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君のためのハッピーエンド  作者: 守月
フラグメント
2/29

前世


オルカが部屋を出た後、私はベッドから降りて姿鏡の前に立った。

肩から足首までの長さのワンピース……ネグリジェ、というのだろう。女性用の寝間着として、前世でもあるにはあったが、まさか、自分が着ることになるとは思わなかった。

鏡の前で、ゆらゆらと体を揺らしてみる。

体の動きに合わせて、ゆったりとスカートが右に左に揺れる。

ちょっと面白い。

いや、面白がっている場合じゃなかった。


「……綺麗な顔」


鏡に映る自分を見ると、とても現実とは思えないほど綺麗な顔立ちをしていた。

目つきが悪いことを除いて。


「銀髪……、は、生まれつきだったっけ。こんなに伸ばせるものなのね」


母譲りの銀髪が真っすぐ腰まで届き、よく手入れされているおかげか、手で梳くとさらさらと零れていく。カーテン越しの日の光に照らされると、よく映える。

しかし、光で映える銀髪よりも、その髪がさらに引き立てているのは。


「オッドアイ、か」


右が青、左が赤。とても前世では見ることのない組み合わせだ。

これも生まれつきだが、両親ともに目は薄い緑だったはず。

それが、どうして赤と青のオッドアイになってしまったのか……。

頭の上からつま先まで、自分を見て、満足した私は再びベッドに戻った。


「(……まるで実感がわかない)」


前世の記憶を思い出した、なんて、今更。


「(私は、どうして死んだの?)」


前世の記憶を思い出したといっても、死んだ原因まで思い出せない。

以前の私のことがぼんやりと、頭の中で映像のように流れていくだけだ。


「(私の妄想だと思いたいのに、違うのね)」


自分の手を見る。

動かした指の感覚も、熱も、確かにある。

私は生きている。

目を閉じて、ゆっくりと頭の中に流れる記憶の映像を見る。

制服に身を包んで、学校に行って、友達と喋って、授業を受ける。

休みの日は天気が良ければ、買い物に行ったり、雨が降れば、家でのんびり過ごしたり。

なんでもない、少し退屈な日があっても、それが良いと思えるような毎日。

幸せだった。

でも、それ以降の記憶がない。

大学に進学したのか、就職したのか、結婚をして子供を産んだのか……。


「(私は、高校生で死んでしまったのね)」


原因はわからない。

思いつく限り、なにか事故に遭ったと考えるのが妥当なところだ。

自殺する理由はなかったはずだし、通り魔に遭ったとして、その直前までは記憶に残っていてもいい気がするけれど……。

怖い思いをした記憶が蘇らなくてよかった、と思いつつ、やっぱり事故の線が強い。


「(転生したってことは、私はこの世界で、二度目の人生を送るのよね?)」


それなら、今度こそ、最後まで生きていたい。

結婚とか、子供とかは、もういい。

憧れがあるのも事実だけれど、前世の平凡な日常を思い出してしまった以上、今まで通りに過ごせるわけがない。

そう、今まで通り。


「(……今までが、最悪じゃないの……)」


私は枕に顔を埋めて、記憶が蘇る前の『私』を思い返した。

思い返したくもないけれど、事実として受け止めざるをえない、現実を。



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