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《 長編・青春ホラー 》 “ 影、つどう ”  作者: 黒瀬 珪
プロローグ
1/10

夏のおわり (198X )  - その1 -

【 は じ め に 】

 長らくご無沙汰しておりました。黒瀬 珪と申します。

 色々と事情がありまして、なかなかこちらの活動に着手できなかったことをお詫びいたします。やっと準備が整いましたので、今後運営の方々、ご覧いただく方々何とぞよろしくお願いいたします。

 これは長い長いお話になります。しかももしかしたらお読みになる大半の方の、ご両親くらいの年代に相当する世代の物語となるかも知れませんが、数十年前、そろそろ“ 日本のチベット ”と言う呼称が蔑称に変わりつつあった頃の東北の、高校生たちのお話です。現代からすると相当に純朴そうに見えますが、当時の少年たちなかなか一筋縄では行きません。現代と前世紀が混交したかのような、東北のある奇妙な一時代を切り取れれば幸いです。美少女美少年はあまり登場せず、みな口べたで偏屈な奴らばかりですけど無論のこと、僕は彼らが大好きです。それではのんびりとお付き合い下さい。重ねてよろしくお願いいたします。



               ▲


 市の東端にあるバスセンターの横を、流行りの竹の子族もどきの格好をした大柄な少年が一人、蹌踉(よろ)めきながら歩いていた。

 大都市で流行ってる最先端のファッションを田舎町でそのまま真似ると、風景とあまりにそぐわず、場合によっては滑稽を通り越し狂気の沙汰にしか見えない。あるいは周囲に高い建造物が少ないのが致命的な原因なのかも知れないが、夜半もはるかに過ぎてからひまわり模様の真っ赤なオープンシャツを羽織り街はずれをふらふら歩く十全(じゅうぜん)のすがたは、狂人どころか妖怪と見まごう異様さだった。

 すでに街に人の気配はなく、遠い国道の辺りまであらゆる通りは森閑と静まりかえっていた。

 市街地からしてそのありさまである。反対側の、バスセンターの裏手より始まる古ぼけた住宅地、さらにその向こうの田園地帯は、とうに一面見分けもつかぬ広大な夜闇の底だった。

 ―― 何よ。この気ィ触れだみでェな寒さは! 秋飛び超えでいぎなり冬みでェじゃねェが。 

 とうに店を閉めたホルモン屋の大きな提灯を模した看板にぐったり額を押しつけ、十全は荒い吐息をついた。

 夜気に冷えた看板は脂とほこりを練り混ぜた汚れに覆われていた。湿って素肌にべったりとはりついた安物のシャツがたちまち汚れてゆく。

 汗をかいたわけでもないのに、十是の体は気味悪く濡れそぼっていた。

 陽の入りと共に急激に気温が下がり、空気が重く湿気を含み始めたせいだった。

 このあたりでは普段ほとんど気づかぬ、濡れた土と青葉のにおいが十全の鼻をついた。

 木造の古めかしい県交通センターと周囲から妙に孤立してぽつん、と建つ要塞のような外見の雑居ビルの間をぬけると、ものの500メートルも行かぬ辺りから小高い丘陵地が始まる。その斜面の大半を覆った針葉樹の匂いが湿った畑土の匂いと入り混じり、夜半過ぎの静寂に生々しく息づいていた。

 ―― 畜生。何が土曜の夜はフィーバーだ。

 持ち金も底をついたし、そろそろ家へ帰る潮時だった。

 信号を無視して横断歩道を渡りかけた時、背後で住友銀行の電光時計が瞬いた。振り返ると午前二時丁度だった。

 目を前方にもどすと真っ黒な猫が一匹、無人の十字路を悠々と渡って行くところだった。文字通りの傍若無人さで道を渡りきると、猫はほっそりとした京ビルの、焦茶色をした煉瓦の壁面に設けられた螺旋階段をひょいひょいと登り始めた。

 その薄気味悪いほど自然な足取りを目で追っていた十全は突然、棒立ちになった。

 それまで何故気づかなかったのか、瀟洒な階段の踊り場に女が一人、(うずくま)るように座っていた。

 上品な長袖に包まれた腕が伸び、猫の丸い頭蓋を掌ですっぽりと包んだ。


( 続 く )



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