2023年SF大会資料 仮想戦記のキャラクター小説化は架空戦記にどのような影響を与えたか?
これは2023年SF大会の『ネット架空戦記の部屋』のレジュメです。
架空戦記というものの主人公は基本的には人ではない。
『国』なり『家』なりの組織であり、そこに所属する共同体が主人公である。
ぶっちゃけるならば『太平洋戦争で日本が勝つ物語』であり『関ヶ原で石田三成が勝つ物語』と言い切ってもいい。
初期についてはともかく、末期やオワコンと呼ばれた2000年代、ここを外している物語は基本的にはないと思う。
多くの武将も、将軍も、戦艦大和や零戦ですら、つまる所先の二つを達成するためのギミックでしかないのである。
当然それは飽きられる。
オワコン化の原因はこれと私は思っている。
これを、キャラクター小説化が変えた。
キャラクター小説を、ここではキャラクターに焦点を当てた物語と定義しよう。
上の仮想戦記がある種の大局観にあるのに対して、架空戦記がキャラクター小説化した結果、以下の変化が生じる事になった。
(1) 国家の勝敗と主人公の勝敗が違う事が許容できる
これは本当に大きく、『幼女戦記』などが良い例で帝国は世界相手に戦い続けて、戦い続けて、戦い続けた結果敗北する事になる。
だが、それとは別に主人公は手を変え品を変えて戦い続けた結果、ついに生き残った。
これによって、『負けてもいいんだ』という空気ができたのは大きい。
ちなみに、このキャラクター小説化を利用して多くの作者が仮想戦記のイロハを学んだのが『銀河英雄伝説』と『恋姫無双』であると私は思っている。
(2)作者側のデータ処理の削減
この時期の二次創作で流行していたのが最低系SSと呼ばれるもので、紹介ページを張っておく。
https://yaruo.fandom.com/wiki/%E6%9C%80%E4%BD%8E%E7%B3%BB
紹介HPがやる夫系なあたり、こちらも紹介しないといけないのだが、困った事にやる夫系までは私も追えず、残す事で誰かが語ってくれるだろうと期待していたりする。
話がそれたが、この最低系、別名『俺つえー』系の結果、主人公が出れば勝つのだから、作者側は把握するデータをかなり省略する事ができたのである。
たとえば、把握するもので地図を始めとした地形データを『幼女戦記』は現実世界風という事で大規模に省略化している。
究極的な所、『幼女戦記』における地理というのは、『章』であって『地理』ではないのだ。
だからこそ、王国や連邦や合衆国ですらその地政学的意味は最低限説明しつつ、それがもたらす細かな変化を大規模に省略化しつつ、主人公とその周りの深堀り当てるという架空戦記的コペルニクス的転回で物語を進めている。
このあたりの発想の元が何処かといえば私も正直分からない。
ただ、この発想が十二分に使えた「自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた」スレに私が居たのでこの転換に気づけたというのは今だからこそ大きかったのかなと思ったり思わなかったり。
(3)主人公年齢の若年齢化
これは本当に大きかった。
現実で将軍なり提督なりと呼ばれる人の年齢は50-60代。
現場の最上位と呼ばれる大佐は大体40代でつくものである。
キャラクター小説化の結果、少年兵と呼ばれる年代の連中がその才能(魔力)を背景に容赦なく出世階段を駆け上がっていたのである。
この理由は間違いなく断言できる。
『魔法少女リリカルなのは』の魔力ランク制である。
あれの魔力という別ファクターと社会組織としての時空管理局の組織の矛盾とブラック職場科は一時期それだけで百花繚乱のネタをこの界隈に振りまいたのだが、ここではそれるのでひとまずおいておこう。
なお、『幼女戦記』のターニャ・フォン・デグレチャフ『少佐』。
戦時であったとしても、それがどれぐらい特異かをこのページで紹介するとしよう。
http://unkkyoudan.mond.jp/rounk/shyumi/kaikyuu.html
デグ様もデク様なんだが、それ以上におかしいというかブラックなのが『なのは』のクロノ・ハラオウン。
14歳にて執務官。
これ、現実職がないけど、警察組織における『警部』相当職だったりする。
つまり、ガチキャリア組。
いくらネット小説転生系が幼年期からキャリアアップをするとはいえ、この二人のこの年でのキャリアはそうお目にかかれない。
で、こういう変化の前提の中で、先に上げた新たな燃料こと『ストライクウィッチーズ』、『ガールズ&パンツァー』、『艦隊コレクション』がやってきたのである。
架空戦記作家がうまく食べるのを苦慮する中、ネット二次創作作家及びやる夫系作者たちがこれを嬉々として使って新しい物語を生み出していったのはある意味必然だったと言えよう。




