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賢者の下男は平凡な日常を望む  作者: 高橋薫
第四章 大陸の未来
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64 涼殿下に気に入られる

「クロユリ、ひょっとして王国でも何かしてあるのか?」

 《はい、一応、有力貴族の方に王国が参戦しないよう根回しをお願いしてあります》

「それはミツナリの指示か?」

 《いいえ、それも私の独断です》

「私も会ってみたいが、難しいだろうな?」

 《はい、殿下も危険ですし、もし知れれば相手の立場を悪くすることにもなりますから》

「そうだな、仕方ないか」


「思ったのだが、結局のところ全てお前が仕組んだことのようだな」

 《いいえ、決してそのようなことはございません》

「まあいい、今はそういうことにしておこう」

 殿下がニヤリと笑った。


「ところで、ここは食堂か?」

「そうでございます」

「せっかくだ、何か食べさせてもらえんか」

「料理は一種類しかございませんが」

「それでかまわん、クロユリも一緒にどうだ?」

 《私は遠慮させていただきます》

「何故だ、付き合え」

 《いえ、あまり食欲が……》

「そうか、仕方ないな。では一人前たのむ」

「はっ、しばらくお待ちを」

 《私はワインを買ってまいります。この店には置いてありませんので》

「そうか、たのむ」

 《はい》


 さっさと逃げ出しワインとチーズを買いに行った。

 店に戻ると殿下が微妙な顔をしていた。


「クロユリ、知っておったな」

 小声でささやく。

 《はい、ですからワインとチーズでお口直しを》

「そういうことか」

 《共和国産のワインは美味しいですよ》

「ありがたい」


 《次はどうしますか?》

「もう少しまともな物を食べたいな」

 《でしたら向こうへ行きますか? 家に何かあると思います》

「おお、それはいいな、たのむ」


 またミツマサさんにワインを一本渡して店を後にした。



 冷凍のエビピラフにフリーズドライの卵スープ、レタスとトマトのサラダを出した。

「驚いた、なんという早さだ」

 《いいえ、作ったのはサラダだけです。他の物は温めたり、お湯を注いだだけです》

 ピラフを一口食べた殿下が目を見開いた。

「うまい、これが温めただけだと?」

 《はい》

 駄目押しにビールも出す。


 《今はこんなものしかありませんが、次はもっとましな物を召し上がっていただきますので我慢してください》

「いやいや、これで充分だ。これが、未来の生活か」

 《そうです》

「帝国の未来を見てみたいものだな」

 《私もそう思います》


 それから暫く殿下にネットを見てもらった。

 殿下はあまりしゃべらず、いろいろ考えている様子だった。


 《ではそろそろ、森へ帰りますか》

「そうだな、たのむ」

 《はい》


 トビラを開いて森へ帰った。



 殿下が陛下とお后様に聞いてきたことを報告した。


「ずいぶん楽しそうですね」

 お后様が笑顔でそう言った。

「そう見えますか?」

「ええ」

「確かに、今日一日とても楽しかったです」

「そうか、それは良かったな」


 陛下が改まった口調で殿下に言った。

「わしは、今回の戦争が終わったら責任をとって退位することに決めた」

「そんな……」

「驚くことはない。けじめをつけねばな。次はお前が皇帝になるのだ、今のうちに色々見ておくといい」


「そうだ、カオルは帝国で賢者になる気はないか? 元々帝国の生まれなのだから」

「有り難いお言葉、感謝致します。ですが私は王国の賢者の後継者です。先代が守ろうとした王国を捨てることはできません」

「そうか、ならばクロユリはどうだ、賢者にならんか?」

「それはいい、クロユリ、俺を手伝ってくれ」

 《申し訳ありません、私はカオル様の使用人です、お傍を離れるわけにはまいりません》


「そうか……まったく残念なことだな」

「でしたら、ミツナリ様を……」

 カオルちゃんが口を開いた。

「そうだな、訊いてみるとするか」

「はい、お願いします」


「それにしても、お前はずいぶんクロユリのことを気に入ったようだな」

「ええ、これほど美しく聡明な女性はめったにおりませんので、従者に迎えたいほどです」

「たしかにな、気持ちはわかる」

 《恐縮です》


 《あの、キキョウさん、殿下にもう少し目立たない服を作ってもらえませんか?》

「そうですね、確かに目立ちすぎると思います。陛下とお后様にも着替えがいりますね」

「すまんがよろしく頼む」

「はい、お任せください」


「いずれこの借りは返すからな」

 《どうかお気になさらず》

「そうはいかん、そのためにも早く戦争を終わらせなくては」

 《はい》

 殿下の顔は決意に満ちていた。


 《では、私はこれからミツナリ様に会ってまいります》

「うむ、よろしく頼む」




 部屋にはタカユキさんがいた。

 《タカダ様は?》

 《おお、待っていた。師匠は今、宰相のところだ》

 《そうですか、疑われたりはしませんでしたか?》

 《大丈夫だ。陛下は?》

 《くつろいでおられます》

 《それは良かった》

 《何か動きはありましたか?》

 《特に変わったことはない》

 《慎重派の方々は?》

 《それぞれの屋敷に幽閉されている》

 《処刑されたりはしなかったのですね》

 《今のところ、そこまでする気はないようだ》

 《安心しました。陛下も喜ばれるでしょう》



 ミツナリさんが帰ってきた。


 《お帰りなさい》

 《来ておったか》

 《今日、殿下と一緒にエモト様に会ってきました》

 《殿下は納得されたのか?》

 《納得されたというよりは、ご自身で判断されようとしているようです》

 《なるほど》

 《そして、陛下は戦争が終わったら責任をとって退位するつもりだそうです》

 《そうか、そう決断されたか》


 《あの……帝国の賢者になる気はありませんか?》

 《何だ突然》

 《いえ、陛下がカオルちゃんに賢者にならないかと言われて》

 《当然断わったのだろう?》

 《はい、それでカオルちゃんがミツナリ様をと……》

 《私が受けると思うか?》

 《いいえ、ミツナリ様は大陸の賢者様ですからね》

 《おだてても、何も出んぞ》

 《えーっ、そうなんですか?》

 《当たり前だ》

 《それは残念です》


 《冗談はさておき、宰相はどうでした?》

 《ああ、やはり四月に開戦するつもりだ。今は作戦を練っている》

 《作戦は?》

 《当初の首都を包囲する作戦だ》

 《一度に大量の戦力を投入する必要がありますね》

 《そうなるな、東方の部隊も近々移動が完了するそうだ》

 《でしたら、次は王国を参戦させないことですね》

 《そうだな》

 《では明日、王国へ行ってきます》

 《たのむ》

 《はい》


 これまでの経過をタカシ君たちに報告することにした。


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