07 賢者様ネットにハマる
「かわりにと言ってはなんだけど、リョウの食事をお願いできませんか。私の見てないところで何食べてるのか心配なので」
「おまかせください」
(ひょっとして、はじめからそれ狙ってた?)
お母さんを睨むと目を逸らした。
(やっぱりそうか)
「メイドさんにオフロやこっちの道具の使い方を教えたいので、呼んでもらえませんか」
「はい」
二人がやってきた。
二人を見たお母さんは、わー、とか、キャーとか言っている。
「リョウはこれからどうするの?」
「カオルちゃんにパソコンの使い方を教えようと思ってる」
「それはいいね」
「それと、晩御飯はカレーにしようと思うんだけど」
「時間かかるよ」
「レトルトでいいと思う。ご飯もパックの買ってくる」
「そんなんでいいのかな?」
「だいじょうぶ」
「じゃあ、まかせた。あと、ハミガキと歯ブラシも」
「わかった」
お母さんは二人を連れてリビングを出て行った。
「リョウ様のあちらでの身分について、私なりに考えましたので、聞いてください」
キキョウさんが切り出した。
「本来ならばカオル様の弟子というのが妥当かと思いますが、今は目立たないことを優先すべきかと考えます。大変申し訳ないのですが、下男ということでお願いできないでしょうか」
「はい、僕もそれがいいと思います」
「リョウがそれでいいなら、そういうことで……お願いします」
カオルちゃんが申し訳なさそうにそう呟いた。
「じゃあ、見せたい物があるから二階へ来て」
二人を連れて二階へ上がる。
カオルちゃんを机に座らせて、ノートパソコンを開く。
「これはパソコンといって、いろいろなことを調べることができる機械なんです」
電源の入れ方から、ブラウザの立ち上げ方まで一通り教える。
「ここに調べたい言葉を入れて……」
「いったい、どういう仕組みなんですか?」
「そのへんは僕もよくわからないけど……それもこれで調べられるよ」
「すごいですね」
二人の目がすごくキラキラしてる。
漢字は微妙に違うらしいけど、何とかわかるみたいだ。
買い物に行くと言うと、キキョウさんが一緒に行きたいと言ってきた。
カオルちゃんはネットに夢中だ。
車で近所のスーパーまで行くことにした。
もちろん、着替えてもらいました。
「昨日も気になったのですが、何ですかこの乗り物は」
「自動車といって、馬がなくても動くんですよ」
「驚くことばかりですね」
「あの、失礼ですけど、キキョウさんは何歳ですか」
「失礼だと思うなら聞くな、とカオル様ならおっしゃいますよ」
「あー、ごめんなさい」
「あはは、冗談です。それに、あれはカオル様の性格ではなくて、リン様の影響だと思います。リン様は無駄口の嫌いな方でしたから」
「そうなんですか」
「私は今年二十八になります。ちなみにカオル様は十七歳です」
「えーっ、てっきり十四歳くらいかと思ってました」
「幼く見えますからね、リョウ様はいくつですか?」
「十九になります」
「もっと下かと思っていました」
「メイドさんたちは?」
「十九です」
「同じ歳だったんだ」
スーパーでのキキョウさんは驚きっぱなしだった。
(ここはダメ押しで、カツカレーだな)
レトルトカレーと惣菜のトンカツ、パックのご飯にレタスにプチトマト、もちろんアイスクリームも。それからハミガキと歯ブラシを5本買う。
カオルちゃんのカレーはやっぱり甘口だ。
(たぶん喜んでくれるだろう)
「あとで手伝うから、待ってて。みんなを驚かせたいんだ」
お母さんにそう言ってみんなを連れて二階へ上がる。
カオルちゃんはまだパソコンに夢中だ。
「あっ、おかえりなさい」
「ただいま」
キッチンへ降りてお母さんを手伝う。
お母さんは冷蔵庫から缶ビールを二つ持ってきて、一つをキキョウさんに渡す。
「それ、お酒ですから」
(念のため)
初めてのカツカレーにカオルちゃんもメイドさんたちも、もちろんキキョウさんも大喜びだった。
空の缶をずっと持っていたのは見なかったことにしておこう。
「次はちゃんと手作りのを食べてもらおうね」
「うん、そうだね」
みんなが帰るとき、お母さんが大きな紙袋を持ってきた。
「それは?」
「化粧品のサンプルとティッシュと洗剤にスポンジ、それとハンドソープ、ハミガキと歯ブラシ、あと男の子には関係のないもの、タオルも入れておいた」
(さすがです)
みんなは何度もお礼を言って帰っていった。
「はぁーっ」
お母さんがため息をついた。
「大丈夫なの?」
「何が?」
「とんでもないことになってるからさ」
「心配……だよね」
「当たり前だよ、とても信じられることじゃないし」
「うん、僕にもよくわからないけど、なんかね、ワクワクしてる」
「それは……わかる、なんだかイキイキしてるね」
「気をつけるから、許して」
「まあ、みんないい子だし、でも、ほんと、危なくなったらすぐ逃げて来るんだよ」
「わかってるって、お母さんを一人にするわけにはいかないから」
「なに偉そうに」
「「あはははは」」




