訪問
私の体調もよくなり、誕生日パーティーから早くも七日が過ぎた頃、リオットが訪ねてきた。
ガーデンテラスでお茶にするところだったので、リオットをそちらに誘って二人で向かい合った。
「体の具合はどうですか」
「もう良くなりました。あの時は、お見苦しいところを見せてごめんなさい」
オルカが紅茶を淹れてくれた。
私はテーブルの上に置かれたお菓子を手に取った。
今日のお菓子は、マカロンだ。柔らかくサクサクとした触感と、甘い蜜の味が口の中で溶ける。
ピンク、白、水色と、女の子なら喜ぶ色合いだ。
リオットの前にそれが並ぶと、どうも似合わないというか……。
「(なんだか、小動物が今にも集まってきそう……)」
ピピピピ、と小鳥が鳴いた。
「そんなことない。時には弱っている姿を見せてくれるほうが、私も嬉しい。普段から気丈な人ほど、特にね」
「……変わったところがお好きなんですね」
サク、とマカロンを頬張る。
舌にのって喉の奥に流れる間、じんわりと広がる甘味を楽しみながら、私は残りの一口を食べた。
リオットはさきほどからマカロンに手をつけていない。紅茶もとっくに冷めているだろう。
何か、言いたそうな顔をしている。
私は傍に立っていたオルカに言った。
「オルカ。手土産用に、マカロンを持ってきて頂戴」
「はい」
オルカは静かにテラスから去って、私とリオット様だけがそこに残った。
「何か私に、お話があるんじゃありませんか?」
オルカがいなくなった途端、リオットは敬語を崩した。
「気を利かせてくれてありがとう。感謝するよ」
「いえ」
やっとリオットは紅茶を飲み、カップを置いてから言った。
「あと数か月後に控えた、学園の入学について、聞きたいことがある」
あれ、と思った。
てっきり、前回の誕生日パーティーのことで何か聞かれると思っていた私は、拍子抜けした。
少し身構えていた分、肩の力が抜けたといってもいい。
「それが、何か」
「君の親戚が、そこに入学するという話を耳にしてね」
親戚。
私は、内心がバレないように、微笑んで首を傾げた。
「どなたが、そのようなことを?」
「誰でもいいでしょう。それより、どういうことですか」
「おっしゃる意味が、わかりかねます」
リオットは、核心をつかない。
そこまで警戒することもないのに、と思いながら、私は紅茶を飲んだ。
「知人から、君を学園で見た、という話を聞いたんですよ」
カチャ、と陶器の重なる音が、妙に耳についた。
「それで?」
「奇妙だと言っていた」
「奇妙?」
「まるで、双子のように似ていたそうだ」
「…………」
リオットの言おうとしていることが分かって、私は言った。
「リオット様は、私が二人いるとでも?」
「君のことだ。……今まで、その存在を隠していたとしても不思議じゃないんだよ」
「冗談はやめてください」
私は席を立った。
「リオット様が何を知りたいのか、私にはわかりません。ですが、何か確かめたいのでしたら、学園に入学した折にでも、紹介させてください。私の、友人を」
「友人ね」
リオットは私を試すような目を向けた。
「友人と呼べる相手を、用意したってことかな?」
「信用なりませんか?」
「いいや。そういうなら、その日を楽しみにしているよ」
リオットも立ち上がる。
私の後ろに視線を向けたので、振り向くと、少し離れた位置でオルカが包箱を持って立っていた。
「僕はこれで失礼するよ。また、学園で会おう」
意地の悪い笑みを残して、リオットはお辞儀をしてオルカの元へ歩いて行った。
私はリオットを、後姿が見えなくなるまで見送った。
そして再び椅子に腰を下ろして、目の前のお菓子に手を伸ばした。