

ドタンッ

部屋の扉が勢いよく開く。さすがにもう家を出ないといけない時間みたい。

「まだ寝てるの!?」

「おきたよ…。」

こんな朝は日常茶飯事。未だ眠い目を擦り、のろのろとベッドから降りる。

「また友達と夜遅くまで長電話かメールしてたんでしょ!そんなだから朝起きれないのよ。大体、お母さんの手伝いしてって言っても友達と連絡とってばっかりで…。」

「…。」

あー、また始まった。お母さんの小言はいつものこと。スルーして1階の洗面所に急ぐ。こういう時は、ほんとに時間ギリギリのことが多いからね。別に学校なんて遅刻してもいいんだけど、皆から注目の的にされて、担任の西園寺(サイオンジ)先生に怒られるのはごめんだし。なんとか朝の会には間に合うようにしてる。

「朝ごはんは?」

「いらない。」

「せっかく用意したのに…。」

お母さんが後ろでまたぶつぶつ言ってるけど知らない。用意した、なんて言っても、どうせ冷凍食品なんでしょ。あんまりそういうの、好きじゃないんだよね。学校の給食は割と好きだったりする。

…まあ、お母さんの手料理なら…遅刻してでも食べてから学校行くけど…。お母さんが急かすせいで、味わって食べれないから、夜ご飯に食べるって言ってみたり。

バタバタってほどじゃないけど、大慌てで準備をして家を出る。宿題…なんかあったっけ…?あー、そういえば数学の章末問題やっとけって言われたような。まあいっか。その場で解けるでしょ。自慢じゃないけど、頭はクラスでも学年でも上の方だから。たまに友達に教えることがあるけど、分からないというよりは計算ミスだったり。答えるものが何なのかよく分かってなかったり。あとはやり方を覚えてない、とか。つまりその程度の難易度なわけで。


そうこう考えているうちに学校に着いた。登下校の時間は私の思考の時間。この間に色んなことを考えてる。今日は数学の宿題だったけど、宝クジが当たったらー、とか。新作のゲームが出たら、とか。だから、人から「ぼーっとしてることがある」って言われるのはしょうがない。


キーンコーン…

は、危ない。もう少しで遅刻するところだった。

教室に辿り着くと同時に鳴ったチャイム。部活の朝練がある人なんかはこのチャイムが鳴り終わるぐらいに滑り込む。私は部活自体していない。興味が湧かないから。


今日もまた、いつも通りの1日が始まる。


「じゃあねー。」

「ばいばい。」

学校なんて気がつけば終わってるようなものだろう。退屈で仕方ない時は長く感じる、とは言うけれど、私は暇な時に考え事してるし。趣味には入らないけど、「思考」は唯一続いていることだと思う。ちなみにさっき別れを告げたのは「モモ」。私の数少ない友達の1人。彼女は常にふわふわしていて、誰とでも楽しそうに話す。所謂聞き上手な子だ。一方の私はこんなキャラだし、部活にも入っていないんじゃ、友達の数が少ないのは当たり前。とはいえ、少ないことは気にしてない。友達は数人いれば十分だと思う。それに、増えたらその分気を遣う。少なくとも、私は遣う。


学校を出て歩き出す。帰りは何を考えようか…。そうだな。

もし私に妹や姉がいたら…うん、これにしよう。名前は妹がナナ、姉は胡桃かな。妹は小学4年生で、頭はそこそこいい方。でも、時々私に聞きにきて欲しいから、学力は中の上くらいがいいな。姉は高校1年生。コンビニとかでアルバイトをしていて、頼りになるお姉さんが理想だなー。妹には好きな人がいて、私や姉に相談してくれる。願わくば両想いになって、そのままずっと付き合って結婚して欲しいな。私は恋なんてしたいとも思わないから要らないけど、姉と妹にはそんなパートナーができて欲しい。お姉さんの相手は…。

「キャンキャン!」

「あ、キャン。」

家の近くで鉢合わせたのは飼い犬の「キャン」で。朝はバタバタしてたから完全に忘れてたけど、たぶんその時は散歩かトイレに行っていたんだろう。家を出る時も帰ってきた時も、キャンは吠えるから。躾は一通りしてあるけど、キャンなりに「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」の言葉をかけてくれてるんだろう。

