前世
オルカが部屋を出た後、私はベッドから降りて姿鏡の前に立った。
肩から足首までの長さのワンピース……ネグリジェ、というのだろう。女性用の寝間着として、前世でもあるにはあったが、まさか、自分が着ることになるとは思わなかった。
鏡の前で、ゆらゆらと体を揺らしてみる。
体の動きに合わせて、ゆったりとスカートが右に左に揺れる。
ちょっと面白い。
いや、面白がっている場合じゃなかった。
「……綺麗な顔」
鏡に映る自分を見ると、とても現実とは思えないほど綺麗な顔立ちをしていた。
目つきが悪いことを除いて。
「銀髪……、は、生まれつきだったっけ。こんなに伸ばせるものなのね」
母譲りの銀髪が真っすぐ腰まで届き、よく手入れされているおかげか、手で梳くとさらさらと零れていく。カーテン越しの日の光に照らされると、よく映える。
しかし、光で映える銀髪よりも、その髪がさらに引き立てているのは。
「オッドアイ、か」
右が青、左が赤。とても前世では見ることのない組み合わせだ。
これも生まれつきだが、両親ともに目は薄い緑だったはず。
それが、どうして赤と青のオッドアイになってしまったのか……。
頭の上からつま先まで、自分を見て、満足した私は再びベッドに戻った。
「(……まるで実感がわかない)」
前世の記憶を思い出した、なんて、今更。
「(私は、どうして死んだの?)」
前世の記憶を思い出したといっても、死んだ原因まで思い出せない。
以前の私のことがぼんやりと、頭の中で映像のように流れていくだけだ。
「(私の妄想だと思いたいのに、違うのね)」
自分の手を見る。
動かした指の感覚も、熱も、確かにある。
私は生きている。
目を閉じて、ゆっくりと頭の中に流れる記憶の映像を見る。
制服に身を包んで、学校に行って、友達と喋って、授業を受ける。
休みの日は天気が良ければ、買い物に行ったり、雨が降れば、家でのんびり過ごしたり。
なんでもない、少し退屈な日があっても、それが良いと思えるような毎日。
幸せだった。
でも、それ以降の記憶がない。
大学に進学したのか、就職したのか、結婚をして子供を産んだのか……。
「(私は、高校生で死んでしまったのね)」
原因はわからない。
思いつく限り、なにか事故に遭ったと考えるのが妥当なところだ。
自殺する理由はなかったはずだし、通り魔に遭ったとして、その直前までは記憶に残っていてもいい気がするけれど……。
怖い思いをした記憶が蘇らなくてよかった、と思いつつ、やっぱり事故の線が強い。
「(転生したってことは、私はこの世界で、二度目の人生を送るのよね?)」
それなら、今度こそ、最後まで生きていたい。
結婚とか、子供とかは、もういい。
憧れがあるのも事実だけれど、前世の平凡な日常を思い出してしまった以上、今まで通りに過ごせるわけがない。
そう、今まで通り。
「(……今までが、最悪じゃないの……)」
私は枕に顔を埋めて、記憶が蘇る前の『私』を思い返した。
思い返したくもないけれど、事実として受け止めざるをえない、現実を。