終わりの始まり
初投稿です。
よろしくお願いします。
始まりがあれば、終わりがある。
もし、何か新しいことを始めたいのならば、何か一つを終わらせることだ。
……というのを、どこかで聞いたことがある気がする。
「おはようございます、お嬢様。今日はお嬢様のお誕生日ですね」
私専属のメイド――――オルカが、挨拶と共に部屋のカーテンを開けた。
天蓋付きのベッドで身を起こした私は「そうね」とだけ答えた。
オリカはびっくりして振り向き、私をみた。
「お嬢様……。今日は、ずいぶんとお目覚めがよろしいのですね……」
メイドとして、その発言は失言として取られないか、と思いつつ、今までの私を思い返してため息をつきたくなった。
朝が弱い体質のせいで、寝起きの私は相手の会話がほとんど頭に入っていない。本来は無口なオルカが話すのは、決まって事務的なことだけ。朝だけは、オルカはなんでもない会話を口にする。、今の私がそれを覚えているのは、記憶に残らなくても、夢の一部として頭に入っているからだ。
正直、混乱しているけれど、ここは試してみるのが一番早い。
「ねえ、オルカ。お願いがあるの」
「はい。なんでしょう」
私の意識がはっきりしていると理解した途端、オルカは顔を引き締めてベッドで身を預ける私に近寄った。
そんなに真剣な顔をしているところ、申し訳ないけれど。
「あのね、ちょっと私の頬を、つねって?」
「……はい?」
「いいから」
寝ぼけているのか、といった顔をされたが、仕方ない。
そう思われるのも無理はない。
主人と使用人、埋めようのない身分の差がありながら、どうして朝から主人に頬をつねる日が来るだろう。
それも、主人の誕生日の日に。
いっそ、今この瞬間が永遠に来ないほうが、オルカのためだったかもしれない。
しかし、オルカは真面目だから、恐る恐る私の頬に手を添え、控えめに、ぐに、と頬をつねった。いや、つねったと言うより、気持ち的に強くつまんだ、と言えばいいだろうか。
それでも少しは痛みを感じるし、オルカの手の感触も、冷たさも肌から伝わってくる。
「……もういいわ」
「はい。あの……申し訳ありません」
「いいのよ。私が頼んだから」
気まずい空気が流れる中、私は頭が痛くなる思いがした。
いや、実際に本当に痛んできた。
「オルカ……。私、朝食は部屋で食べるわ」
「え?」
「頭が痛いの」
「大丈夫ですかお嬢様。すぐに、お医者様を……」
「いいの。そこまで酷くないから。ただ、夜のパーティーまでには治すから、それまで眠らせて。お父様にも、お母様にも、私は楽しみで仕方ないから、部屋にいるって伝えておいて。心配させたくないの」
「……かしこまりました。すぐに、朝食はこちらにお持ちします」
「ありがとう」
お礼を言った私に、オルカは何か信じられないものを見たような顔をして「一度ここで失礼いたします」といって部屋を出た。
私はいくつも重ねてある大きな枕のうちの一つを腕に抱きしめて、顔を埋めた。
「……夢じゃ、ない」
15歳の誕生日。
私は、前世の記憶を思い出した。
~あらすじ~
15歳の誕生日を迎えた朝、前世の記憶を思い出した『私』。
実際にプレイをしたことがないものの、転生した世界が、乙女ゲームの世界だと知る。
一度目の人生を終えた『私』が、二度目の人生を始める話。