お願いだから、消えないで
これは「つばさのない、鳥」続編です。
つばさのない、鳥を先に読んだ方が楽しめるかと思います。
「なあなあ。」
はい、来た。ボス的存在友達。
「どうした?」
友達はキョロキョロ周りを見た。でも周りに人がいないわけがなく。
それにその他の友達がもちろんいる。
「あちゃあ、いたかあっ!」
友達は頭を抱えた。
大体わかるでしょ、友達コレクター。
「やっぱり、やめた。」
「はああああ?なんで?」
意味が分からない。話しかけたのにやめるって。
あなたは5歳児か。
「まあいいや。放課後、屋上に集合っ!」
友達はいらないのに手を天井に手を振り上げ、去っていった。
「ちょ、待ってよおお!愛実!」
その友達の名は愛実。非常に飽きっぽく、一緒にいて疲れるタイプ。
愛実は最大の15分休みを使い終わり、自分のクラスに戻ってった。
一応、私も同じクラスなんだけど・・・。
☆
安村 拓実に助けられてからもうすぐ一ヵ月。
私、白鳥 こぐりは転生した世界を懸命に生きている。
そして夏休みが刻、一刻と近づき、その夏休みまであと、二日。
最近部活も休みだ。少しだけだが、鎖から解放されたように感じる。
「白鳥、今度は何、読んでんの?」
「えっ、ああ。」
この隣の席の男の子が安村。ちょくちょく私が読んでる本の題名を確認する。
そういえば、どうして確認するのだろうか?
とにかく今、読んでたページにしおりを挟み、また安村に本の表紙を見せる。
「今、読んでるのは『僕たちは』だよ。」
「ううん・・・気になるねえ、その題名。」
「ん?ああ、確かにね。あ、でもこれ面白いよ、お勧めする。」
「ふうん」
安村は顎をなでた。このポーズはなにかを考えてる時の安村の癖。
この題名を覚えてるのだろうか?
私はそんな安村を無視し、気になる次の展開を読み始めた。
☆
さて、愛実の言った放課後になった。私はしょうがないから屋上に行く。
前はすごく好きだったのだが、あの前回のこと・・下手したら自殺してたことがトラウマになって。
って言っても自分がやったことなのにね。
今日の屋上は太陽さんさん、すごく暑い。
「ああ!暑いね。ここ涼しいと思ったのになあ。」
愛実が奥で柵に手をのせてる。あのたくさんの友達はここにはいない。
「愛実!・・・あれ、いないよね他の友達。」
愛実は鼻で笑った。
「ひど。他の友達扱いするんて。まあ、確かにたくさんいるからわかるけどね。」
私はキョロキョロ回りを見渡した。私と愛実以外誰もいない。
こういう日は珍しい。一応、ここは学校の中でも人気の場所なんだけど。あのトラウマの日は含まないが。
「ね、誰もいないでしょ?今日は誰もいないと思ったんだよね。」
はい?
