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賢者の下男は平凡な日常を望む  作者: 高橋薫
第三章 漆黒の魔女
60/65

60 涼腹を立てる

 くぐった先は森のお屋敷の前だった。


「これはカオルの屋敷だ」

 二人が驚いている。

「立派なお屋敷ですね」

「どこなのですか?」

「それは言えない」

「そこまで信用してはいただけないということですか?」

「いや、念には念をということだ」

「カオル様の安全のためですよね」

「そうだ」

「わかりました」


「この様子では生活に困ってはいないようですね」

「ああ、その点は問題ない。薬屋もうまくいっているようだ」

「そうですか……どんな暮らしをされているのか心配だったのです、よかったです」


 僕が先頭で玄関から入ると、ヒルガオさんが迎えてくれた。

「お帰りなさい」

「お客様を連れてきました、応接間へお通ししてください」

「はい」


 カオルちゃんとキキョウさんを呼んできた。


「リョウが突然言い出すものだから、こんな時間に来てしまった。すまない」

「いいえ、構いません」


「僕から紹介しますね、こちらは執事のキキョウさんです。元騎士で最強の剣士です」

「キキョウと申します。最強というのは忘れてください」

 キキョウさんに睨まれた。

「……それからメイドさんたちです」

 三人を見て二人が驚いているので説明する。

「三人は三つ子なんです。左からアサガオさん、ヒルガオさん、ユウガオさんです」


「よ、よろしく。私はカズヒロ、これは妻のミユキです」

「ミユキです、よろしくお願いします」


「キキョウさんの剣の腕は誰にも負けませんし、メイドさんたちも国家魔術師よりはるかに強いです」

「そうでしたか、それは心強いですね」

「はい、この屋敷にいる限り安全です」

「安心しました」



 ミツナリさんが二人に、これから起きようとしていること、そのために何をしているのかを説明した。


「そういうことですか」

「何か私達にできることはありませんか?」

「今はまだ無い。だが、いずれ二人にも何か頼む時が来るかもしれん」


「私は……リョウを手助けしていただきたいと思います。もちろん危険なことはだめですけど」

 カオルちゃんが口を挟んだ。

「リョウさんの指示に従えばいいのですね」

「できれば、そうしてほしいです」

「おまかせください」


「そうですね、その時が来ましたらお願いします」

「頼ってくださっていいのですよ」

「ありがとうございます」


 その後、ミユキさんはカオルちゃんに屋敷での生活についていろいろと質問をし、カズヒロさんは賢者様が亡くなられてからのことを話してくれた。


 そして三人は帰っていった。


「あの二人は信用できそうですね」

 キキョウさんが安心したようにそう言った。

「大丈夫だと思います」



 いつものようにカオルちゃんと散歩に出た。


「いつかもっとゆっくり話ができるといいね」

「はい、両親のことを訊いてみたいです」

「うん、きっと優しい方だったんだろうね」

「何故そう思うのですか?」

「カオルも優しいから」

「そうですか?」

「うん」



「最近リョウが危険なことをしているようで心配なのです」

「そんなことないから、心配しなくていいよ。今のところミツナリ様のお使いをしているだけだから」

「それならいいですが……これから先は危険が増してくると思うのです」

「そうかもしれない、気をつけるよ」

「約束ですよ」

「うん」


「前にお母さんがね、戦争になったら向こうで暮らしていいって」

「本当ですか?」

「うん」

「うれしいです、でも、そうならないのが一番ですね」

「そうだね」



 そして、二度目の会議が開かれ、戻ってきたミツナリさんが弟子たちに報告した。


「軍としては共和国の首都を包囲して降伏を促すつもりだったようだが、エモト伯爵が資料を見せて、戦争が長期化すれば財政が破綻すると説明すると、陛下も考え込んでおられた」

「では、短期決戦を目指すことになるのですか?」

「まだ分からんが、次の会議でより具体的な作戦が示されるだろう」

「作戦的にはどうなりますか?」

「短期間での終結を目指すなら、真っ直ぐ首都をめがけて侵攻するか、あるいは国境を押し下げた上で停戦に持ち込むかだな」

「それで勝機はあるのですか?」

「動きは筒抜けだろうから首都を目指すのは難しいだろう。」

「それで諦めてくれるといいのですが」

「そこはエモト伯爵次第だな」

「それに陛下が軍を抑え切れるかが問題になりますね」

「まあ、そのまま開戦となっても、共和国に単独で勝てると思わせるためには、むしろ好都合かもしれん」

「師匠は開戦を延期させることを諦めたのですか?」

「そうではないが、最悪の場合も想定しておかねばならん」

「確かにそうですね」


 《では、オオイシ様に報せてきます》

 《たのむ》



 共和国へ行き賢者に会議の内容を伝えた。


「帝国にも余裕があるわけではないということですね」

 《はい、財政は逼迫しているようです》

「それで勝つつもりとは……」

 《いえ、普通に戦えば帝国が勝つ確率が高いそうです》

「では、ミツナリ様の策に期待しますか」

 《王国の派兵を断わらせる件はよろしくお願いします》

「わかっております」

 《では》

「ごくろうでした」




 次の会議において宰相の進言により機関車の製造と鉄道網の整備が一旦凍結されることになった。


「鉄道関連の予算を軍備に回すことになった」

 《やはり、そうなりますか》

「現状では止むを得んだろうな」


 《私は腹が立っているのです。鉱山で働いている人たちは、日常を当たり前のこととして受け入れて、過酷な労働に耐えていました。普段国を意識することなんてないのです。それが国の勝手な都合で戦場へ駆り出されるのです。理不尽ですよね》

「そうだな、まったく理不尽だ」



 時はすでに十二月になっていた。


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