学園へ
時間は瞬く間に過ぎた。
両親と、屋敷で働くメイドたちに見送られて、私は15年過ごした家を離れて学園へ向かった。
数日馬車に揺られた後、学園についた私は、さっそく自分が暮らす寮へ案内された。
寮の責任者は、学園に在学している最高学年に任されている。
私が出会ったのは、今年から寮長になったターミャ・フィオルト。
「初めまして。長旅で、お疲れでしょう。寮に案内しますから、ゆっくり休んでください」
「ありがとうございます」
ターミャは、おっとりと喋る。
それに合わせてるように、歩く速度ものんびりとしたものだった。
「寮では、二人で一つの部屋を共同で使ってもらいます。四年間、同じ部屋になりますが、ご存じですね?」
「はい」
「もし、よほど相手との折り合いが悪くても、部屋を変えることはできません。どちらかが、学園を去れば、話は別ですが……」
「覚えておきます」
ターミャは寮でのルールを歩きながら話してくれる。無駄がなく、頭にすんなりと入る。あらかじめ、渡された資料に目を通しておいたから、私にとって確認作業みたいなものだった。
「ここが、女性の寮です。男性寮は、学校の渡り廊下を挟んだ向こう側にあります」
見れば、距離はあるものの、男性寮と女性寮、入り口が向かい合うようにして建物が建っている。
「では、中へご案内します」
ターニャが中へ入り、私も後に続いた。
「数日前に、同室の方がすでに部屋に来られています」
「そうでしたか」
「部屋にいると思うので、先に自己紹介をしましょうか」
階段を上り、廊下の奥を進んでいく。
隅の部屋に辿りついて、ターニャがドアをノックした。部屋の中から声が聞こえてくる。
ターニャが扉を開けると、中に居た女性は読んでいた本を机に置いた。
彼女と私の目が合った。
「紹介するわ。あなたと同室の―――――」
「お姉様!!」
そう叫ぶや否や、彼女は私に飛びついた。
ものすごい勢いで来たから、倒れるかと思いきや、抱き着くときはまるで優しく包み込むようだった。
そのコントロールどうやってるの?
「あら。二人は知り合い?」
ターニャが目を丸くしながら、私たちを見る。
さほど驚いた様子でもない。
「はい!お姉様は、私の父上の、姉様の旦那様の、妹様と旦那様の娘様です!」
「……つまり、親戚筋ということでいいのかしら?」
「はい!」
「最初からそう言えばよかったんじゃない?相変わらず騒がしいわ、メディ」
「えへへ……ごめんなさい。でも、同室の人がお姉様だったなんて、すごい偶然!とっても嬉しいです」
「そうね。今日からよろしくね」
「はいっ」
ニコニコと笑顔のメディは、よほど嬉しいのか上機嫌で、今にも歌い出しそうだ。
「そういうことなら、メディさん。あとの寮についての説明は、あなたに任せていいかしら」
「はい。お任せください!」
「ありがとう。それじゃあ、私は次の人を迎えに行くわ」
「はい。ターニャ先輩、ありがとうございます」
ターニャは笑顔で手を振り、去って行った。
「お姉様。荷物が届いているので、お手伝いしましょうか」
「いいの?」
「他の人より早く学園にきたので、することがなくて退屈してたんです」
「そう。それなら、お願いしようかしら」
「はいっ」
メディは花が咲くように笑う。
つられて私も、笑っていた。