「へ?まあいいや。話って?」
「え、ちょっと待ってよ。もうちょっと話そうよ、ね?」
「なんでよ、学校で話してるじゃん。」
愛実は口を膨らませた。
愛実は嫉みたくなるほど、顔が小さいし・・・、かわいい。だから少し人気がある。
そしてぶりっ子。ちょっとあんまり・・・。
「そうだけどさ!まあいいや、話そ。」
ほら来た。愛実必殺、「まあいいや」。
「あのさあ。将くんがいるでしょ?」
「う、うん・・・。」
ちなみに「将くん」というのは愛実の彼氏、木下将太のこと。
愛実は恋人に恵まれてるのだ。
なにもかも幸せを。
「それでね、夏祭り一緒に行って、花火見ようって約束したの。」
「そうなんだ。」
なんだ、それだけか。
私は回り右をして屋上から去ろうとした。
「ちょ、待ってよ!」
愛実は私の腕を掴んだ。
「何?」
「まだ、話があるの。」
「そうなの?」
ただの自慢かと思ったんだが。
まあとりあえず去るのはやめた。
「で?何?」
「あのね、将ちゃんがね。拓実くん、つれてくるんだって。」
「なんで?」
将太おかしい。デートなのに友達連れてくるって。
「拓実くん、花火好きなんだって。だからOKした。」
「は?」
ああ、この二人お似合いだ。
どっちもおかしい。
愛実は手を合わせて必死な顔をする。
「だからお願い!一緒に夏祭り来て!」
「は??」
意味が分からない。
「な、なんでよ?なんで私に?」
「いいでしょ?隣の子なんだしさ。ダブルデートみたいにさ。」
「は?私、頭チンプンカンプンなんですけど。それに好きな人、いないし。」
「ね、そこを何とか!拓実くん、邪魔なの!」
それ将太に言ってほしい。
私は断った。しつこく言われても行くつもりはなかった。
んだけど・・・・。
☆
「コンコン」
家で読書をしていると。私の部屋にノック。
「何?おかあー、」
私の言葉と手が止まった。私の部屋の立っていたのはお母さんじゃない。
--愛実だった。
「え?は?何で・・・なんでいるの?ここ私の部屋、家って分かってる?」
愛実はあの時と一緒、口を膨らませた。
「もう、何よ失礼ねえ。ちゃんと分かってるわ。5歳児じゃあるまいし。」
「で、でもなんでここに入れたの?」
「ん?なんか開いてたよ、ここの家。鍵かけてないの?」
マジか。
これ、絶対お母さんだ。ついに鍵かけることまで忘れちゃったのか。あとで文句しよう。
「はああ。しょうがない、どうぞ入って。」
「失礼します。」
愛実は特に部屋のことはなにも言わず、すくっと真ん中の小さな円い机の近くの座った。
愛実はこの部屋に何回も来てるし、見慣れてるのだ。
「じゃ、愛実。お茶持ってきて-、」
くるね、と最後まで言えなかったのは、やっぱりこの人。愛実のせい。
無表情、何も言わないでなぜか私の腕を掴み引きとめる。
怖い・・・。
「こぐり、座って。」
私の部屋なんですけど・・?
すくっと言われた通り座る。
「な、何?」
「これ着て。」
取り出したのは青いグラデーションがかかった浴衣。
・・・・・って!
「つまり夏祭り行けと?」
「その通り!!正解したご褒美に浴衣を差し上げましょう!!」
うわああ、押し付け!
「嫌だよ。私、あの時嫌って言ったでしょ?」
「私だって嫌よ!拓実くんにデート邪魔されるの!」
・・・自分勝手!!
「それだったら将太に嫌だって伝えればいいじゃない!」
愛実はため息をついた。飛び上がっていたのがため息によって静まる。
「でもね・・・・こぐり連れて行くってもう言っちゃったの・・。」
「はああ?」
今度は私が飛び上がる番になってしまった。
「そんな、自分勝手な・・・私、いいって言ってないよ!?」
「でええもお。私のプライベートはどうなんの?」
愛実は言い訳。あと、プライベートなんか知らんし。
「だ・か・ら!ほら、着なさいよ!!」
愛実は乱暴に浴衣を投げつける。
これだから、私はほぼ一か月前屋上から飛び降りたの・・。
☆
と。
いうわけで、五時間後。
愛実に無理やり無理やり連れてこさせられた夏祭り。
夏祭りだから赤い提灯がきらめいてる。もっと違う色にすればいいのに。
「ああ!将く~~~ん!」
「ああ!まなみん!」
まなみん?
と、二人は抱き合った。別の言葉で・・ハグ・・した。
うわあ、カップル・・・。
「将くん、逢いたかった。夏休みい、ずううううううと退屈だった。」
「僕も逢いたかったよ、かわいいまなみんに。」
「やだあ、将くんったらあ♡」
うわあ、バカップル・・・。
あと、私家に戻ろっかな。
「ああ、しっしし!」
帰ろうとした私を広げた手で引き止める、通称まなみん。
「帰んないの!」
「ああ!まなみん。」
愛実が将太の声で手を引っ込めたから、私は前にトテンと転びそうになった。
「本当にこぐり連れてきたんだ。冗談かと思った。」
「冗談なわけないでしょ。で、拓実くんは?」
将太の後ろに安村はひっそりとたたずんでいた。黒い男性用の浴衣を着ていた。
あれ・・・コンタクトした・・?
