61 涼絶句する
年が変わっても帝国の人々は新年を祝うこともなく、淡々と時は過ぎていった。
その後何度か会議が開かれ、各地から招集された戦闘員や物資は共和国との国境付近に終結しつつあった。
カズヒロさんからミツナリさんに会いたいという手紙が届いた。
その日の夜、二人で会いに行った。
カズヒロさんが思い詰めた様子で口を開いた。
「何とか宰相を失脚させることはできないのですか?」
「難しいな、それに今はその時ではない」
「何故ですか、自分の思い通りにするために賢者様を殺した人ですよ、憎くはないのですか?」
「確かにカオルの両親を殺したのは許されることではないが、私利私欲のためではない。帝国の未来を思ってのことだ。感情で動くべきではない」
「ですが……」
「お前の言いたいことはわかる、だが今は自重してくれ」
「……わかりました」
二人の家を後にして魔術院に戻った。
《カズヒロさんは思い詰めている様子でしたね》
《そうだな、もっと冷静になってもらいたいが……》
《こうなったらエモト伯爵に全てを話すしかないだろう》
《それしかなさそうですね》
《明日もう一度会えないか訊いてみてくれ》
《わかりました》
夜、エモト伯爵にミツナリさんが会いたがっていることを伝えた。
訓練場で魔術を教えていると念話が届いた。
《クロユリ》
《はい》
《今夜会うことになった、他にも何人かの大臣に来てもらえるそうだ》
《今度こそ納得していただけるといいですね》
《そうだな、出来るだけのことはしてみるつもりだ》
《私はどうすれば?》
《私一人だけで行く。お前は明日の朝部屋へ来てくれ》
《わかりました、お気をつけて》
翌朝早くミツナリさんの部屋へ行った。
お弟子さんたちはまだ来ていなかった。
《おはようございます》
《おはよう、早いな》
《気になって、よく眠れませんでした。それでどうでした?》
《なんとか納得してもらえた。慎重派の大臣も五人来ていて、今日にも陛下を説得に行くそうだ》
《宰相は?》
《同席させないように言っておいた》
三人の弟子がやってきた。
「「「おはようございます」」」
《おはようございます》
「おはよう」
「エモト伯爵が説得してくださるそうだ」
「それはよかったです」
「どんな話をされたのですか?」
「これまでの経緯と今後の見通しを話せる範囲で説明した上で、陛下に宰相とエモト伯爵にそれぞれの五か年計画を提出させることを進言するよう伝えた」
「なるほど」
「それはいいですね」
「これが最後の機会だ。うまくいくことを祈るが、失敗した場合は次の手を打たなくてはならん、そのつもりでな」
「「「わかりました」」」
次の日、緊急の会議が召集された。
「予定通り陛下は宰相とエモト伯爵にそれぞれの五か年計画を提出させることを命じて、それを見た上で開戦に踏み切るかどうかを判断すると言われた」
《他の重臣の方たちはどうでした?》
「それ自体には全員賛成だった」
《勢力的にはどうですか?》
「半々だろう」
《微妙ですね》
そして一週間後、会議が開かれた。
ミツナリさんの説明によれば、宰相は早期に開戦し国土を拡大することが帝国の繁栄に繋がると主張し、対するエモト伯爵は鉄道の整備を優先させ、蒸気機関による工業の機械化により国力を向上させた上で、なお必要であれば開戦に踏み切ることも止むを得ないという見解を示した。そして双方が五年間の具体的なプランを提示して、最終的な決定は明日の会議での皇帝の判断に委ねられたということだった。
《延期となれば五年の猶予があるということですか?》
「そういうことになるな」
《五年でどこまでやれるかですね》
「可能性が示せればいいのだ、焦る必要はない」
《そうですね、できる限りのことをすればいいですね》
「そうだ」
《陛下はどうでしょう?》
「陛下は宰相の言いなりになっていただけで、もともと戦争にあまり乗り気ではなかったからな、期待はできる」
《エモト様がどこまで説得できたかですね》
「そうだな」
翌日の会議で皇帝が参加者全員の意見を聞いた上で、最終的に開戦の延期が決定された。
《うまくいきましたね》
「何とか間に合ったな」
《これから忙しくなりますね》
「そうだな、よろしく頼む」
《はい》
次の日の夜、ミツナリさんの部屋で今後の方針を相談していると、カツヒコさんが駆け込んできた。
「大変です! 宰相が軍を率いて反乱を起こしました!」
「なんだとっ!」
《………》
第三章 完
第三章完結しました。最終章の第四章で行き詰まってしまいました。一日一話は無理です。週二話くらいになりそうです、ごめんなさい。




