65 涼カツヒコを励ます
翌日王国へ行き、久し振りに魔術学校へ行った。
まずは校長に挨拶に行った。
「お久し振りです」
「おお、元気そうで何よりです。タチバナ様は?」
「お元気です。店の方も順調です」
「それは良かったです。心配しておりました」
「それで、今日はどのような用件で?」
「ミウラさんたちに会うためです」
「もうすぐ昼休みですので呼んでこさせます」
「ありがとうございます」
校長は部屋を出て行きすぐに戻ってきた。
「実は重大なお話がありまして、ミウラさんたちはもちろん校長先生にも聞いていただきたいのです。そして絶対に口外しないと約束していただきたいのです」
「内容次第と言いたいところですが、私などを信用していただいているという事なのですね」
「はい、私は先生を信頼しております」
「そう言われては、約束するしかありませんね」
「ありがとうございます」
授業の終了の鐘が鳴り、暫くして三人がやってきた。
「お久し振りです」
「こんにちは」
「お元気そうで」
「こんにちは、今日はみなさんが腰を抜かすような報告があります」
四人が固唾を飲んで僕を見つめた。
「帝国で反乱が起きました」
「「「「えええーーーっ!」」」」
「それは本当ですか!?」
校長先生が身を乗り出して訊いてきた。
「はい、宰相が軍を率いて反乱を起こし、皇帝陛下を幽閉しました。城門も封鎖されています」
「それは、どういうことを意味するのですか?」
「四月には帝国が開戦に踏み切るということです」
「そうですか、そうなると王国は派兵することになりますね」
「共和国次第ですが」
「というと?」
「派兵を断わるかもしれません」
「それは期待できるのですか?」
「何とかしようと思っています」
「そうなることを期待したいですね。実は内々に、派兵することになったら今度の三年生も動員すると通達を受けているのです」
「「「えええーーーっ!!!」」」
タカシ君たちが驚いた。
「三年生といっても、なりたてじゃないですか? 二年生ですよ」
「そうですね、戦争ができるとは思えません」
「そんな……」
「当然君たち今の三年生は全員召集されます」
「リョウ、この話、父上に話してもかまわないだろうか?」
「はい、そのためにお話ししました。校長先生は黙っていてくださいね」
「情報源を漏らすわけにはいきませんからね」
「はい、お願いします」
「私は帝国で工作を続けます。皆さんは王国で出来ることをしてください」
「「「わかりました」」」
三月、ついにお弟子さんたちが召集されたが、僕はミツナリさんの護衛ということで召集を免れた。
「仕方があるまい。くれぐれも気をつけるのだぞ」
「はい、クロユリの空気の術がありますから大丈夫です」
「そうです、私達のことはご心配なさらず、師匠は一刻も早い終戦を目指してください」
「わかった」
カツヒコさんが思い詰めた表情で口を開いた。
「クロユリ、お願いがあるんだが……」
《何でしょう?》
「キキョウさんに会わせてもらえないだろうか」
《……はい》
カツヒコさんを森へ連れて行った。
「……カツヒコさん」
キキョウさんが驚いた。
《お弟子さんたちが召集されたんです》
「えっ!」
「そうなんです、それで……戦場へ行く前にどうしても一度会いたくて、連れてきてもらいました」
《あの、二人で散歩でもされてはどうですか?》
「そうだな、キキョウさん、ちょっと散歩に出ませんか?」
「……はい」
二人は屋敷を出て行った。
「召集って……」
カオルちゃんが顔を曇らせた。
「うん、ついにそこまで来たね」
「カツヒコさんはキキョウさんのことが好きみたいだよ」
「キキョウはどうなのでしょう?」
「なかなか素直にはなれないかもしれないね」
「そうですね、いつも私のことを最優先に考えますからね」
「カオルはどうなの? キキョウさんが結婚したいって言ったら」
「もちろん祝福しますよ」
「でもキキョウさんのことだから、平和になってカオルが安全に暮らせるとわかるまでは傍から離れないだろうね」
「キキョウのためにも早く平和な世界にしなくてはなりませんね」
「そうだね、皆さん無事に帰ってきてくれるといいんだけど」
「祈るしかありませんね」
二人が散歩から戻ってきた。
「クロユリ、帰ろう」
《はい》
キキョウさんもカオルちゃんも黙ったままだった。
森に戻ってカオルちゃんに訊いてみた。
「キキョウさんは何か言ってた?」
「無事に帰ってきたら結婚を申し込むので、考えておいてほしいと言われたそうです」
「それでキキョウさんは?」
「やはり、私の傍を離れるわけにはいかないと答えたそうです」
「そうだろうね」
「私にはリョウがいるので気にしなくていいと言ったのですが……」
「キキョウさんとしては、例え戦争が終わってもカオルが王国にいる限り心配なのかもしれないね」
「私が王国を出ればいいのでしょうか?」
「帝国に行く?」
「私は……できるなら王国に留まりたいです」
「うん、王国には思い出があるからね」
「はい」
「いっそ、カツヒコさんに王国に来てもらうというのは?」
「そうですね、彼次第ですけど」
「訊いてみるよ」
「はい、お願いします」
帝国に戻ってカツヒコさんに訊ねた。
《あの、カオル様から聞きましたが……》
「ああ、キキョウさんはカオル様の傍を離れるわけにはいかないそうだ」
《でしたら、カツヒコさんが王国に来るというのはどうでしょう》
「王国へ行っても仕事のあてもないし、彼女を困らせることにしかならないだろう」
《仕事はカオル様が何とかしてくださると思いますし、キキョウさんがカツヒコさんを嫌っているとは思えません》
「ありがとう、帰ってこられたら、また会わせてもらえるか?」
《もちろんです。そのためにも無事に帰ってきてください》
「そうだな、返事を聞くまでは死ねないな」
《はい》
数日後、お弟子さんたちは全員国境へ向け出発した。