「あら、ララちゃん。おかえりなさい。」

「ただいま、おばあちゃん。」

そしてこのキャンを現在進行形で散歩してるのが、私のおばあちゃん、「ふみこ」である。

「ララちゃん、ともこが心配してたわよ。朝ごはん食べなかったって。」

「大丈夫だよ。給食はちゃんと食べたし。」

「そーお?夕ごはんはたくさん作ったから、たんとお食べ。」

「なになに?ハンバーグとか?」

同じく家に帰るところだったらしいキャンとおばあちゃんと一緒に歩く。歩調はのんびりでも、おばあちゃんと話す時間は楽しいから全然苦じゃない。むしろ、このまま続いてもいいと思うくらい。

「今日はシチューとカレーサラダとりんごだよ。ララが食べたそうにしてるから、ハンバーグは明日にしようか。」

「シチューとカレーサラダって合うの?おばあちゃんが作った料理にハズレなんてないけど!」

お母さんの手料理も好きだけど、おばあちゃんの手料理も大好物。夕ご飯はおばあちゃんがよく作ってくれるからいつも楽しみにしてる。

明日は好物の1つのハンバーグ。嬉しいな。

「きっとデリシャスよ。私が作ったんだもの。」

ふふ、と微笑むおばあちゃん。この優しい表情が好きだったりする。


「キャン!」

「あらキャン、おかえり。おばあちゃんとララも。」

あっという間に家に着いた。出迎えてくれたお母さんは、洗濯物を取り込んでるところで。

「ただいま、ともこ。」

「ただいまー。」

もう朝のことは怒ってないみたい。まあ、日常茶飯事だし、お母さんも私と同じで結構サバサバしてるから、今となってはどうでもいいのかも。学校に間に合えばいい話だから。

「今日の夕ご飯は、シチュー♪」

「よく知ってるわね、おばあちゃんに聞いたの?」

「そそ。早く食べたいなあ。」

鼻歌交じりで洗面所へ。外から帰ったら手洗いうがいをしないと、お母さんがうるさいから。家の中に入ればシチューの香りが充満していて、きっとお母さんが温め直して待っててくれたんだな。


テーブルにつけば、一緒に手を洗っていたおばあちゃんがよそいに行ってくれて、私はその間にスプーンとフォーク、箸を3人分用意する。

「はい、どうぞ。」

「おいしそ〜。」

差し出されたシチューは玉ねぎと人参、じゃがいも、ベーコン、キャベツと具沢山。一緒に添えられたフランスパンはパン屋さんで買ったやつかな。カレーサラダも空腹にはつらい美味しそうな匂いがするし…。りんごはご丁寧にうさぎの形をしていた。

「ララちゃん、準備手伝ってくれてありがとうね。」

「えへへ、だって早く食べたいし!」

「あれ、もう準備できたの?じゃあ食べようか。」

ベランダからは洗濯物を取り込み終えたらしいお母さんがのぞく。

「それじゃあ、お手てを合わせて。」

「いただきます!」

…「お手てを合わせて」、おばあちゃんのかわいいセリフが合言葉。


ずっとこんな日が続けばいい。私はこれで、幸せだから。




夢を見た。

それは、遠い日のこと。

まだ、お父さんがいた時の、記憶。

「お父さんは行ってみようと思うんだ。」

「貴方自分で何言ってるのかわかってるの?」

お父さんとお母さんの言い合いが続いている。

この時、おばあちゃんは…。おじいちゃんを亡くしたショックで寝込んでいた。

病気だった…。気付いた時にはもう、手遅れで。

「ハッタリだって言うんだろう?だったらいいじゃないか。」

「それはそうだけど…。」


何処に、行くって言ってたっけ…?

何が、ハッタリだったんだっけ…?


よく思い出せないけど、確かこの時。

「くーん?きゃん、きゃんきゃん!」

まだ仔犬だったキャンに、出会ったんだよね。

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