3 始まりの終わり。
私は心底ルカを賞嘆した。私は今まで、同じ生き物同士であれば時間の概念は同じと思っていたが…おそらく私の感じている10分と、このメグの感じている10分が、同じなはずがないのだ。けれど、そこから先に出てきた言葉は、僕には文学的すぎて理解の範疇を超えていた。
「何度も何度も、繰り返すの、私たち…」
ルカの瞳から、先ほどの少女のような笑みは消え…なんだか一瞬、とても悲しそうな瞳でこちらを見ているような気がした。
「ルカ?」
僕の問いには、ルカは何も答えず自分の言葉を紡ぐ。
「星が…なくなると、どうなるの?」
ルカの黒曜石のような瞳がきらきらと輝いている。僕はそれが、宇宙に煌めく星のようにも見えた。
「それは超新星爆発といってね。どれくらいの爆発かは判らないけれど、ひょっとしたら暫くは夜が無くなるかもしれないね」
想像する。太陽の20倍もあるペテルギウスが最期の輝きを見せるとき。僕らは夜中でも空を見上げて二つめの太陽を仰ぐのかもしれない。
ルカも同じような想像をしたのだろうか。熱を帯びたうっとりとした瞳で、空を見上げて囁くように
「それは…素敵ね…」と言った。
「ねえ、ずっとおひるになるの?」
メグがきらきらした瞳で僕の服の裾を掴む。僕はその頭を撫でてにっこりと笑った。幼児特有の線の細い髪が指の間をすりぬけていく。僕はその感触に、そう遠くはないはずの過去の自分の幻影を見ている気がした。
「いいや、夜がなくなるわけではないけれど。少なくとも昼のように明るい、そう白夜のような状態になるかもしれないね」
僕は幻視する。想像する。超新星爆発の光で、夜がなくなったこの病棟の、この中庭の、このバラ園で。ルカとメグと、朝日が昇るまでお茶会をする自分を。
「朝までお茶会がしたいわ、オリオン先生。その時がきたら、きっとよ」
「ああ、もちろんその時がきたら、きっと」
「のどかわいたぁ」
「すまないね、メグ。それでは、その時のために誓いの盃を交わそう。乾杯!」
「「カンパーイ!」」
それは思うに、幸せな昼過ぎだった。そして私はこの昼休みのこの瞬間が、限りなく一生続くのだと、思い込んでいたのだ。