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君のためのハッピーエンド  作者: 守月
フラグメント
8/29

訪問


私の体調もよくなり、誕生日パーティーから早くも七日が過ぎた頃、リオットが訪ねてきた。

ガーデンテラスでお茶にするところだったので、リオットをそちらに誘って二人で向かい合った。


「体の具合はどうですか」

「もう良くなりました。あの時は、お見苦しいところを見せてごめんなさい」


オルカが紅茶を淹れてくれた。

私はテーブルの上に置かれたお菓子を手に取った。

今日のお菓子は、マカロンだ。柔らかくサクサクとした触感と、甘い蜜の味が口の中で溶ける。

ピンク、白、水色と、女の子なら喜ぶ色合いだ。

リオットの前にそれが並ぶと、どうも似合わないというか……。


「(なんだか、小動物が今にも集まってきそう……)」


ピピピピ、と小鳥が鳴いた。


「そんなことない。時には弱っている姿を見せてくれるほうが、私も嬉しい。普段から気丈な人ほど、特にね」

「……変わったところがお好きなんですね」


サク、とマカロンを頬張る。

舌にのって喉の奥に流れる間、じんわりと広がる甘味を楽しみながら、私は残りの一口を食べた。

リオットはさきほどからマカロンに手をつけていない。紅茶もとっくに冷めているだろう。

何か、言いたそうな顔をしている。

私は傍に立っていたオルカに言った。


「オルカ。手土産用に、マカロンを持ってきて頂戴」

「はい」


オルカは静かにテラスから去って、私とリオット様だけがそこに残った。


「何か私に、お話があるんじゃありませんか?」


オルカがいなくなった途端、リオットは敬語を崩した。


「気を利かせてくれてありがとう。感謝するよ」

「いえ」


やっとリオットは紅茶を飲み、カップを置いてから言った。


「あと数か月後に控えた、学園の入学について、聞きたいことがある」


あれ、と思った。

てっきり、前回の誕生日パーティーのことで何か聞かれると思っていた私は、拍子抜けした。

少し身構えていた分、肩の力が抜けたといってもいい。


「それが、何か」

「君の親戚が、そこに入学するという話を耳にしてね」


親戚。

私は、内心がバレないように、微笑んで首を傾げた。


「どなたが、そのようなことを?」

「誰でもいいでしょう。それより、どういうことですか」

「おっしゃる意味が、わかりかねます」


リオットは、核心をつかない。

そこまで警戒することもないのに、と思いながら、私は紅茶を飲んだ。


「知人から、君を学園で見た、という話を聞いたんですよ」


カチャ、と陶器の重なる音が、妙に耳についた。


「それで?」

「奇妙だと言っていた」

「奇妙?」

「まるで、双子のように似ていたそうだ」

「…………」


リオットの言おうとしていることが分かって、私は言った。


「リオット様は、私が二人いるとでも?」

「君のことだ。……今まで、その存在を隠していたとしても不思議じゃないんだよ」

「冗談はやめてください」


私は席を立った。


「リオット様が何を知りたいのか、私にはわかりません。ですが、何か確かめたいのでしたら、学園に入学した折にでも、紹介させてください。私の、友人を」

「友人ね」


リオットは私を試すような目を向けた。


「友人と呼べる相手を、用意したってことかな?」

「信用なりませんか?」

「いいや。そういうなら、その日を楽しみにしているよ」


リオットも立ち上がる。

私の後ろに視線を向けたので、振り向くと、少し離れた位置でオルカが包箱を持って立っていた。


「僕はこれで失礼するよ。また、学園で会おう」


意地の悪い笑みを残して、リオットはお辞儀をしてオルカの元へ歩いて行った。

私はリオットを、後姿が見えなくなるまで見送った。

そして再び椅子に腰を下ろして、目の前のお菓子に手を伸ばした。







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