「拓実くん元気ないね、どうしたの?」
「・・・・・・」
多分さっきのバカップルを見てしまっただからだろう。私も気分が悪い・・・。
「まあいいや。それぞれ別行動ってことで!じゃあね、こぐり頑張ってよ!」
・・・・・は?
「ちょ、待ってよ!別行動?!」
でも将太と愛実はそんな私の言葉を無視し、もうラブラブしてる。
もう、カップルってやつは・・・。
「はああ。行っちゃった。」
「しょうがない、行こう。」
これにはさすがの安村もたたずんでいるのはやめたようで。
「う、うん。」
とりあえず屋台を見ることにした。
「あ。」
「あ?」
安村が急に止まったから驚いてしまった。なんだろう、忘れものでもしたのだろうか。
だったらずっと家にいてもらってもいい。私はそもそも行きたくなかったのだから。
「りんご飴、おごるよ。」
安村が小さな風船のようなバックを探り始めた。
「え?いいよ、りんご飴なんていらないよ。おいしくなさそうだし。」
「いいんだ。」
安村はバックから小さい財布を出すと、その中から百円玉、三つを出し、りんご飴を買ってくれた。
ってそんなのいいのに。
この夏祭りは同時に花火大会もした。
安村が「花火好き」って言ったのはこれがあるから。
なので安村はちょっと早めに芝生の場所確保をした。それでも結構人が集まっていた。
安村と私は場所取りした芝生に腰かけた。
「いいの?こんなとこ来て。安村は。」
「ん?まあ嫌だけど、無理やり。」
「え?安村も?」
意外だ・・。安村が自分の意志で来たのかと思った・・・。
怪しい・・・あのバカップル・・何か裏があるなあ・・。
「白鳥ってさあ・・昔、鳥だったよな。」
「え?なんでいきなり?」
「ふっ、だよな。」
安村が軽く笑う。いきなりでびっくりしたが、なんで聞いたのかその意味を私は知っている。
私は前世ではハトだった、公園の。
公園ではいつも餌をくれ、帽子をかぶっている優しいおじさんがいる。ただ深く被りすぎて顔が見えない。
おじさんの笑顔は数えられるくらいしか見えたことがない。
でも知ってる。そのおじさんは・・生きてる。
安村とおじさんの笑顔は似てる。
だからあの時を思い出してしまう。
「ひゅううう・・・どおおおん!!」
ちょうど花火が上がった。ここからだと、とっても見える。安村の場所取りがうまくいった。
きれいだなあ。きれいな円が空にある。
お願いだから、消えないで。
この花火も、この時も、この横にいる人も、全て。
あのおじさんは前世では日常だったけど、十三年前人間になって帰らぬ時となった。
確かに夢に出てくる時もあった。
けど、夢と現実は違う。だからこの時は特別。
「こぐり。」
「えっ?」
長く沈黙の中にいたもんだから反射的に安村の方を向いた。
「!!」
安村は私に抱きついてた。
これ、バカップルと一緒じゃん・・・。
でも・・・・嫌じゃなかった。
「こぐりさん!」
「は、はいい!!?」
久しぶりに「さん」と呼ばれたのでいろんな意味で驚いてしまった。
「す、好きです!つ、付き合ってください!」
・・・・・へええええええええええ???!!
え、これ告白だよね?え、これがどっかで見てる告白だよね?
頭の整理がつかないうちに私の口は勝手に動いた。
「はい。」
安村は抱きつくのをやめた。驚いたようだ。
でも一番驚いてるの、私なんですけど?!
私、受け入れたよね?え、告白を受け入れたってことだよね?!
私の頭はパニック、パニック!!
でも私は安村のこと、好きだったのかもしれない。
鳥の時から・・。
ただ気が付いてなかっただけ。
私、今度から「拓実」って呼ぼう。あのときだって無名のおじさんだったもの。
謎に見つめあうことになってしまった私と拓実。
もはやりんご飴を食べることも忘れてしまっている。
「ひゅううう・・・どおおおん!!」
また花火が上がった。
この時の花火は前よりも大きな音に聞こえ、
・・・・しずく型の花火が二つ並んでいるように見えた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。