2023年SF大会資料 読者に嫌われるが作者は成長する挿入話について
挿入話。
読んで字のごとく『話を挿入する』訳だが、これを読者は間違いなく嫌う。
特になろうには栞があって、自分の読んだ所を記録できるので、それが混乱するからだ。
だが、これを駆使する事で、作者は間違いなく成長できる。
これはそんな挿入話の使い方である。
まず、挿入話を活用できる作者と活用できない作者が居る事を強調しておこう。
活用できない作者というのは、プロットをしっかり作ってその通りに話を進める作者である。
こういう作者は挿入話はかえって毒にしかならないので、すっぱりと使うのは諦めよう。
で、挿入話が活用できる作者というのは、行き当たりばったり系の作者である。
何しろ行き当たりばったりなので、話が詰まる事がとてもよくある。
で、そのままエタるのだが、大体そうなる理由としては、作者側が物語の事前情報を把握していない事が多い。
書いている世界、書いているキャラクター、キャラクターたちのエピソード……etc.
このあたりを決めずに始めるから詰まるのだ。
そんな作者にこそ挿入話である。
大体挿入話を活用できる作者というのは、勢いのまま筆を進める訳だからある程度までは物語を進める事ができる。
で、勢いが止まった所で書けなくなったならば、冒頭部を中心に挿入話を入れる事をお勧めする。
その時点で作者は書いている物語についてある程度把握しているだろうから、冒頭部の足りない所が嫌でも見えて来る。
そこを補足する形で挿入話を入れるのが、挿入話の正しい使い方である。
例として異世界転生ものを書いているとしよう。
なろうテンプレートに沿って異世界転生しつつ、複数のヒロインをゲットしてハーレムパーティーでダンジョンをキャッキャウフフ……あたりで筆が止まった。
こういう話の場合、確実に書けていない場所を書く事で、作者側がその物語を把握できるのが挿入話のメリットである。
一例をあげるなら、拠点としている街の描写。
ナーロッパ風の街として設定して、宿屋や酒場があってぐらいは設定しているだろう。
その街に深みを与える為に、ヒロインとデートしながら街の描写を入れてみるといい。
たとえば、主人公たちが潜っているダンジョンは街の何処にあるか?
街の外れにあるならばそのダンジョンが危険、つまりそこからモンスターが出て街に害を与える可能性があるみたいな設定の深堀りができるし、街の中にダンジョンがあるのならば鉱山都市よろしくダンジョンを中心に街が発展しているなんて見る事も出来る。
何処に行くかも大事で、たとえば街に劇場がある場合はそんな芸人がやってこれる規模の街の大きさとその人口を維持できる物流インフラがあるという事。
学校があるという事は、ある一定層の子供に教育を受けさせる事ができるという事を意味している訳で、その街に支配者階級がいるという見方もできるのだ。
買い物も大事で、武器と防具はどこからやって来るのか?それを仕入れる商人と鍛冶屋はどこに居るのか?
料理も大事だ。
その街の名物料理は肉か魚か?野菜は?調理方法は?
主人公が料理の好物を知った時にヒロインたちは料理ができるのか?そして主人公の為に料理を作ってあげるのか?
このあたりをヒロインのデート話の挿入話として入れて、世界に深みを持たせるのだ。
そこから、話のタネを広げて育てるのである。
ダンジョンからモンスターが逃げ出したで一話、芸人と住民のトラブルで一話、物流話ならお約束は商人の護衛で一話、学校ネタなら、授業・教師・生徒で三話ぐらい作れるし、生徒の親として支配者の話を追加してもいい。
商人と鍛冶屋のトラブルや料理の食材、更に調理で一話、それをヒロインにさせる事でそのヒロインの人数分話が作れる……という感じで作者にネタを提供してくれる訳だ。
で、この挿入話は徹頭徹尾作者の為に書く事を強調したい。
読者側からすれば読む順番が狂うので忌み嫌われるのだが、エタらないための必要な措置であり『本当に申し訳ない』と心の中の某博士風に謝りながら、挿入話を入れるべし。入れるべし。入れるべし。
なお、試しに『現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変』の最初の章である『私の髪が金髪な理由』の挿入話を数えてみたら、39話中七割近くが挿入話という凄まじさだが、Twitterでバズった拓銀買収話も実は挿入話だったりする。
書籍化を狙う作者でよく聞くのが、『最新話まで読んでくれたら面白いのに』という嘆きだが、裏返せば『冒頭部がつまらない』と言っているようなもので、挿入話はその為にも冒頭部を集中的に行う事を私は主張したい。
ただ、この挿入話は中盤まで書いて作者がある程度物語やキャラクターを把握してから書く事。
物語序盤にそのあたりを行き当たりばったりで書いたら、ただの設定資料集になって満足してエタるという事もあるので。




